大仁田厚の電流爆破デスマッチリング「特許」について
ハリセンの特許の話を書いたついでに、(大きく言えば)舞台装置系の特許としてちょっと古いネタではあるのですが大仁田厚の電流爆破デスマッチ用リングについて書くことにします。
Wikipediaの「デスマッチ」のエントリーには、大仁田が電流爆破デスマッチのリングを含む装備に関する特許を取得したとの記載がありますが、実際には、特許ではなく、実用新案(第3009589号)です。考案の名称は「格闘技用リング」、出願日は1994年9月29日です。「設営・撤収が比較的簡単でかつ人的・物的コストが低く、しかも観客に対してこれまで同様、スリリングな試合展開を実現しうる、ショーエンターティンメント性に富む格闘技用リングを提供する。」ことを目的とした考案(発明)です。
実用新案は特許と異なり、新規性・進歩性等の要件なしに登録されます。この出願は登録後も新規性・進歩性の評価の請求は最後まで行なわれることなく、2000年9月29日に存続期間満了しています。
プロレスと特許制度に詳しい人であれば、大仁田厚とターザン後藤による最初の電流爆破デスマッチが行なわれたのが1990年なので、この考案は出願時点で公知であり新規性がないのではないかと思われるかもしれません。しかし、この出願は、既存技術の改良発明という書き方のちゃんとした明細書になっているのでその点は問題ありません(弁理士の先生が代理人となってしっかり作られています)。
以下、明細書から既存技術の項目を抜粋します。
つまり、リングそのものを加工するのではなく、場外の床面に有刺鉄線を乗せた板材を配置することで、設営・撤収を容易にした点がこの考案のポイントになっています。以下、効果についての記載を抜粋します。
一点だけ突っ込ませてもらうと「この板材は衝撃吸収部材を介して床面上に配置されるため、試合中に格闘者がリング上から落下した場合でも、格闘者へのダメージを和らげることができる。」とのことですが、有刺鉄線のダメージを考えれば落下の衝撃など気にする意味があるのでしょうか?
ところで、大仁田はこの実用新案がとっくに権利切れになっている2012年に、曙戦で「特許権」を賭けた試合を行なおうとししたりしています(ソースは東スポ(もう元記事は消えていますがソーシャル・ブックマークによる痕跡が残っています))。ビジネスの世界であれば抹消済の権利を取引対象にするのは大問題でしょうが(しかも特許ではなく実用新案ですし)、プロレスの文脈なのでまあいいのかなと思います。
追記:何とも絶妙のタイミングですが東スポWebに「大仁田が電流爆破マッチ用具一式「特許」再申請へ」という記事が昨日掲載されており、この記事も引き合いに出されています。「12月22日を機に電流爆破リング、有刺鉄線ボード、有刺鉄線バット、電流爆破バットの特許及び実用新案に向けて申請します。」ということですが、同じ発明を再出願しても特許化はできませんが、今までにないアイデアを含む改良発明であれば可能です。なお、記事中に「通常、権利を保持するのは10年間のため、6年で消失したというのは登録料の未払いなどが考えられるという。」と書いてありますが、実用新案登録の権利存続期間は現在は10年ですが、1994年当時は6年でしたので大仁田氏のミスということはありません。