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中国、国家インターネット情報弁公室が世界に知られたくない天津爆発事情の何か

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

【追記】『シアン化ナトリウム700t』はデマとされていたが、『中国当局は17日の会見で、天津の爆発現場の倉庫に猛毒のシアン化ナトリウムが約700t保管されていたことを認めました。』

http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000056940.html

中国・天津市の当局は会見で、17日に爆発事故の現場付近の水質検査を行い、8カ所で基準を超える有毒の「シアン化合物」が検出されたと発表しました。汚染が最も激しい場所では、基準値の28.4倍の値を記録しました。

http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000056996.html

それでもデマの打ち消しに忙しい中国国営の新華社日報『天津爆発事故に関する10のデマを打ち消す

KNNポール神田です!

中国天津市の工業地帯で現地時間[2015/08]12日夜、大規模な爆発が発生した。新華社は、少なくとも7人が死亡し、180人が負傷したと報じた。

出典:中国・天津の工場で大爆発 その瞬間をとらえた【動画】

いつも、災害の当初の報道は、非常に少ない被害者の規模で伝わる…しかし、その間に事故は拡大している。

これだけの遠方の動画であっても、2回目の爆発は莫大な規模であることがわかる。

それが至近距離となるとさらに激しい。※映像の音声に注意!

天津へ陸揚げされたフォルクスワーゲンの悲惨な台数も映像から確認できた。

中国の動画共有サービス

http://www.youku.com/ やhttp://www.soku.com/でアップロードされた映像がYouTubeに避難してきているのだ。

中国国家インターネット情報弁公室による検閲

中国国家インターネット情報弁公室は[2015/08]15日、天津で起きた爆発に関連してネット上にデマを流したとして、18のウェブサイトを永久閉鎖し、32のウェブサイトを1カ月の閉鎖処分としたことを明らかにした。これらのウェブサイトは爆発発生後、「死者は少なくとも1000人」「天津は混乱し、商店が強奪されている」などのデマを流したという。

出典:50ウェブサイト閉鎖=天津爆発でデマ―中国

「デマ」を流したとして、永久閉鎖、閉鎖処分で中国のネットメディアが活動できなくなっていることは事実だ。メディアは完全に報道の自由は奪われているといっても過言ではないだろう。

そしてゾクゾクと死亡者のカウントは104人と増えていく…病院で手当の数は720人以上。

爆発から3日たっても火は消し止められていないうえ、現場からは有毒物質が見つかり、軍の専門的な部隊が救助活動を行うなど事態の収拾にはさらに時間がかかるおそれが強まっています。現場周辺では、警察が道路の通行止めを続けていて、中国を代表する貿易港である天津港に車が近づけない状況が続いています。天津港は、首都・北京などとの間で物資をやり取りする中国の輸出入の玄関口で、港の機能回復が遅れることで日系企業のビジネスや中国経済への影響の拡大が懸念されています。

出典:天津の爆発 死者100人超 復旧めどたたず

本当に中国のネットメディアは「デマ」を流していたのだろうか?

今も連絡が取れない人は95人に上り、このうち85人が消火のために現場に駆けつけた消防隊員だと明らかにしました。火災発生の通報を受けて現場に駆けつけた多くの消防隊員が爆発に巻き込まれた。爆発は水に反応する化学物質に放水したためだという見方が強まっています。爆発現場の付近には猛毒ガスが発生するシアン化ナトリウム数百トンが保管されていたことも明らかにしました。現場周辺には16日も防護服を着た軍の部隊などが入って原因の調査や行方不明者の捜索を続けていて、爆発で被害を受けた工場や物流の拠点施設の、復旧作業のめどは立っていません。

出典:天津の爆発 95人連絡取れず 多くは消防隊員

気になるのが、防護服を着た軍の部隊だ。火災の装備で飛び込んだプロの消防隊員たちがこれほどまでに見つからない…。しかし、国営の新華社は、トーンのちがった報道を繰り返し、世界に発信する。

「天津爆発事故現場の火災、基本的に鎮火 これまでに46人救出」

http://jp.xinhuanet.com/2015-08/16/c_134522652.htm

112名の死者、720人以上が病院で手当を受け、95名のうち85名、消防のプロが連絡不明な事態。さらに「基本的に鎮火」と「救出」のみを伝えている。

中国の国家権力の歴史と現在

中国共産党の指導者世代図
中国共産党の指導者世代図

いままでの指導者体制の歴史

現在の体制

中国の国家権力
中国の国家権力

『中国国家インターネット情報弁公室』とは…

ここで少し、『中国国家インターネット情報弁公室』という組織を説明しておきたい。

最大の権力は国家主席の習近平シュウ・キンペイである。そしてナンバー2は、中国の行政機関の最高にあたる機関である国務院(日本の内閣に相当)。李克強リー・クーチアン国務院総理が管轄する。二人とも中国共産党第5世代の指導者である。現在の第5世代政治体制を、習近平と李克強の名を取り、「習李(しゅうり)体制」とも呼ばれる。

出典:中国の行政機関の最高にあたる機関が国務院である

そして、この国務院の下に国務院弁公庁があり2011年5月4日に『中国国家インターネット情報弁公室』が設立された。

国務院弁公庁下にある国家インターネット情報弁公室
国務院弁公庁下にある国家インターネット情報弁公室

インターネット情報伝達の方針・政策を実行し、法制度づくりを推進し、関係官庁がインターネット情報のコンテンツ管理を強化するよう指導、調整、督促する。ネットニュース業務および関連業務の審査・認可と日常の監督管理を担当し、関係官庁がネットゲーム、ネットビデオ、ネット出版などネット文化分野の業務配置計画に取り組むよう指導し、関係官庁を調整し、ネット文化拠点作りの計画と実施を推進する。重点ニュースサイトの計画を担当し、ネット公報活動を組織、調整し、法律に基づき、法律・法規違反サイトの調査・処分を行う。関係官庁が通信事業企業、接続サービス企業、ドメイン名登録管理・サービス機関に対しドメイン登録、インターネットアドレス(IPアドレス)配分、サイト届け出登録、接続などのインターネット基礎管理業務に取り組むよう促すことを指導する。職責の範囲内で各地インターネット関連官庁の業務を指導する。同弁公室は新たな人員を置かず、国務院新聞(報道)弁公室に看板を掲げる。同弁公室主任に王晨・国務院新聞弁公室主任が就任

出典:中国、国家インターネット情報弁公室を設置 主任に王晨氏

これだけの権限が認められているから、50もの「デマ」を流したサイトは一気に閉鎖に追い込まれる。いたたまれないのが、18ものウェブサイトが永久閉鎖である。これはメディアへの完全なる言論統制だ。もちろん、共産党一党によるお国の政治に干渉するつもりは毛頭ないが、このような事故が起こっている時に閉鎖へ追い込むくらいの恐怖政治の圧力をかけなければならない大人の事情があるのだろう。

インターネット情報弁公室は、今年の1月から中国版twitterである、「微博(ウェイボ)」6億人ユーザーに実名制を全面導入する方針を明言している。中国のSNSにおいて匿名性や秘匿性は皆無になろうとする。

日本では70年談話や終戦記念日の話題でもちきりだったが、天津の爆発は単なる爆発ではなく、311、いやもしかすると広島原爆クラスのクライシスの情報が隠蔽されているかもしれないというリスクがある可能性を誰も否定できないのではないだろうか?

中国のメディアが骨抜きにされ、新華社の大本営発表しか情報しかないのであれば、中国版の『ウィキリークス』や『アノニマス』こそ、『中国国家インターネット情報弁公室』よりも求められていることだろう。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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