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「スター・ウォーズ/エピソード8」の監督、元エージェントに訴訟される。長年の恩への裏切り

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
元エージェントから訴訟を受けたライアン・ジョンソン監督(写真:ロイター/アフロ)

「スター・ウォーズ/エピソード8」の監督と脚本家を務めるライアン・ジョンソンが、元エージェントから訴訟された。元エージェントであるブライアン・ドレイファスは、「エピソード8」と、その後の同シリーズ作品でジョンソンが受け取るギャラの10%のコミッションと、損害賠償を求めている。

2014年1月、ルーカス・フィルムは、ジョンソンが「エピソード8」を監督する可能性について話したいと、ドレイファスに連絡をしてきた。ドレイファスは、この仕事を受けることを奨励したが、ジョンソンは、自分の企画に集中したいとし、外から来る企画は受けないとドレイファスに語っている。だが、ジョンソンは、ドレイファスとの契約解消後に、「エピソード8」を引き受けた。被告には、ジョンソンのほかに、彼の過去3作品を製作し、「エピソード8」のプロデューサーでもあるラム・バーグマンの名も挙げられている。

米西海岸時間18日(金)、ロサンゼルス上級裁判所に提出された訴状には、以下のように書かれている。

10年以上にわたり、原告ブライアン・ドレイファスは、被告ライアン・ジョンソンの映画のキャリアのために、時間と努力を費やしてきた。高校を舞台にしたオフビートなノワール『BRICK ブリック』から、タイムトラベル物『LOOPER/ルーパー』まで、ドレイファスとジョンソンは、この目標を達成すべく、力を合わせてきた。(中略)この間、ドレイファスは、ジョンソンが、自分の長編映画を作ることを夢見る28歳の映画学校卒業生から、成功を収めた脚本家/監督へと成長するのを目にしてきている。2014年1月、ルーカス・フィルムのプレジデントは、ルーカス・フィルムの将来のプロジェクトについて話し合うことにジョンソンは興味があるだろうかと、ドレイファスに聞いてきた。ジョンソンとドレイファスにとって、明るい未来が開けたように見えた。だが、ドレイファスがジョンソンのキャリアに関わることを、みんなが喜んでいたわけではない。被告人ラム・バーグマンは、ジョンソンが脚本と監督を担当するそれらの映画から、大きなお金を稼げると考えたのである。

ジョンソンのビジネスに影響を与えてきたもうひとりの人物であるバーグマンは、ドレイファスと意見が合わないことが多く、ドレイファスのパワーを抑えようと、大手タレントエージェントCAAを共同エージェントにつけさせ、ついに2014年3月には、ドレイファスを解雇させることに成功した。同年6月には、ジョンソンが「エピソード8」の監督、脚本家に決まったことが発表される。ルーカス・フィルムとの話し合いを先延ばしにしたのは、ドレイファスの解雇を待って、ドレイファスに対するコミッションが発生しないようにするためだったとし、ジョンソンには、公正な取引を行わなかった罪、バーグマンには、意図的に契約の邪魔をした罪があると、ドレイファスは訴えている。

アメリカでは、監督、脚本家、俳優は、通常、タレントエージェンシーと契約している。監督、脚本家、俳優ら(エージェンシーにとってはクライアント)は、エージェントから決まった給料をもらったり、定額の料金を支払ったりするのではなく、成立した仕事のギャラの10%から15%程度を、コミッションとしてエージェントに払う仕組みだ。つまり、仕事が成立しなければ、クライアントにもエージェントにもお金は入らないが、大きな仕事を取ってくれば、双方とも大きく儲かる。ジョンソンとドレイファスの関係に見られるように、若く無名の監督に何か光るものを見出し、キャリアを育てるべく正しい方向に導き、次へとつながる仕事を探してくるのが、エージェントの役割である。ドレイファスの場合は、ジョンソンの最初の長編映画「BRICK」のために、ドレイファスの父を説得して3万5,000ドルを投資させたというのだから、相当に熱心なエージェントだったのは間違いない。だが、ジョンソンは、自分がついに最大のブレイクを迎え、過去最高のギャラをもらえることになるかもしれないとわかった時、そうなる前に、ドレイファスとの関係を断ち切って、彼にコミッションが入らないようにしたのである。

似たようなケースは、過去にも例がある。無名の若手俳優だったクリス・パインは、2002年から、SDBという小さなタレントエージェンシーと契約していた。だが、「スター・トレック」(2009)や「アンストッパブル」(2010)などで、大作映画の主役をになうスターとなった2011年、パインは、メール1通でSDBとの契約解消を申し出て、大手CAAに移籍をしている。翌年、SDBは、今後の「スター・トレック」や2014年の「エージェント:ライアン」を含め、SDBが取り付けた仕事のコミッションは、自分たちも受け取るべきだとの訴訟を起こした。SDBはまた、パインが、「Black & White/ブラック&ホワイト」(2012)のコミッション10万7,650ドルや、「People Like Us」(2012)のコミッション7万5,000ドルを払っていないとも主張している。訴状には、「2002年、パインは、無名で、文字通り演技の経験がまるでなかった。パインと契約してくれるエージェンシーはなく、SDBは、お願いを聞いてあげるつもりで、彼と会うことに合意した。(中略)誰も彼と関わりたくなかった時に、SDBは、彼を新しいクライアントとして引き受けることに決めたのだ。(中略)その後、SDBは、最初の仕事で800ドルしか稼げなかった無名俳優パインを、メジャースタジオの大作映画で主演を務める俳優へと育てていったのである」と書かれている。なのに、パインは、「9年に及ぶ関係を切りたいと思った時、電話1本かける礼儀もなかった」のだ。

昨年10月には、コマーシャルに出た俳優が、やはりコミッションをめぐってエージェントから訴訟されている。2006年に始まり、現在も放映中のドスエキスビールのCMシリーズ「世界で最も興味深い男(The Most Interesting Man in the World)」に出演して有名になったジョナサン・ゴールドスミスは、2014年11月からコミッションを支払わなくなった。支払いをやめた理由として、ゴールドスミスは、「エージェントにはもう十分稼がせてやった」と語ったとのことだ。彼が契約していたゴールド・レヴィン・タレントエージェンシーは、2015年から2016年にかけて、ゴールドスミスが受け取る予定である200万ドルの10%を求めている。訴状の中で、エージェントは、ゴールドスミスは、「世界で最も興味深い男」ではなく、「エンタテイメント業界で最も良心的でない男」だと述べた。これを受けてゴールドスミスはエージェンシーを逆訴訟している。このCMシリーズは、今流れているもので最後になるが、訴訟は、まだ続いている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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