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彼氏と喧嘩になる理由と対処法←元祖「心理学者」が示唆

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

怒りの感情をコントロールする方法、すなわちアンガーマネジメントについて、つとに有名なアドラー心理学はたとえば、次のようにいいます。

――心が不安定な時は話さないようにしましょう。深呼吸を繰り返して心が安定するのを待ちましょう。(要約)

これを対処療法といいます。

たとえば、彼氏につい八つ当たりしてしまいそうなとき、口を閉ざす。深呼吸をする。それができている「お利口さん」な彼女もいますよね。しかし、現場で対処したところで、怒りの感情が根本からなくなるわけではないことは、みなさんご承知のとおり。

では、根本から怒りの感情をコントロールする方法とはどのようなものなのでしょうか。

怒りの感情の本質とは?

元祖「心理学者」であるキルケゴールは、怒りの感情は「なりたい自分」になれない「なれなさ」によって生まれるといいます。つまり、怒りの感情とは、「自分のことが嫌いだ」という気持ちから生まれるということです。

たとえば、同棲中の彼氏が脱いだものをそのへんに放置することに腹を立てている彼女がいるとします。彼女はお利口さんなので、ふだんは怒りません。彼が脱ぎ散らかしたものを黙って拾い、洗濯機に入れます。

しかし虫の居所が悪いとき、彼女は彼に八つ当たり気味に怒ります。これは無論、直接的には、彼のふるまいに対して怒っているのですが、より本質的には、「理想の自分」になれていない自分に腹を立てているということ。

たとえば、「脱いだものを自分で洗濯機に入れることのできる自律的な(大人な)彼とつきあっている自分」を「理想の自分」としているのなら、今まさにそういう彼と交際できていない自分に腹を立てているというわけです。

解決法は2つしかない

キルケゴールは「あらゆる怒りは理想の自分になれていない『自分に対して』の怒りだ」といいます。その言にしたがえば、たとえば職場の誰かに対して怒っている人は、「そいつ」と同じ職場にいるしかない自分に怒っているのであり、タクシーの運転手さんに腹を立てる人は、その運転手さんに出会うしかなかったこの自分に腹を立てているのです。

では、どうすれば怒りの感情を抱かずにすむのでしょうか?

答えは2つしかありません。彼氏が変わるか、自分が変わるかです。彼氏に小言を言った結果、彼が自分が脱いだものを自分で洗濯機に放り込む人になってくれれば問題は解決します。

しかし多くの場合、「他人と自分の過去は変えられない」わけですから、彼氏は変わらないでしょう。その場合はあなたが変化するしかありません。

では、どのように変化すればいいのでしょうか?

どう変化すればいい?

キルケゴールの思想を参照するなら、「生まれ持った使命を知ろう」。これが答えです。

使命とは神様というか、人間よりちょっとばかり偉い存在が私たちにもたらしている何かです。ほら、法事のあと説法するお坊さんが使命という言葉を口にすることがありますよね? その使命です。

もしあなたが、子どもみたいな男性の世話をすることを使命として持たされているのなら、あなたは一生、彼の脱いだものを洗濯機の中に放り込み続ける必要があります。だって、神様がそう言っているのだから。

反対に、大人な彼と対等につきあうことを使命として持たされているのであれば、あなたは自分が脱いだものを自分で洗濯機に放り込むことすらできない彼氏と別れることになります。

つまり、怒りの感情とは、自分がこの世に生まれてきた意味、すなわち使命を知らない人が抱く感情なのです。

アンガーマネジメントの神髄

ちなみに、使命というのはなにも崇高なものではなく、「やっていて違和感のないこと」くらいの意味です。たとえば、 30年間ずっと飲食店をやっており、毎日楽しそうに働いている店主にとっての使命とは、飲食をとおして人々に幸せを提供することでしょう。

というような感じで、使命というむずかしそうな概念を生活感覚に戻して考えることによって、誰でも自分の使命を想像したり考えたりすることが可能です。

キルケゴールは、「親ガチャ」にハズれたことや失恋から、人間洞察をはじめました。彼はなにやら難解なことを言っている元祖「心理学者」かつ哲学者として世界中にその名を知られていますが、じつは生活感覚に戻せるとても身近なことについて話しているのです。

ぜひあなたも、ご自身の使命に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。それこそがアンガーマネジメントの神髄なのですから。

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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