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佳境を迎えたなでしこリーグ。優勝争いと熾烈な残留争いの行方はいかに?

松原渓スポーツジャーナリスト
大雨の中で行われた一戦(C)松原渓

今季のなでしこリーグも残すところ5試合となり、優勝争いも盛り上がりをみせ始めた。同様に残留争いも佳境を迎えつつある。

今回取材したのは、首位の日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)と、10位(最下位)のコノミヤ・スペランツァ大阪高槻(以下:コノミヤ)の一戦。

【見どころ】

首位のベレーザは、ここまで11勝2分1敗で、公式戦は4連勝中。その内訳も12得点0失点と、盤石の強さを見せている。

この試合で2位のAC長野パルセイロが敗れるなど、他会場の結果によっては早くも次節で優勝が決まる可能性も。今季カップ戦ですでに1つ目の優勝カップを手にしており、リーグも優勝すれば、今季の目標である3冠達成(皇后杯)に向けて、最高の準備ができる。

一方、コノミヤは2勝2分10敗で現在10位(最下位)。

なでしこリーグ1部のレギュレーションでは、シーズン18試合を終えた時点で、10位(最下位)のチームは2部に自動降格、9位は2部の2位との入れ替え戦に回る。コノミヤにとって、残留圏内の8位(浦和レッズレディース)とは勝ち点「5」の開きがあるが、あと5試合あるのだから、追いつけない数字ではない。前節ジェフ戦は1−1と引き分け、7月から続いた公式戦の連敗を6で止めた。浮上のきっかけを掴みたい一戦である。

両チームの今シーズンの対戦成績はベレーザが3勝全勝。リーグ前半戦は4-0、カップ戦は7-0、8-0と、力の差を見せつけている。両チームのスターティングメンバーは以下のようになった。

【ベレーザ】

FW     9田中美南

MF           10籾木結花

MF   14長谷川唯            5隅田凜

MF     20阪口夢穂  7中里優

DF 6有吉紗織 3村松智子 22岩清水梓 2清水梨紗

GK        21山下杏也加

【コノミヤ】

FW      22サラ・グレゴリアス

MF  7成宮唯              10齋藤敏子

MF 11巴月優希 14丸山桂里奈 9虎尾直美  5亀岡夏美

DF      4秋葉夢子 3壷井綾子 8佐藤楓

GK          1上野友紀子

【試合レポート】

会場は、神奈川県大和市の「大和なでしこスタジアム」。

大和駅前には「なでしこの道」も
大和駅前には「なでしこの道」も

同市は女子サッカーに力を入れており、川澄奈穂美や上尾野辺めぐみらをらを輩出した大和シルフィード(3部にあたるチャレンジリーグ)の本拠地でもある。今月22日には、同会場で女子小中学生を対象としたサッカー教室が行われ、元なでしこジャパンのメンバー「なでしこレジェンド」チームが参加しての交流戦も行われた。澤穂希さんや海堀あゆみさんも姿を見せるなど、豪華な顔ぶれとなった。

地面を叩く雨の音が聞こえるほどの風雨の中、キックオフの笛が鳴った。

陸上競技場のトラックには大きな水たまりができたが、ピッチの芝生は水はけもよく、ボールもよく走っていた。

大雨をものともせず、ベレーザの高い技術と連動したパスワークは発揮された。むしろ、滑りやすいピッチでパススピードが早くなり、ワンタッチ、2タッチでスピーディーにボールは動き、技術の差は顕著になった。

ベレーザのようなチームから勝ち点を奪うためには、ラインを低くしてカウンターを狙う戦い方が一つのセオリーだろう。しかし、コノミヤはあえて最終ラインを高く設定し、前線からボールを奪いに行く攻撃的な戦い方を選択した。だが、前線のプレッシャーが甘くなりがちで、ベレーザに裏のスペースを狙われてしまう。

均衡が破れたのは前半19分。

ベレーザは隅田のミドルシュートがバーを叩き、さらにそのこぼれ球を拾った籾木のシュートもバーに弾かれる。しかし、再びこぼれ球を拾った籾木が田中に預けると、田中が冷静に2人を交わして技ありのシュートを沈め、ベレーザが先制した。

さらに、その1分後には、中央で長谷川が仕掛けて前方へスルーパス。抜け出した隅田が冷静にGKを交わして流し込み、2点目。キーパーからわずか4本のパスで崩したこのゴールは、長谷川の判断力と、隅田の思い切りの良さが光った。

42分には、隅田のスルーパスを受けた田中が、飛び出したGKを右にかわして3点目。さらに前半終了間際の44分には、左サイドをオーバーラップした有吉のクロスに阪口が頭で合わせて4点目とした。

後がなくなったコノミヤは後半、FW本田紗希とDF北川和香菜を投入し、再び高い位置から奪いに行った。その狙いがはまり、後半の立ち上がりはコノミヤがペースを握る。成宮や佐藤が惜しいシュートを放つも、枠を捉えられない。

中盤ではテクニックのある成宮が巧みなボールキープでゲームを作り、シンプルに前線のサラ・グレゴリアスを走らせる攻撃が光った。

ニュージーランド代表の10番を背負う小柄なストライカーのスピードは目を見張るものがある。だが、ベレーザはディフェンスリーダーの岩清水と、スピードのあるFWへの対応力を持ち味とする村松を中心に、カウンターにもしっかり対応。コノミヤは前半から守備にエネルギーを費やしてしまったため、後半は運動量が落ち、サポートの遅れも目立った。

60分。

ベレーザは高い位置で奪うと、籾木がペナルティエリアの外から仕掛け、オーバーラップした中里がグラウンダーのクロスを入れると、フリーの田中が決めてハットトリックを達成。5−0と差を広げた。

さらに、後半アディショナルタイムには、交代で入った宮川麻都の浮き球のパスを田中が胸トラップから豪快に左足を振り抜き、この日4点目。

結局、試合は6−0と、ベレーザが圧勝し、2位との勝ち点差「7」をキープした。

この試合の公式記録はこちら

日本女子サッカーリーグ公式サイトより)

敗れたコノミヤは依然として苦しい状況だが、残留の芽はまだまだある。この日、17本のシュートを打ったベレーザに対し、コノミヤも11本のシュートを放った。ゴールまでの道筋は、確実に見えてきている。次節、コノミヤはホームに9位の湯郷ベルを迎える。終盤戦は、上位との対決が控えている。残留に向けて、何が何でも勝利が必要な一戦だ。

この日、他会場で行われた3試合も、多くのゴールが生まれた。

※順位は試合後

・ベガルタ仙台レディース(4位) 3−2 伊賀FCくノ一(6位)

・INAC神戸レオネッサ(3位) 3−2 浦和レッズレディース(8位)

・岡山湯郷Belle(9位) 4−5 AC長野パルセイロレディース(2位)

※アルビレックス新潟レディース vs ジェフ千葉レディースの一戦は25(日)に開催予定

得点女王争いでは、トップの横山久美(長野)がハットトリックを決めて15に伸ばし、首位をキープ。2位の田中美南(ベレーザ)が4ゴールを決めて13に伸ばし、肉薄している。残り4試合、得点ランク争いからも目が離せない。

【試合後選手・監督コメント】

★田中美南(ベレーザ)

ーー4得点について

本当はもうちょっと決めなければいけなかったんですけれど、チームメイトのおかげで4点も取れて感謝しています。

ーー1点目の直前の1対1は防がれましたが、逆に難しいシュートを決めましたね。

はい(笑)試合後にスタッフさんに、「お前は難しいシュートの方が入るんだな」と言われました。4点目(胸トラップからのボレー)もそうだったんです。まずは簡単なシュートを決められるようにしたいですね。

ーー難しいシュートを決める時のコツはあるんですか?

コツはないです。感覚で打っているので入るんですが、逆に(GKとの)1対1は力が入ってしまうというか、「決めて当たり前」というシチュエーションがちょっと苦手ですね。2点目はGKが出てきてくれたので、うまくかわすことができましたけれど。

ーー次節は新潟戦ですね。今季唯一負けている相手です。

新潟にはうまく勝てないというのがあるので、リーグ優勝するためにはここでしっかり新潟に勝ちたいと思っています。チームの勝利のために点を取りたいです。(得点王争いのプレッシャーもありますか?)燃えていますね。

★有吉佐織(ベレーザ)

ーー2試合連続のアシストについて

今日のアシストに関しては、あまり良い質のセンタリングじゃなかったんです。ただ、(阪口)夢穂がしっかりキーパーの位置を見て、合わせてくれました。今はブロックを作られてもサイドから崩してクロスからの得点も増えているので、あとはもう少しクロスの質を上げていきたいですね。 中を固められることは多いので、サイドでいくら崩せても、良いボールが入らないと弾かれてしまうので。

ーー優勝が近づいてきました。

1試合1試合が大事だなと思っています。質を高めていくという意味では優勝はあまり意識せずにやっています。皇后杯は一発勝負(トーナメント形式)なので、チームのレベルも個のレベルも上げていかなければいけないと思っています。

ーー次節については?

新潟戦はあまり良いイメージがないですね。ただ、最近は守備から入って、高い位置で奪ってショートカウンターなど、今までのベレーザにはなかったような形でも点が取れるようになって、カップ戦で優勝できました。今日の試合のように上手くパスを繋ぐ形もあるし、それぞれ90分間の中で上手く使い分けられればベレーザの時間帯も多くなると思います。「戦い方の幅を持とう」と、(長谷川)唯やカツオ(村松智子)とか、左サイドで絡む選手とはよく話をしていますね。

★隅田凜(ベレーザ)

ーー1ゴール1アシストです。

大和での試合ということで、地元の知り合いもたくさん来てくれたので、絶対に点を取りたいなという気持ちで試合に入りました。良い形でたくさん得点が取れましたが、後半の立ち上がりは攻め込まれたり危ないシーンが多くなったのは課題です。

ーーミドルシュートや抜け出した場面など、判断に迷いがないですね。

シュートを打ったシーンは、最初なので思い切って振り抜こうと思ったんですが。抜け出しのタイミングは、練習でもいつも意識してやっているので、練習通りできました。 良い形でトップにボールが入って、落としてまた裏を狙う形は自分たちの持ち味でもあるので、続けてやっていきたいですね。

ーー特に意識して取り組んでいるプレーはありますか?

左サイドはコンビネーションで崩していけている強みがあるんですが、(私がプレーしている)右サイドはどちらかというとシンプルに、裏に抜け出す動き出しのところで狙っています。最近は右サイドからのクロスで点も入るようになって、(右サイドバックの清水)梨紗も自信を持ってプレーできていると思いますし、同じサイドで長年やってきたので、共通理解もできてきています。

ーー次節については。

新潟は守備が堅くて、1回攻められたところのその1回のチャンスを決められている印象があります。早い時間に先制点を取ることが、ベレーザらしいサッカーができることにつながると思います。

★本並健治監督(コノミヤ)

ーー試合を振り返って

ラインを高く保って全体をコンパクトにして、高い位置で奪って攻撃に持ち込む、という狙いを持って入りましたが、ベレーザは縦の関係で飛び出すタイミングが上手かったですね。最終ラインをもっと上げ下げしないいけないんですが、ラインを高く保つだけで精一杯になってしまい、前半は(最終ラインの)裏へのボールでほとんどやられてしまいました。前半はなるべくぜロ(失点)でいこうと言っていたんですが、同じような形で取られてしまって。ピッチの中で修正できるようにしたいですね。後半はその点を修正して、新加入のメーガンをFWに入れて当てていこうというプランで臨みました。

相手がベレーザなので、7、8点は取られる覚悟でやっていました。ここまできたら(残留するために)得失点は度外視して、勝ち点を取ることにこだわっています。

ーー成宮選手が攻撃の糸口になっていましたね。

あと1人2人攻撃に絡めればよかったんですが。2トップにボールが入れば、3人の関係で点を取るチャンスはできるかな、と手応えも感じています。

ーー残り4試合でチームとして高めていきたいところは?

プランとしてはまず失点しないこと。しっかり粘りながらサラ中心にカウンターで点を取る。守備では上下左右をもっとコンパクトにしたいですね。

ーー攻撃面では、カウンターの精度は高まっているのでは?

点が入ればカウンターも有効だったと言えますが、奪った後のファーストパスがつながらないと話にならないです。つながればチャンスになるところで取られるケースが、今日もすごく多かったので。そう考えるとボランチのところでそういったミスを回避できればもっとチャンスになるのかなと。本人たちも次の試合(9位の湯郷との残留争いの直接対決)が山場になることはわかっているので、メンタル的に落ちないようにしたいですね。次の試合は、負ければ落ちる(降格)するつもりで、勝てればさらにその上が見えてくる。ホームで地の利もありますし、一番大事なゲームだと考えています。

★成宮唯(コノミヤ)

ーー試合を振り返って

今までベレーザと対戦して、大量失点でやられているので、今回は最少失点、なおかつ勝利できたら、という風に思っていたんですけれど。カップ戦の時よりは繋げていますし、シュートを打てた局面も多かったと思います。攻撃面では、練習からサラ(・グレゴリアス)とのコンビネーションを意識してやっています。自分がボールを持ってサラに良いパスを送れたら、今日のようにシュートまでいけると思います。サラのスピードはなでしこリーグで1番だと思うので。

ーーU-23の合宿に選ばれた後、自身の変化はありましたか?

そうですね。U-23で久しぶりに代表合宿に行って得るものも多かったですし、なでしこジャパンの高倉監督がU-23の監督でもあるので、求められているものも明確に分かりましたし、自分に足りないものも明確に分かりました。(高倉監督が)リーグも結構見に来てくださっているので、そこでしっかり成長を証明して、上に行きたい、という気持ちは強いです。

ーーテクニックは持ち味だと思いますが、ベレーザのようなテクニシャン揃いのチームと対戦して、何を感じますか?

足元は自分の強みだと思っているので、小さい中でもパンパンパンと繋いでいけるようなサッカーは、見ていて理想ですね。ただ、高槻は細かくつなぐというよりは縦に速い攻撃が特徴なので、そこは使い分けられられるように意識しています。U-23日本女子代表の合宿でもテクニックは求められていたので、いつか(ベレーザの選手たちと)代表などで一緒にやってみたいなという気持ちはありますね。

ーー次節、湯郷戦がすごく大事な試合になりますね。

はい。前期、湯郷には1−0で勝っています。宮間(あや)さんが出るかどうかは分からないですが、(私たちが)やることは変わらないです。得失点差よりもまずは勝ち点を取っていかなければいけないので、絶対に勝ちたいです。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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