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元横綱・白鵬の間垣親方に聞く 若隆景・豊昇龍ら注目力士への期待と親方としての現在

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
トークショーで質問に答える元横綱・白鵬の間垣親方(写真:筆者撮影)

間垣親方がトークイベントに最多の4日間出演

日本相撲協会は、五月場所中毎日「親方トークイベント」を開催(※観覧募集はすでに終了)。15日間の日程で最多の4日間、本イベントに出演するのは、元横綱・白鵬の間垣親方だ。

5月9日、約30人の観客の前に登場した間垣親方は、事前にファンから集められた質問に次々と答えた。もし力士になっていなければ何をしていたと思うかの質問には「医者になって、レスリングか柔道のオリンピック選手になるかなと思った」と回答。来日当初、なかなか入門が決まらず、帰国を余儀なくされていたが、直前で宮城野親方に声をかけられ角界入りを果たした。入門以降、四股・すり足・てっぽうといった基本を大切にしてきた元横綱。相撲の基礎の徹底は「若い力士たちにも続けていってほしい」と願う。

自身が挙げた思い出の土俵は、憧れだった魁皇・千代大海に勝った一番。2005年初場所9日目の千代大海戦では、伸ばした足を俵にかけてぐっと踏みとどまった瞬間を切り取り、「よく残ったよねここ。実は、この頃からぶつかりで積極的に胸を出していました。受けるときに後ろのひざを曲げてしっかり残ることで、こういった場面に生きたんだと思います」と解説。思わずなるほどと唸ってしまった。

近い将来に新しい横綱が出てきてほしいと語った間垣親方は、スカウトにも精を出し、未来の力士たちの育成に力を入れている。

間垣親方が語る今場所の展望と指導について

トークイベント終了後、間垣親方に話を伺った。

――イベントはいかがでしたか。

「初場所からやっているからね、だいぶ慣れてきたと思います。女性ファンが多いね(笑)。3年後に誰が活躍していると思うかっていう質問は、みんな聞きたいだろうけど答えづらかったかな。私が言うと、その子にプレッシャーがかかってしまうからね」

――今年の初場所から、相撲博物館で「白鵬展」が開催中です。展示物も頻繁に入れ替えています。

「今回は、自分が使っていた座布団に座れるっていうのが目玉です。本場所に来た人しか見られないけど、SNSの時代ですから、全世界の大相撲ファンに届けていきたい。先日は歌手のジェジュンさんが来て、インスタグラムに載せてくれましたよ。今場所は、初場所のときの展示に負けないように工夫しているので、何度足を運んでもらっても楽しめると思います」

現役時代に使用していた座布団に座って写真を撮ることができる(写真:日本相撲協会提供)
現役時代に使用していた座布団に座って写真を撮ることができる(写真:日本相撲協会提供)

――では、今場所の注目力士は。

「若隆景だね。先場所は、優勝すると思って本場所に臨んでいないなかで結果的に優勝しました。今場所はそのプレッシャーがあるのかなと思ったけど、初日は淡々と勝って勢いが続いていると思います。おっつけが一番の持ち味だけど、それでもダメならすかさず四つに組んで勝つ。相撲の幅が広がっていると思うし、それがまさに私のよく言う『型をもって型にこだわらない』っていうところです」

――琴ノ若関や豊昇龍関といった若手の台頭も目立ちます。豊昇龍関は場所前「幕内力士のなかで、自分だけ型がまだない」と話していました。

「それが自分でわかっているならすごいですよ。いまは気持ちと体の資質と若さの勢いで勝っているけど、5年後に同じ相撲が取れるかといったらできません。いまのうちに自分の相撲に合う先輩のビデオを見て研究して頑張ってもらいたいね。千代の富士関も130kgなかったのに、重い相撲が取れた。そういったところを研究すれば、豊昇龍はちょっと面白いなと思いますよ」

トークショーを終えてにこやかな間垣親方(写真:日本相撲協会提供)
トークショーを終えてにこやかな間垣親方(写真:日本相撲協会提供)

――現役を引退して、現在の生活はいかがですか。

「朝稽古がないだけでうれしいです。誰よりも稽古した自信があったから、その仕事をしなくていいのは幸せです。いままでは体をぶつけて痛めていたけど、これからはコミュニケーションで弟子とチームになっていくのが楽しみ。ようやくケガがよくなってきたので、もう少し暖かくなったら胸も出せるかなと思います」

――目指す親方像は。

「いまの師匠のように、自分に厳しく弟子に優しく、です。師匠は私にあれこれ細かく言ったことはなく、上がり座敷にいるだけで存在感がありました。そこで自ら行動・努力しましたし、相撲道は人にいわれてやるのではなく、自分で身につけていくものだと思えました。みんなが足並みそろえていかねばならない現代、時間はかかるかもしれませんが、人それぞれの相撲道を尊重して指導していきたいと思いますね」

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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