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B2のレギュラーシーズンMVP選出は文句なし。トーマス・ケネディが成功のシーズンを過ごせたカギとは?

青木崇Basketball Writer
相手にとっては脅威でしかないケネディの得点力 (C)群馬クレインサンダーズ

 2018-19シーズン、トーマス・ケネディが残した平均27.9点、FG成功率51.2%、フリースロー成功率87.1%、平均3.3アシストという数字は、いずれも日本のリーグでプレーしてきた中でキャリア最高。群馬クレインサンダーズが信州ブレイブウォリアーズとのファイナルに敗れたとはいえ、B2準優勝の原動力となったことからすれば、MVP選出は文句なしと言っていいだろう。

「自宅でディナーを食べていた時、(チームメイトのアブドゥーラ)クウソーがメッセージで知らせてくれたんだ。それまで何も知らなかったから、スマホでチームのページを開いてチェックしてみたら、“ウォー”って感じで驚かされたよ。何か起こるかもしれないという気がしていたけど、実際にそうなったのは知らなかった。その瞬間はありがたいという気持ちになったね」

 MVP受賞を知った時の心境をこう振り返ったケネディは今シーズン、12月23日の八王子ビートレインズ戦で57点、3月30日の青森ワッツ戦で55点を記録するなど、スコアラーとして強烈な存在感を発揮していた。2011年に岩手ビッグブルズと契約して以来8年、得点力のあるフォワードとして活躍していることは、シーズン平均で15点以下だったのが一度しかなかったことでも明らか。しかし、今季のパフォーマンスは傑出している。その理由についてケネディに聞いてみると、キーワードは“機会”という気がした。

「プレーする時間が増えたということだ。昨シーズンは20分くらいの出場時間で20点以上を奪った試合が何度もあった。自分に対して“40分プレーしたら何点取れるんだろうか?”って自問自答していたくらい。パフォーマンスという部分では、20分間で素晴らしい結果が出ていたから、30分、40分となればもっといいパフォーマンスができると思っていた。それが今シーズンで現実になったということだ。B2になってからのルール変更もあり、最初のシーズンは外国籍が3人いてもプレーできるのが1〜2人ということで、“自分がどのようにすればチームに効果をもたらすのか?”ということで順応しなければならなかった。2年目は自分がどうすればいいか理解していた。今シーズンは出場時間が増えたことで、自分の能力を最大限に生かせる状況になったからね」

 B2はB1同様週末に同じ相手と2試合するだけでなく、移動のバスに乗る時間が長いことも多く、それが8時間以上となる場合もある。また、前日の試合終了から17時間後にまた試合をすることがある点でも、コンディションをいかに整えるかが重要。7か月以上という長いシーズンということを考えると、体力的に厳しいと感じる時期もあったはずだが、ケネディは長時間のプレーを熱望し、役割を果たせるようにしっかりと準備をしていた。

「この状況を強く望んでいたんだ。35〜40分という出場時間の長さは全然問題にならなかった。ずっといいコンディションをキープしてきたし、そのための準備もしっかりしてきた。とにかく体のケアをしっかりすることを心がけ、疲労回復のためにいろいろな方法を使い、正しいサプリメントも服用していたよ」

3Pもミドルレンジも着実に決められるシュート力はケネディの武器 (C) 群馬クレインサンダーズ
3Pもミドルレンジも着実に決められるシュート力はケネディの武器 (C) 群馬クレインサンダーズ

 ケネディのキャリアを振り返ってみると、“機会”、巡ってきたチャンスをモノにし、前進することの連続という印象が強い。ミシガン州デトロイトにあるサウスイースタン高校卒業後、NCAAのディビジョン1に所属する大学に進めず、モットというジュニア・カレッジでバスケットボール選手としてのキャリアを続けた。2008年にジュニア・カレッジの団体であるNJCAAディビジョン2トーナメントで全米制覇を経験すると、2008年の秋にデトロイト・マーシー大の3年生に転入。「機会が来るまでしっかり準備をしておくんだ。No.1、No.2オプションではないチームでプレーしていた時でも、自分の機会がやって来た時に準備万端にしておきたかった。5分でも10分でも20分でも、その時間帯でベストの選手であり続けようとした」と語るケネディは、ディビジョン1のチームで過ごした2シーズンとも11点台のアベレージを残し、4年生時にチームのMVPとスポーツマンシップ・アワードの両方を受賞した。

 オンコートでは表情をほとんど変えることなく黙々とプレーする選手で、勝った後に少し笑顔を見せることはあっても、敗戦やレフェリーの笛に対するフラストレーションを表に出すことがほとんどない。大学時代にスポーツマンシップ・アワード受賞という実績からすれば、ケネディが一喜一憂することなく冷静にプレーし続けられるのも理解できよう。そのメンタリティは、落ち着いた性格の持ち主という父の存在もあって、小さい頃から身についていたそうだ。

「恐らく子どもの頃だったと思う。物事に対して高揚しすぎたり、落ち込みすぎたりせず、常にイーブンの状態にいることが大事。その瞬間に起こったことがずっと続くわけではない。いいことも悪いことも永久に続くことはないということ。だから、良くも悪くもその瞬間を楽しむしかない。試合後にいい夜だったと振り返ってエンジョイすることはあるけど、まだ試合は残っているから“次もいいプレーをしよう”、“もっといいプレーをしなければならない”という気分になる。昨日は十分だったというのじゃなく、1日1日をいいと思えるようにしなければならないんだ」

 日本のリーグでプレーする外国籍選手の多くは、パワーフォワードかセンターを本職とするビッグマンだ。しかし、201cmのケネディは、シューティングガードとスモールフォワードの両方をこなせるスイングマン。ビッグマンがチャンスを得やすい状況の中でも、機会を得るためにしっかりと準備をし、コートに出たらチームの期待に応える仕事をしてきた。横浜ビー・コルセアーズでbjリーグ制覇、群馬で2度のB2東地区優勝を経験するなど、日本でのプロキャリアが来シーズンで9年目というのは、ケネディが巡ってきた機会をしっかりモノにし続けてきた成果と言えるだろう。

 “来シーズンも楽しみでは?”という質問をした時、「来シーズンに向けてエキサイティングな気分になっている。新たなチャレンジを楽しみにしている」という答えが返ってきた。ケネディへの取材は5月21日の夕方に行われたが、2日後に広島ドラゴンフライズと契約合意で移籍するというニュースを聞いても、筆者に驚きはなかった。プロバスケットボール選手として大きく飛躍した群馬での4年間を経て、ケネディは新たなチャレンジの機会として広島の地を選んだということ。たとえ所属チームが変わったとしても、来シーズンのB2で質の高いプレーをし続けるだけでなく、広島のB1昇格でカギを握る選手となるに違いない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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