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先勝バルサ、引き分けバイエルン。CLの両横綱どちらが優勝に近いか

杉山茂樹スポーツライター

チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦を前に、ブックメーカー各社から両者互角の本命と見られていたバルセロナとバイエルン。バルサがその第1戦で、アーセナルに先勝(2−0)したのに対し、バイエルンはユベントスに引き分けた(2−2)。バルサ、バイエルンを横綱とすれば、アーセナル、ユーベは関脇、小結クラス。となれば、番狂わせの期待はそれなりに高まってしかるべきだろう。しかも横綱にとってはアウェー戦だ。

ユーベは0−2から2−2に追いつく展開だった。スコアの上ではよく頑張った。しかし内容に目を凝らすと、番狂わせへの期待は湧いてこない。両者には大きな差があることを改めて痛感した。

むしろ健闘したように見えたのはアーセナル。結果は0−2ながら、0−0の時間は長く、先制点を奪われるまで、バルサをいやなムードに追い込んでいた。

バルサとバイエルン。ジョゼップ・グアルディオラが監督に就任して以来、両チームは兄弟チーム同然の関係にある。仲の善し悪しではなく、サッカーのスタイルにおいて、だ。布陣はともに4−3−3。ヨハン・クライフがバルサに持ち込んだものが息づいているわけだが、両チームの実際の布陣を重ね合わせてトレースしてみると、微妙な違いがあることが分かる。

4−3−「3」の「3」がより広く開いて構えているのがバイエルン。ユーベ戦に先発したアリエン・ロッベン(右)、ドウグラス・コスタ(左)は、アーセナル戦に先発したバルサのリオネル・メッシ(右)、ネイマール(左)よりライン際にいた。

バイエルン、バルサともども、ユーベ、アーセナルが自軍に強固なブロックを形成しガシッと引いて構えたので、簡単に前進していけない状況にあった。「引いて構える相手にどう対処すべきか」とは、日本代表がアジアの弱小相手と対戦した時に出現するお決まりの問いかけだが、回答は「サイド攻撃」で世界的に一致している。

バルサもバイエルンもサイド攻撃を得意にするチームであることは指摘するまでもないが、とはいえ、それぞれには差があった。バイエルンの方が効果的な崩し方をしていた。両ウイングが目一杯開いて構えていたので、ボールはそこまでよく届いた。サイドの高い位置まで運ばれていった。そしてそこが、サイド攻撃の基点になっていた。

対するバルサは、メッシ、ネイマールにボールがなかなか到達しなかった。ボールがDF→MF→FWの順に運ばれていったのがバルサだとすれば、バイエルンは一気に進んだ。ロッベン、D・コスタにボールがよく収まりやすいサッカーをした。

相手の攻撃に先に音を上げたのはユーベだった。前半43分に先制点を、後半10分に追加点を許した。後半26分まで0−0で耐えたアーセナルと比べれば、差は歴然。そしてそれは、バイエルン、バルサのサイド攻撃の質と深い関係があると思う。

圧巻だったのはバイエルンの先制点。右の深い位置からロッベンが折り返したボールが左サイドに流れると、今度は左ウイングのD・コスタが中央に折り返す。ロベルト・レバンドフスキーが真ん中で潰れ、こぼれ球をトーマス・ミュラーが流し込んだというシーンだが、これこそがバイエルンの特徴であり、バルサとの若干の違いだと思う。

サイドバックのポジショニングも少し異なる。バルサが常時「大外」で構えているのに対し、バイエルンは内に構えることがしばしばある。サイドバックとウイングの関係が、外(サイドバック)と内(ウイング)にあるのがバルサだとすれば、バイエルンは内(サイドバック)と外(ウイング)。バイエルンは前方ほど広がりがある。扇形に近いイメージだ。

サイドバックがウイングの外を回るのではなく、サイドバックを開いて構えるウイングの内側に入り込ませようとする狙いが見え隠れする。

バイエルンとバルサ。違いをもう一つ述べるなら、それぞれの完成度だ。バルサがほぼ100%なのに対し、バイエルンは70~80%。スタメンの顔ぶれに変化がなさそうなのがバルサ。バイエルンは試合毎に変わる。選択肢が多くある。余力という点でバイエルンはバルサに勝っている。

両者は昨季、準決勝で対戦。通算スコア5−3でバルサが勝利したが、ロッベン、フランク・リベリーのバロンドール級の両エースが怪我で不在だったことが、その最大の要因だった。両者健在の中、普通に戦っていたら結果はどうなったか。先日のユーベ戦では、後半39分、リベリーがD・コスタに代わり登場。元気のいい姿を見せていた。

ブックメーカーの優勝予想は、バイエルンがユーベに引き分けたことで、2強並列ではなく、バルサ優位に転じている。バルサ、バイエルン、レアル・マドリードが等間隔で並ぶ展開だ。

バイエルンがもう少し攻めあぐね、バルサのように遅い時間帯に点を奪っていれば、ユーベに同点に追いつかれることはなかった。アウェーで2ゴールを奪った気の緩みが出ることはなかった。つまり、ブックメーカーは少しばかり大局を見誤っている。両者イーブン。むしろ51対49でバイエルン。僕はそう思っている。

(集英社 Web Sportiva 2月25日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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