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もはや話題作の主流は「2時間半」なのか? 長すぎない? 90分で逆に新鮮になる作品も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
大ヒット中の『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は上映時間が97分!

映画の上映時間は、どれくらいがちょうどいいのか。だいたい2時間を目安に、特別な「大作」となると2時間30分くらいを予想するだろうか。

歴代のヒット作を振り返っても

『タイタニック』3時間9分

『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』3時間23分

『風と共に去りぬ』3時間42分

あたりは別格として

『アバター』2時間42分(公開版)

『アベンジャーズ/エンドゲーム』3時間1分

など、その年を代表するような作品は、2時間30分を超えるものが目につく。もちろんアート系や、作家性の強い作品、ドキュメンタリーで3時間クラスはたくさんあるが、アクション大作など幅広い客層をターゲットにしたエンタメで2時間30分の作品となると、やはりどこか「特別感」が漂う気もしていた。

「していた」と書いたのは、このところ、特に2021年の今年、ハリウッドの話題作がことごとく2時間30分が目安、あるいは超えてきているからだ。これほど「ほとんどすべて」が長尺になっているのは、過去にも例がないほど。

2021年、洋画のヒット上位作品も

『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』2時間23分

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』2時間44分

と、ともにシリーズで最長を記録している。

そのほかにも今年は

『エターナルズ』2時間36分

『DUNE/デューン 砂の惑星』2時間35分

『最後の決闘裁判』2時間32分

『リスペクト』2時間25分

と、大作感のあるものは、ことごとく2時間30分が目安。この傾向は今後もさらに続き、

『マトリックス レザレクションズ』2時間28分(12/17公開)

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』2時間30分前後予定(1/7公開)

『ハウス・オブ・グッチ』2時間38分(1/14公開)※リドリー・スコットが見つめるGUCCIの大事件

『ウエスト・サイド・ストーリー』2時間36分(2/11公開)

『ドリームプラン』2時間24分(2/23公開)※ウィル・スミスがテニスのウィリアムズ姉妹の父を演じる

『ナイトメア・アリー』2時間30分(3/25公開)※ギレルモ・デル・トロ新作

『ドント・ルック・アップ』2時間25分(公開中、配信は12/24)※ディカプリオ、メリル・ストリープら豪華共演のNetflix作品

観客にとっては、同じ入場料金で長い時間を楽しめた方が「お得感」はあるだろう。配信の活況で、劇場公開作では、よりサービス精神を発揮しなくては……という意識の表れなのかもしれない。しかし2時間30分、またはそれ以上になると、どんなに面白くても体感的にキツい人もいるに違いない。かつて人間にとって、映画の最適な長さは「90分」と言われたこともあった。だからこそ、2時間30分、3時間という長さは、1年の中でも限られた作品にこそ許されていた。

もちろん上記の作品以外にも『ゴジラvsコング』(1時間54分)など、いわゆるアベレージな長さのアクション大作も公開されているが、このところ2時間30分クラスが多数を占める傾向になっているのは事実。

そんな状況で、12/3に公開されて圧倒的な数字で1位になったのが『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』。

マーベルのキャラクター、ヴェノムの映画第2弾だが、この作品、上映時間が97分! エンドクレジットを除けば、正味90分と、まさに人間にとっての最適な長さなのである。人間に寄生して大暴走するヴェノムという豪快なキャラの物語で、他のマーベル作品との絡みもほとんどないことから、作品にとってもちょうどいい上映時間。その分、勢いノンストップで楽しませてくれる。

たしかに2時間30分の作品に比べれば、1時間30分の作品の方が、1日の上映回数は多くとることができる。しかし多いからと言って、観客を集められるかというのは別の話。あくまでもヴェノムの人気によるヒットなのだが、長い作品が目立つ状況で、ヴェノムのスッキリ感は異彩を放っているのである。映画のお得感、体感時間をどうとらえるかは、作品ごとに試されるが、この2時間30分目安の傾向は今後も続くのだろうか。

『ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ』公開中

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映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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