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皇室のご静養の役割とは? 天皇ご一家にとって「日常を離れる貴重な機会」

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
ご静養のため那須塩原駅に到着された雅子さまと愛子さま(写真:ロイター/アフロ)

 世の中は夏休みシーズンを迎えているものの、今年も新型コロナウイルスの影響によって、どうやら自粛せざるを得ない状況となっている。

 皇室においても、例年の夏ならば、天皇ご一家は那須や須崎の御用邸へご静養に出かけ、地元の人びととの交流などが報じられてきたが、コロナが流行した2020年から見合わせている。

 昨年は、東京オリンピック・パラリンピックの開催が続いたこともあって、ご静養の予定すら入れることはなかった。そして今年も、新たなコロナ株が猛威を振るい、各方面での活動自粛による経済的な損失に苦しめられている中、そうした国民の窮状に寄り添いたいとの思いから、天皇ご一家の夏のご静養は見送られる公算が大きい。

 しかし、このご静養は、我々庶民の夏休みと違って、単なるバカンスではないのだ。もちろん心身のお疲れを癒すことが目的ではあるが、それ以外にも重要な目的を果たす機会でもある。

◆休養以外のご静養の目的

 ご静養の期間中、天皇陛下やご家族の皆さまは、どのように過ごされているのか、宮内庁に20年以上勤めていた皇室ジャーナリスト、山下晋司さんに伺った。

「昭和天皇は生物学者として、時間があれば研究に充てておられました。静養先の須崎御用邸では海が近いので海洋生物、那須御用邸では植物の研究をされていました。晩年は7月から9月にかけて、途中『全国戦没者追悼式』にご臨席のために一時帰京されますが、1か月以上の間、那須御用邸に滞在され、植物の研究をされていました」

 生物学者としての自身のご研究を深めるための時間。それが昭和天皇のご静養のひとつの目的だったという。その成果は、「那須の植物」という4冊ものシリーズ本の出版に繋がり、さらに「皇居の植物」という本も出されている。

 一方、上皇さまの場合は、昭和天皇とは違った一面を見せていたと言う。

「上皇上皇后両陛下の御用邸での静養は、3日から長くても5、6日と短い期間でした。その間に地元の農家を訪ねたり、葉山ではお友達の家に行かれたりなど、普段なかなか会うことの出来ない一般の人や、旧知の友人・知人とお会いになることが多かったですね。そういった交流の中で、一般の人の価値観やその時代の空気というものを肌で感じようとされていたのではないでしょうか」

 ハゼの分類学の研究者である上皇さまもご研究に熱心なことから、葉山御用邸に滞在中、川魚を調査しようと長時間水に浸かり過ぎて、風邪を引いてしまわれたこともあるという。

 では、天皇皇后両陛下の場合はどうなのだろう。

「天皇ご一家の場合は、愛子内親王殿下がお小さい頃は、楽しい思い出を胸に刻んでほしいとの思いからなのでしょう、那須御用邸に行けば登山や散策など、外に出掛けて楽しんでおられました。須崎御用邸では愛子内親王殿下が記者会見でおっしゃっていたように、ご一家で海水浴を楽しまれていたようです。愛子内親王殿下中心の静養と感じますが、内親王殿下も成年になられましたので、これからは、静養の内容も変わるかもしれませんね」

◆ご静養は日常を離れる貴重な機会

 ご静養と言っても、そこはやはり天皇ご一家。御用邸には、宮内庁侍従職の侍従、女官、内舎人らや大膳課の料理人のほか、皇宮護衛官なども同行する。滞在中は、御所での生活とほとんど同じように、不便をおかけしないというのが原則となっており、仕事の面でも天皇は国事行為があるので、火曜と金曜は内閣から上奏書類を静養先まで持ってきてもらって決裁を行うという。

 上皇ご夫妻の頃から滞在日数が短くなっているのは、こうした関係者への負担も考慮されているのかもしれないと山下さんは語る。

「多くの国民のように土日や年末年始が休みというわけではない天皇には、年に2、3回、一週間程度は静養していただく必要があります。警備の問題があるとはいえ、静養の場所や過ごし方は、前例などにとらわれず、その天皇自身が心身ともにリフレッシュできる内容にすることが重要です」

 また昭和天皇の時代には、ご静養先に外孫(内親王が嫁いだ先の子)が遊びに来て、泊っていったという。皇居内の吹上御所では難しくても、御用邸ではそういうこともやりやすいという。昭和天皇と香淳皇后にとって、外孫は可愛くてたまらなかったようだ。

 上皇ご夫妻に外孫はいないものの、黒田清子さん夫婦が遊びに来て、そのままお泊りになったとしてもおかしくはない。将来、嫁がれた愛子さまがお子様を連れて、思い出深い那須御用邸を訪ねられたら、天皇皇后両陛下にとって、嬉しいサプライズになられることだろう。

 いわばご静養の期間は、天皇あるいは皇后というやんごとなきお立場をしばし忘れ、一人の人間としての日々を振り返ることに費やされているのかもしれない。

「『海の日』の由来は明治天皇にあり 国民の祝日と皇室との深い関係」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20220714-00305358

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。西武文理大学非常勤講師。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)などがある。

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