ハリセンは特許化可能か?
チャンバラトリオのリーダー山根伸助氏の訃報がありました。私も子供の頃から慣れ親しんでいた芸人さんですので感慨深いものがあります。ご冥福をお祈りいたします。
上記記事では「(ハリセンは)チャンバラトリオが開発した。(山根さんは)“特許取っておけばよかった”と、ずっと言っていました。生涯、継承していきたい」という弟子の方の発言が紹介されています。
ハリセンは特許化可能なのでしょうか?真面目に検討してみましょう。
特許化の要件を大ざっぱに言うと、1)技術的アイデアであること、2)産業上の利用可能性があること、3)世の中に知られていないこと、4)最初の出願であること等があります(他にも公序良俗に反しないこと等がありますが省略します)。以下、ひとつずつ検討します。
1)技術的アイデアであること
特許法では「発明」を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と定義しています。簡単に言えば「技術的アイデア」です。それほど大げさなものでなくても、具体的な物の構造に関するアイデアであれば「発明」として特許の対象になります。したがって、ハリセンはこの条件はクリアーしているでしょう。
一方、「ハリセンを使ったコントのネタ」は技術的アイデアではなく、人の人との取り決めのアイデアなので特許の対象にはなりません。
2)産業上の利用可能性があること
特許法上では「産業上利用できる」発明であることが求められますが、ここでいう「産業」とは工業だけを言うのでははなく広範囲に解釈されますので、演芸の世界で大きな音を出して舞台効果を高める(しかし叩かれた人はそれほど痛くない)というのは十分に産業利用可能性があると言えます。
3)出願時点で世の中に知られていないこと
Wikipedia(ハリセン、チャンバラトリオ)によると、ハリセンはチャンバラトリオの(山根氏ではなく)故南方英二氏が考案したものであるようです。したがって、南方氏が舞台で使う前に出願していれば特許化の可能性はあったことになります。ただし、南方氏が知らないうちに実は同じものが既に使われていたといった場合は除きます。
4)最初の出願であること
日本の特許制度は先願主義なので同じアイデアがかぶったときは最初に出願した人が優先されます。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)でハリセンをキーワードに特許・実用新案を検索してみると、最も古いものとして実用新案出願公開公報昭64-9697が見つかりました。1987年の出願です。考案者も出願人もチャンバラトリオとの関係はわかりませんでした(昔の話のでなんとも言えないところもあります)。この出願は権利化はされていません(古い出願なのでネットからでは審査経緯はわかりません、なお、今の実用新案は無審査登登録主義ですが当時は特許と同じ審査主義でした)。チャンバラトリオがいつからハリセンを使い出したかは定かではないですが、少なくとも1987年にはハリセンは公知だったのな確実ので、この出願は意味なしだと思います(チャンバラトリオが使っていたハリセンの改良発明(考案)なのかもしれませんが)。いずれにせよ、仮に南部氏が使用前に出願していればこの出願が影響することはありません。もっと古い出願があった可能性もありますが、ネットでは調べようがありません。
ということで、もし、南方英二氏が舞台でハリセンを使う前に特許出願あるいは実用新案登録出願をしていれば権利化できていた可能性は十分にあります。なお、仮に特許化できていたとしても、特許の権利存続期間は出願から20年後までなので、権利は今ではとっくに切れていることになるでしょう(ハリセンの考案者が南部氏であるという名誉的記録はずっと残りますが)。
なお、本稿は特許出願しておくべきだったという話をしているのではなく「もししていたらどうなっただろうな~」という単なる仮定に基づいた特許法の解説のための記事ですので、念のため。
追記:別記事(デイリースポーツ)によると、他者に使用を許可した後に特許を取ろうとしたがもう公知になっているので無理といわれてあきらめたという経緯があったそうです。