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【妊娠中のアトピー性皮膚炎】安心して使える薬と注意点のまとめ

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

アトピー性皮膚炎は、妊娠中に症状が悪化しやすい皮膚の病気です。デンマークで行われた研究では、妊娠中の女性の半数以上で症状が悪くなったと報告されています。一方、2割ほどの女性では逆に症状が改善したそうです。

妊娠中は赤ちゃんへの影響を考えて、アトピー性皮膚炎の治療に慎重になりがちですが、症状をしっかりとコントロールすることは、お母さんの健康と幸せのためにとても大切なことです。

そこで今回は、北欧の皮膚科医や産婦人科医、そして患者さんを交えた専門家グループがまとめた、妊娠中や授乳期のアトピー性皮膚炎治療に関する最新の意見をご紹介します。妊娠を希望する女性やそのパートナー、妊娠中の女性とそのご家族に役立つ情報が満載ですので、ぜひ最後までお読みください。

【妊娠前・妊娠中のアトピー性皮膚炎治療の重要性】

北欧の専門家たちは、妊娠を希望する女性や妊娠中の女性に対して、アトピー性皮膚炎についての教育が非常に重要だと考えています。

具体的には、以下のようなことを伝えていくことが大切だと言います。

- 妊娠中にアトピー性皮膚炎の症状がどのように変化するのか

- 妊娠中に使っても安全な治療法にはどのようなものがあるのか

- 逆に、妊娠中は避けるべき治療法にはどのようなものがあるのか

- 症状が悪化したときの対処法や、相談先、情報源はどこなのか

これらのことを、お母さん一人ひとりに合わせて、わかりやすく丁寧に説明していくことが求められます。また、産婦人科の先生と協力しながら教育を行うことも大切だと専門家たちは指摘しています。

妊娠を希望する男性や、妊娠中の女性のパートナーの男性に対しても、アトピー性皮膚炎が妊娠・出産に与える影響について知ってもらうことが重要です。妊娠・出産は夫婦二人で取り組むものですから、男性も一緒に学んでいきましょう。

【妊娠中に使える薬】

では、妊娠中のアトピー性皮膚炎の治療には、どのような選択肢があるのでしょうか。ステロイド外用剤は妊娠中でも安全に使用できる薬剤の一つです。北欧の専門家たちは、重症のアトピー性皮膚炎で、塗り薬や光線療法だけでは十分に症状がコントロールできない場合には、内服薬の使用を検討すべきだと言っています。

妊娠中の内服薬の第一選択は「シクロスポリン」という薬です。症状が急に悪化してしまったときには、「プレドニゾロン」という飲み薬を短期間使用するのも適切な方法の一つとされています。

「アザチオプリン」という薬の使用については、専門家の意見が分かれたそうです。産婦人科の先生は使用を支持する一方で、皮膚科の先生の中には、妊婦さんでの使用経験が少ないことから、慎重な意見を持つ方もいたそうです。

「デュピルマブ」と「トラロキヌマブ」という注射薬については、妊婦さんでの安全性のデータがまだ不足しているため、使用に関して専門家の間で意見が一致しませんでした。

一方、「JAK阻害剤」「メトトレキサート」「ミコフェノール酸モフェチル」という薬は、妊娠中は避けるべきだという点で専門家の意見が一致しています。

大切なのは、担当の先生とよく相談しながら、お母さんとお子さんにとって最適な治療法を選ぶことです。

【授乳中の治療】

出産して授乳中になっても、アトピー性皮膚炎の治療は続けることが大切です。授乳中の女性のためのお薬の選択肢もあります。

専門家は、授乳したいと願う女性には授乳を推奨し、授乳中でも使える薬を選ぶように助言します。ただし、症状のコントロールを最優先しなければならないケースもあります。

授乳中に使える内服薬の第一選択は、妊娠中と同じ「シクロスポリン」です。「デュピルマブ」という注射薬も、授乳中の使用が安全である可能性が示されつつあり、選択肢の一つとして考えられるようになってきました。

一方で、「JAK阻害剤」と呼ばれる比較的新しいタイプの内服薬は、現時点では授乳中の使用は避けるべきだと考えられています。

授乳中の薬の選択は、アトピー性皮膚炎の症状の程度、赤ちゃんの様子、お母さん自身の考えなどを総合的に判断して決める必要があります。担当の皮膚科の先生、赤ちゃんのことをみてくれる小児科の先生とよく相談しながら、最適な治療法を見つけていきましょう。

おわりに

アトピー性皮膚炎を持つ妊婦さんや授乳中の女性が、安心して適切な治療を受けられるようにするには、皮膚科と産婦人科の先生方の緊密な連携が欠かせません。

また、女性とそのパートナーに対して、妊娠前から積極的にアトピー性皮膚炎について理解を深めてもらうことも重要です。

赤ちゃんの肌のことを心配するお母さんの気持ちに寄り添いながら、お母さんとお子さんの健康と幸せを守るために、私たち医療者は力を合わせてサポートしていかなければいけません。

妊娠中や授乳中だからといって、我慢せずに、症状でお悩みの方はぜひ主治医の先生に相談してみてください。

参考文献:

Vestergaard C. et al., J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019;33(9):1644-1659. doi:10.1111/jdv.15642

J Eur Acad Dermatol Venereol. 2024 Jan;38(1):31-41. doi: 10.1111/jdv.19512. Epub 2023 Oct 11.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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