政府「脱石炭」新方針の致命的欠陥とはー現実を直視しない安倍ジャパン
政府は「低効率の石炭火力発電所による発電量を2030年度までに9割削減する」との方針を固めたようだ。読売新聞の報道を皮切りに、NHKや朝日新聞等が相次いで報じている。温暖化を防止する上で、主要な温室効果ガスであるCO2を大量に排出する石炭火力発電の撤廃は急務だ。これまで日本は石炭火力発電を推進し、国際社会から「石炭中毒」と批判されてきたが、今回の政府方針は日本の脱石炭への一歩となる。一方で、政府の方針には大きな抜け穴もあり、環境NGOも政府の新方針を歓迎しつつ、その問題点も指摘している。
◯2030年までに石炭火力全廃が求められている
猛暑や巨大台風、大規模な水害など、既にその牙を私達に剥き始めている地球温暖化。このまま、対策をとらずに温暖化が進行したら、今後、約35億人が「居住不可能」な熱波に苦しむことになるとの予測もある(関連情報)。人類の存亡すらも左右しかねない温暖化を食い止めるための国際的な合意が「パリ協定」だ。同協定での「1.5度目標」(世界平均気温の上昇を1.5度以下に抑えるとする目標)を実現するためには、石炭火力発電の廃止を、OECD諸国で2030年、世界でも2040年には実現する必要がある(関連情報)。
これまで国際社会の批判を浴びながらも、露骨に石炭火力発電の推進を行ってきた日本政府がその軌道修正を行ったこと自体は、ある程度評価できるが、今回の新方針が決して十分なものとは言えないことも事実だ。環境NGO「FoE Japan」は、その声明で「脱石炭に向けた具体的な案が政府からようやく出されたことは第一歩」としながらも、政府が「高効率の石炭火力発電は維持・拡大する」としていることについて「パリ協定の目標実現のため全く不十分」だと指摘。「日本政府は、全ての石炭火力発電所を対象とした2030年までの全廃案を策定すべきである」と求めている(関連情報)。
◯「高効率」でもCO2排出大、コストも高い
今回の政府新方針の大きな抜け穴となっているのは、上述のFoE Japanの指摘のように、高効率型の石炭火力発電については「維持・拡大していく」としていることだ。石炭は他の化石燃料と比較してもCO2排出係数が大きく、高効率型の石炭火力発電(IGCC)であっても、最新型の天然ガス発電(GTOC)に比べ、2倍以上の量のCO2を排出する。また、公益財団法人自然エネルギー財団は、その報道関係者向けの資料の中で「IGCCは、CO2削減効果が小さい、高コスト、技術未確立など、実用性のあるものではない」と指摘している(関連情報)。
同様に、電源開発やJERA(東京電力と中部電力による合弁企業)も「設備価格の高さ」「稼働率低下リスク」「現時点で利用できる炭種が極めて制限される」等、IGCCの問題点について、環境省の有識者検討会に回答している。つまり、「高効率型」とされる石炭火力発電も「維持・拡大」していくようなメリットは無いのだ。
◯原発回帰なら愚の骨頂
今回の政府新方針のもう一つの大きな問題点は、再び原発依存にならないか、ということだ。環境NGO「グリーンピース・ジャパン」も、その声明の中で、石炭火力発電を削減していくこと自体は歓迎しつつ、
と求めている。
脱石炭を口実に日本のエネルギー政策を原発依存に戻そうとするならば、控えめに言っても愚の骨頂だ。新規の原発を、用地を確保し、周辺自治体の同意を得て、建設・稼働させるには、長い年月が必要で、あと10年以内に大きな成果を出すことが求められている温暖化対策には、全く間に合わない。また、原発は助成なしには、今や最も高い発電方法であり、劇的に発電コストが改善された太陽光や自然エネルギーに圧倒されているのが、世界的な状況だ。
原発に使う公的資金があるなら、その分を自然エネルギーにまわした方が良い。「天候まかせ」とされた安定性の問題も、大型蓄電設備や広域融通により解決できるし、実際、既に欧州等ではそうしている。
◯完全な脱石炭こそ必要
インフラ輸出の一環として「高効率の石炭火力発電」をその成長戦略としたのは安倍政権であるが、例え「高効率」であろうが、もはや石炭火力発電そのものに未来はない。すみやかに石炭火力発電の全廃に舵を切り、国外への輸出も諦めた方が、温暖化対策としても経済政策としても、望ましいのである。
(了)