コロナ禍の2021年を振り返り 中国の食料安全保障と食品ロス削減
*本記事は『SDGs世界レポート』(1)〜(87)の連載が終了するにあたって、2021年12月1日に配信した『中国の食料安全保障とカーボンニュートラル戦略 SDGs世界レポート(73)』を、当時の内容に追記して編集したものです。
2021年の中国はニュースに事欠かなかった。2021年の8月に核搭載可能なスーパーソニック・ミサイルの実験をしたかと思えば、9月にはTPP(環太平洋経済連携協定)への加盟を申請し、10月には津軽海峡や大隅海峡を中国艦5隻がロシア艦5隻と並んで通過してみせ、11月には米国務省に中国は2030年までに1千発の核弾頭を準備しようとしていると暴露された。
中国が隣国であることが怖くなってくるような重いニュースにまじって、ひと昔前の中国を思い出させるような心温まるニュースもあった。
雲南省、ゾウたちの冒険と帰還
16頭のアジアゾウの群れが、ミャンマーやラオスと国境を接する中国の雲南省西双版納(シーサンパンナ)の自然保護区から、2020年3月に突然北上をはじめ、雲南省を1年半かけて旅してまわり、2021年8月にようやく自然保護区に戻った(1)。
このアジアゾウの群れの移動はライブストリーミングされ、母ゾウが赤ちゃんゾウの世話をしたり、仲間が迷子になったときには引き返して40分以上も待ったり、ドローンの影を追いかけて影踏みをしてみせたりと、群れの行動は中国だけではなく海外からも注目を集めた。
アジアゾウは中国で保護動物に指定されているため、地元政府は対策本部を立ち上げ、ドローンを使って群れを追跡し、トウモロコシやバナナなどの餌でたくみに群れを誘導して、人の多い町や村には近づかないようにした。それでもゾウたちに荒らされた農産物の被害は、地元政府などが加入する野生動物被害の保険でまかなわれたという。
日本だったら害獣扱いされて駆除されるか、麻酔銃を使って捕獲されて、すぐに保護区に戻されるところだが、様子をそっと見守るという中国の対応は、いかにも大陸的で、人の温もりが伝わってくるようなすばらしいものだった。
中国政府の考える自然保護
ゾウの群れが帰還した2ヶ月後、冒険の舞台となった雲南省の昆明で、中国で初めてとなる国連の環境会議「生物多様性条約締約国会議(COP15)」がオンラインで開催された。
中国の習近平(シー・チンピン)国家首席は開会式の基調講演で、工業化によって生じた問題を解決しつつ、地球の限界内(プラネタリーバウンダリー)で生活し、グリーンで低炭素な循環型経済を構築することの重要性を強調した。また、発展途上国の生物多様性を保護するために15億元(約232億円)を拠出することを表明した(2)。
注)三菱UFJ銀行の2020年の年間平均為替相場(TTM)CNY1=JPY15.48で計算(以下、同様)
気候変動の影響、千年に一度の豪雨
2021年7月に中国河南省で、「千年に一度」という観測史上最高の降水量を記録した豪雨があり、地下鉄が浸水して逃げ遅れた乗客が12人亡くなった。中国では2020年も気候変動が原因と思われる豪雨災害がつづき、農作物にも甚大な被害が出ている。
2020年の農作物被害については藤和彦氏(経済産業研究所)の「米作地帯の長江流域で大雨 コメ自給に赤信号か」(3)という記事がとてもわかりやすかったので、以下に紹介させていただく。
中国の主要穀物である小麦、大豆、トウモロコシの生産地は中国北部だが、米の生産地は南部にある。水稲の作付け面積は南部の長江流域だけで中国全体の6割を占める。中国政府が2021年1月に発表した報告書には、「昨年南部地域は1998年以来最も深刻な増水に遭遇し、農作物の被災面積は約1996万ヘクタール」に達し、中国の全耕地面積の約15%に相当する甚大な被害だったとある。
しかし、長江流域の水田がこれだけの被害を受ければ米不足になっただろうという予想に反して、報告書は「全国レベルで引き続き米の供給は順調だった」と総括していたという。
この2020年の米生産地の豪雨災害に対して中国政府のとった対策は、①増産、②食品ロスの削減、③備蓄米の放出、④海外からの緊急輸入だった。
中国の穀物自給率、実際は?
中国の食料安全保障白書には穀物自給率95%を維持とあるが、日本経済新聞は、愛知大学名誉教授の高橋五郎氏の試算(カロリーベース)から、主要な54品目の食料について、2000年の94%、2005年の89%、2010年の83%、2018年では約80%と低下しているのではないかと報じている。2020年は天候などの影響でさらに減少して76%程度になっている可能性もあるという(4)。
注)日本の農林水産省では、各国の食料自給率を定期的に発表しているが、中国は含まれていない。「データが不十分」であるためだという。
確かに豪雨災害後の2020年8月、習近平国家主席が中国の食品ロス問題について、「衝撃的で心が痛む」と言及し、「国民の問題意識を高め、倹約の習慣を養い、浪費は恥ずべきことで、倹約は称賛に値する社会環境を育成する」と異例の声明を出している(5)。
中国の食品ロスに関する動画(出典:New China TVのYouTubeチャンネル)
Campaign against food waste in China | Stories shared by Xi Jinping
https://www.youtube.com/watch?v=z7pmF1PCSng&t=218s
どの国でも国家元首が食品ロス問題について言及することはまれだ。しかも、あの習近平国家主席の言葉である。2020年には豪雨災害のほかにも、コロナ禍やトランプ政権の米国との貿易摩擦もあり、この言葉を中国の食料安全保障と結びつけて論じる報道が多かったのも無理はない。
前述の2020年の豪雨災害で中国政府の取った4つの対策のうち、「食品ロスの削減」について詳しく見てみよう。
中国の食品ロス
まず中国の食品ロスの現状をおさえておきたい。中国の食品ロスの推計値は、実にさまざまな数字があって、どれが実情を反映しているのかわかりにくい。
おそらく中国の食品ロスの量としてもっとも引用されることが多いのは、中国の地理科学天然資源研究所が2018年に出した報告書の数字である。北京や上海などの中国の大都市の消費者は2015年に1,700万~1,800万トンの食品ロスを発生させており、これは3,000万~5,000万人の1年間の食料をまかなうのに十分な量だというもの(5)。
中国国営テレビ局CGTNによると、公式統計では中国では年間約5,000万トンの穀物が浪費されているという。また、中国ではコールドチェーン(冷蔵供給網)の不備と過剰供給のため、野菜の生産量の25%が消費者に届く前に廃棄されているという(6)。
国連環境計画UNEPは「食品廃棄物指標レポート2021」の中で、中国では年間9,165万トン(不可食部含む)の食品ロスが発生していると推定している(7)。
2021年7月15日に科学誌『ネイチャー』(8)と『ネイチャーフード』(9)に掲載された研究によると、中国では2014年〜2018年の間に中国の農産物年間生産量の27%に当たる3億4,900万トンが廃棄されているという、にわかには信じられない推定値となっている。他にも外食から約4,500万トンの食品ロスが発生している。
研究者らは、中国の食品ロスから放出される温室効果ガスは、英国やオーストラリアなどの国家排出量に匹敵すると説明している(10)。
中国の食品ロス削減法
そのため2021年4月24日に全国人民代表大会で、中国版食品ロス削減法である「反食品浪費法」が可決され、4月29日に発効されている(11)。
この法律は以下のようなものである。
•飲食店には、食べ切れないほどの料理を注文して食べ残した客に対して、廃棄料金を請求する権利がある
•利用客に食べ切れないほどの量の料理を注文させた飲食店には、最高1万元(約15万円)の罰金が科される
•常に大量の食品を廃棄している飲食店には、最高5万元(約77万円)の罰金が科される場合がある
•「大食い動画」を配信した者には10万元(約155万円)以下の罰金が科される
•地方政府は廃棄物対策の進捗を報告し、取り組みを強化するための方策を提案する
違反者には罰則が用意されているというのが、日本の「食品ロス削減推進法」との大きな違いである。
「反食品浪費法」の成立を伝えるツイート(出典:twitter)
https://twitter.com/Chinamission2un/status/1387618894534389760
食品ロスの国際会議が中国で開催された意味
2021年9月9日〜11日にかけて、山東省で第1回食品ロス国際会議(International Conference on Food Loss and Waste)がオンラインと対面のハイブリッドで開催され、G20の農相や国際機関の代表者が参加した。
習主席は祝辞で、「食料安全保障は人類の生存にかかわる根本的な問題であり、食品ロスを削減することは食料安全保障の重要な過程だ。現在は新型コロナウイルス感染症が世界で拡大しており、食料安全保障は試練に直面している。各国は世界の食品ロスを着実に減らすための行動を加速せねばならない」と語っている(12)。
この食品ロス国際会議では、以下の10のことが合意された。
1)食品ロスを減らすために、主要分野と協力の方向性を提案
2)国際協力を促進するためのメカニズムを構築する(第2回国際会議の開催)
3)山東省に国際的な食品ロスの研究開発施設をおく
4)持続可能な生産方法の提唱
5)収穫過程での食品ロスの防止
6)保管中の食品ロスの防止
7)加工の食品ロスの防止(副産物の利用促進含む)
8)物流の食品ロスの削減(物流の標準化)
9)消費の食品ロスの削減(光盤運動)
10)食品節約の意識向上(食品保存のための法律、規制など)
開催地となった山東省は、黄河流域の肥沃な穀倉地帯であり、国産種子の開発から、穀物の生産・保管・加工・消費まで、食にまつわるすべての供給網が整っている。また、国営の最新穀物貯蔵庫には、内部温度循環制御などの先進技術が採用されており、保管中の穀物損失率は0.2%以下に抑えられているという(13)。
そもそもこの国際会議は中国政府がG20などに呼びかけて実現させたもの。食品ロス問題であれば、中国が世界を牽引していけるという自信の表れなのだろうか。
2週間後の2021年9月23日には国連の「第1回食料システムサミット」がオンラインで開催されている。コロナ下で食料供給網の脆弱性が改めて注目されたこともあり、2020年から2021年にかけては世界で食料の大切さが再認識された年として記憶されるかもしれない。
国連食料システムサミットでの中国の発言
中国代表の発言の要旨は以下のとおりである(14)。
•人口の多い中国では食料安全保障が最優先事項である
•中国の食料生産力は飛躍的に向上し、2020年は6億6,950万トンに達し、6年連続で6億5,000万トンを突破している
•中国は、世界の耕地の9%以下で生産され、世界の食料生産量の20%を占める食料で、14億人の人口(世界人口の18%)を養うことで、世界の食料安全保障に多大な貢献をしている
•中国からの提言は次の3点。①食料生産能力を高める。②食料供給網の確保。貿易の自由化を積極的に推進し、投資を促進し、不当な貿易制限を解除し、食品ロスを減らして食料供給のアクセス性を高める。③食料と農業の管理を強化
食料安全保障と食品ロス削減
2021年11月1日、中国政府は国内の食料安全保障をさらに強化するため、農産物の収穫後の損失や、家庭からの食品ロスを減らすための新たな行動計画を発表した(15)。
具体的には、複数の耐性を持つ農作物の品種をつくりだすための種子基準、収穫後の損失を減らすために穀物乾燥機への補助金、ブタやニワトリなどの飼料にしているトウモロコシや大豆かすの代替・置換の促進、農作物を原料とするバイオ燃料の規制などである。また、中国政府は、廃棄物評価指標の設定など、食品ロス問題に関するデータの改善にも取り組むとしている。
中国は世界最大の豚肉消費国であるが、2019年に蔓延したアフリカ豚熱(AFS)により養豚農家は壊滅的な打撃を受けた。以来中国では企業による工業的畜産が盛んになり、ブタの飼料にする需要で、海外からの穀物の輸入量が、大豆は10年で2倍、トウモロコシは2年で3倍と急増した。そこで中国政府は、食品ロスの削減に取り組むことで、輸入農産物への依存度を下げ、自国の食料安全保障の脆弱性を低減しようというわけだ(16)。
さらに、食品ロスを削減することで、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの発生を抑え、中国が公約としている2060年のカーボンニュートラルの達成を加速させることにもなる。なんと言っても、食品ロスが原因の温室効果ガスは全排出量の8〜10%を占めており、もはや排出量削減対策として食品ロスを無視することはできない状態なのだ。
食料のパニック買いに発展
食料安全保障強化の一環として、中国商務部は、地方自治体に対して「これからの寒い時期に備えて、野菜や肉、食用油などの食料品の供給と価格を安定させるように」と指示を出し、市民に向けて「家庭では、日常生活や緊急事態に備えて、一定量の生活必需品を蓄えておくように」と通達を出した。
するとSNSで、「緊急事態」という言葉は「台湾との有事が近い」という意味で、それで当局は市民に食料の備蓄を呼びかけたのではないかという憶測を呼び、パニックになった市民が食料の買い占めに走り、スーパーの棚から米や小麦粉などの食料品が消える事態になった。
スーパーに食料品を求め殺到する市民(出典:SCMP YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/watch?v=Udg2Ow0TfKU
こうした事態を受け、商務部は中国の食料供給に差し迫った危機はないと声明を出し、国営メディアも「今回の通達は、新型コロナのロックダウンや寒波に備えるためのもので、本当に必要なものだけを買うようにしましょう」と火消しに追われることになった(17)。
政府がいくら中国の穀物自給率は95%を維持、食料安全保障は万全と言っていても、今回の食料品のパニック買いのように、市民の不安が目に見える形になってしまうことがある。食料安全保障というのは、中国と言えど薄氷を踏むようなものだということなのだろう。
COP26での中国
共産党の第6回全人代が控えていたため、習主席は2021年11月に英国で開催された国連の「気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)」には出席せず、「再生可能エネルギーを精力的に開発し、大規模な風力発電所や太陽光発電所を計画・建設する」と声明文を出した(18)。
声明文では、世界最大の温室効果ガス排出国としてエネルギー消費量の上限や、2026年とされている石炭の使用量削減の開始時期の前倒しについて触れることはなかった。
中国は、対立の続く米国と、メタンの排出削減での協力を含む、2030年までの温室効果ガス削減対策を加速させる共同宣言を行い注目を集めた(19)。
さらに最終盤になって、石炭発電に大きく依存する中国がインドと共に、石炭を「段階的に廃止する」という表現に異議を唱え、「段階的に削減する」というやや弱い表現に修正された「グラスゴー気候合意」が採択されてCOP26は閉幕した。
このように中国は、たとえ習近平主席が出席していなくても、サミットの成果を左右させられるのだと、その存在感を改めて印象づけた。
中国の温室効果ガス排出削減目標
これまでのところ中国政府は2030年前に二酸化炭素排出量のピークを迎え、2060年までにカーボンニュートラルを達成するために、「自国の排出削減目標」の規模を拡大することと、2030年までにGDP当たりのCO2排出量を2005年比で65%以上削減すること、一次エネルギー消費に占める非化石燃料の割合を約25%にすること、森林蓄積量を2005年比で60億m3増やし、炭素吸収能力を増加させること、風力発電と太陽光発電の総設備容量を12億キロワット以上にすることを公約している。
中国の農業食料システムの現状
国連食糧農業機関(FAO)によると、中国における温室効果ガス排出量は、1990年の38.5億トンから2018年には132.3億トンに増加し、世界全体の排出量に占める中国の割合も、1990年の9.5%から2018年には23.0%と増加している。
中国の農業からの温室効果ガス排出量は、1990年の6億トンから2018年には7.1億トンに増加し、28年間で18%の増加となった。これは中国の農業の機械化が進んだのと、食品加工、倉庫、輸送、卸売、小売からの排出量が大幅に増加したためである。
農業はメタンや一酸化二窒素などの温室効果ガスの排出源でもある。中国における農業生産活動からのメタンおよび一酸化二窒素の排出量は、中国全体の排出量のそれぞれ40%以上、50%以上を占めている。
2060年カーボンニュートラル目標達成に向けた農業食料システムの変革に関する政策提言
2021年5月、中国農業大学世界食料経済・政策アカデミー(AGFEP)が中心となって作成した「2021年中国と世界の食料政策報告書」が発行された(20)。
この報告書は、中国政府の国策である「食料安全保障」、「穀物自給率」、「120万ヘクタールの農地の確保」を維持しつつ、食料システム全体からの温室効果ガスの排出削減するための戦略を策定し、提言したものである。
提言を要約すると以下のとおり。
1.農業補助金政策を最適化し、農業科学技術への投資を拡大し、低炭素でグリーンな技術の研究、開発、普及を促進する
2.農場から食卓までの食品ロスを大幅に削減し、国民が食生活ガイドラインに沿って健康的で持続可能な食生活を送れるように指導する
3.エネルギー効率を向上させ、非化石エネルギーの利用を増やし、グリーン化・低炭素化を推進する
4.政府は景観計画と管理を強化し、土地の節約を図ること。土地を草地、森林、湿地に転換することで炭素吸収量を高めることができる
5.農家の炭素吸収源市場への参入を促進し、農家の収入増加と排出量の削減を図る
複数の対策を組み合わせることで、2060年の食料システムからの温室効果ガス排出量を、2020年比で47%削減でき、さらに森林面積拡大による二酸化炭素の吸収量の増加により、食料システムからの排出と森林の吸収を相殺すると、2060年には約10億トンの炭素予算が残るとしている。
北京市が生ごみ従量課金制を検討
北京市では生ごみの従量課金制が検討されている。草案では飲食店など外食で発生する食品廃棄物が対象になっているという。
生ごみの「従量課金制」とは、生ごみの重量に応じて各利用者に課金される料金体系のことで、生ごみの多い利用者ほど料金は高くなり、生ごみが少なければ料金は安くなる仕組みである。すでに導入している韓国では97%、米国のサンフランシスコでは80%のリサイクル率と効果を出している。
一般的に、生ごみの重量の80%は水分で燃やしにくいので、生ごみを焼却処分している日本では、せっかく分別回収したプラごみを燃焼剤がわりに加えている自治体もある。しかし、生ごみを分別回収すれば、資源として、家畜の飼料、堆肥やバイオ燃料などにリサイクルすることができる。
北京市によると、2019年に市内の厨房から出た生ごみの輸送・処理コストは税込みで1トンあたり約594元(約9,200円)。草案では、従量課金の費用を1トンあたり300元(約4,600円)とし、実費の半分を飲食店に負担させる計画だという(21)。
14億人の胃袋を武器に
中国はしばしば食べものを外交の道具に使ってきた。世界第2位の経済力と14億人の胃袋を武器にして、海外から輸入する農産物や水産物に規制をかけることで、意に沿わない相手国に圧力をかけるのだ。約十年間の事例を挙げてみてもこれだけある(22)。
2010年 人権活動家・劉暁波氏にノーベル平和賞授与後、ノルウェー産サーモンの通関規制強化
2012年 南シナ海をめぐる領有権紛争で、フィリピン産バナナの輸入規制
2020年 豪州が新型コロナ発生源の国際調査を要求後、豪州産ワインに反ダンピング関税適用
2021年 2月に台湾産パイナップル、9月に台湾産バンレイシとレンブの輸入停止
2020年に中国疾病予防統制センター(CCDC)は輸入冷凍食品の包装から生きた新型コロナウイルスを検出したと公表している。ゼロコロナ対策を継続させている中国なら、当然その相手国の冷凍食品は輸入禁止にされるところだろうが、今のところそういう報道は聞かない。このことからも中国の輸入規制が恣意的なものであることがうかがえる。
これまで中国の貿易規制によって、どれだけの食品ロスが発生しただろう。自国の食品ロス問題について「衝撃的で心が痛む。(食品の)浪費は恥ずべきことで、倹約は称賛に値する」と語ったのは習主席自身ではなかったか。
また、国連食料システムサミットでの中国の「貿易の自由化を積極的に推進し、投資を促進し、不当な貿易制限を解除し、食品ロスを減らして食料供給のアクセス性を高める」という提言とも矛盾している。
愛される中国になるためには
2021年5月31日に習主席は党幹部との会合で、中国は国際社会の中で「友人の輪を広げていく必要がある」と話したという。習主席はさらに「オープンでありながらも謙虚で控えめ」な姿勢を示すべきだとも述べたという(23)。
そういう意味で、冒頭に述べた雲南省のゾウたちは、「愛される中国」のためにかなり貢献したといえるかもしれない。
2022年は日中の国交正常化50周年だった。意識調査によると、両国ともに相手国への国民感情がかなり悪化しているようだ。 2023年は、日中平和友好条約の締結45周年を迎えた。超党派の日中友好議員連盟の会長に就任した、自民党の二階俊博元幹事長は、2023年4月19日に開催された総会で「今の日中関係は理想的な状況ではない」と述べた(24)。また、日中経済協会の横山達也氏は、新聞の寄稿で「日中関係は盛り上がるどころか、緊張や因縁がますます深まっている気がする」と述べている(25)。
見習うべきは米国のバイデン大統領の姿勢である。言うべきことは言うが、気候変動対策など、お互いに歩み寄れることでは協力を惜しまない。日本と中国の間では、中国が自信を持っているらしい食品ロス問題での協力から進めてはいかがだろう。
注)三菱UFJ銀行の2020年の年間平均為替相場(TTM)CNY1=JPY15.48で計算
・前年の年末・年間平均2020(三菱UFJ銀行・外国為替相場情報)
http://www.murc-kawasesouba.jp/fx/year_average.php
参考情報
1)'Elephant runners' recount epic trek of mammoth stars in S.W China(globaltimes、2021/10/14)
https://www.globaltimes.cn/page/202110/1236388.shtml
https://www.theguardian.com/environment/2021/oct/16/ecological-civilisation-empty-slogan-cop15-or-will-china-act-on-environment-aoe?CMP=twt_a-environment_b-gdneco
3)「米作地帯の長江流域で大雨 コメ自給に赤信号か」(Yahoo!ニュース、2021/6/7)
4)Degraded farmland diminishes China's food sufficiency(Nikkei Asia、2021/4/4)
https://asia.nikkei.com/Economy/Degraded-farmland-diminishes-China-s-food-sufficiency
5)見せてもらおうか、中国の食品ロス「光盤運動2.0」とやらを! 残すのがマナーの国で何が?(Yahoo!ニュース個人、2020/9/1)
https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20200901-00195870
6)Lawmakers in Action: Chinese legislator develops new tech to reduce food waste(CGTN、2021/2/27)
https://news.cgtn.com/news/2021-02-27/VHJhbnNjcmlwdDUyMjYw/index.html
7-1)UNEP Food Waste Index Report 2021(UNEP、2021/3/4)
https://www.unep.org/resources/report/unep-food-waste-index-report-2021
7-2)The Enormous Scale Of Global Food Waste(Statista、2021/3/5)
https://www.statista.com/chart/24350/total-annual-household-waste-produced-in-selected-countries/
8)China wastes almost 30% of its food(nature、2021/7/15)
https://www.nature.com/articles/d41586-021-01963-3
9)China’s food loss and waste embodies increasing environmental impacts(nature food、2021/7/15)
https://www.nature.com/articles/s43016-021-00317-6
10)Food Waste in China Equals a Country’s Worth of Greenhouse Gases(SIXTH TONE、2021/7/16)
https://www.sixthtone.com/news/1007980/food-waste-in-china-equals-a-countrys-worth-of-greenhouse-gases
11-1)New law against food waste comes into force(Xinhua、2021/4/29)
https://www.shine.cn/news/nation/2104298240/
11-2)China Passes Law to Prevent Food Waste, Increase Food Security(NYC Food Policy Center、2021/5/11)
https://www.nycfoodpolicy.org/food-policy-snapshot-china-food-waste-law/
12-1)習主席、食品ロスと廃棄に関する国際会議に祝賀メッセージ(中国国際放送局、2021/9/10)
http://japanese.cri.cn/20210910/8262ff65-ac3e-3626-c151-6d9cbab2b018.html
https://www.prnewswire.com/news-releases/the-first-international-conference-on-food-loss-and-waste-closes-with-10-consensus-on-food-loss-and-waste-301374795.html
13-1)Jinan conference achieves global consensus in food supply matters(Yahoo!、2021/9/18)
https://finance.yahoo.com/news/jinan-conference-achieves-global-consensus-063300934.html
13-2)China cuts food loss, waste for food security(Xinhua、2021/9/12)
http://www.news.cn/english/2021-09/12/c_1310183587.html
13-3)国産の種子開発、ファーウェイ教訓 中国「技術や食料、外国依存は弱点」(朝日新聞デジタル、2021/3/3)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14819041.html
https://www.un.org/sites/un2.un.org/files/FSS_statement_China.pdf
15)China to strengthen push to reduce food waste(Reuters、2021/11/1)
https://www.reuters.com/business/environment/china-strengthen-push-reduce-food-waste-2021-11-01/
16-1)China’s Latest Crackdown Targets Binge Eating and Wasting Food(Bloomberg、2021/11/1)
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-11-01/china-s-latest-crackdown-targets-binge-eating-and-wasting-food
16-2)中国 食料不足への危機感 食糧自給低下による爆買いがもたらす影響(NHKニュース、2021/6/11)
https://www.nhk.jp/p/kokusaihoudou/ts/8M689W8RVX/blog/bl/pNjPgEOXyv/bp/pEYAKLR49E/
https://www.scmp.com/economy/china-economy/article/3154982/china-food-security-why-it-important-and-what-caused
18)Xi Jinping makes no major climate pledges in written Cop26 address(The Guardian、2021/11/1)
https://www.theguardian.com/environment/2021/nov/01/cop26-xi-jinping-china-president-sidesteps-videolink-written-statement
19)米中、温暖化対策で協力 温室ガス削減へ共同宣言 COP26(朝日新聞、2021/11/12)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15109014.html
http://agfep.cau.edu.cn/module/download/downfile.jsp?classid=0&filename=2105141928327359.pdf
21)Beijing mulls imposing charges for non-household kitchen waste(gov.cn、2021/7/16)
http://english.www.gov.cn/news/topnews/202107/16/content_WS60f16a37c6d0df57f98dd1bc.html
22)(経済安保 米中のはざまで)「人権」で制裁、日本及び腰 法律が未整備、歴史問題も背景(朝日新聞デジタル、2021/4/25)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14883468.html
23)習主席、「愛される」中国外交を指示 友好国増やすため(BBCニュース、2021/6/3)
https://www.bbc.com/japanese/57339921
24)日中友好議連:二階氏、6月訪中意欲 日中友好議連会長に就任(毎日新聞朝刊、東京版5面、2023/4/20)
25)横山達也のチャイナ・アウトサイト(65)/「45年のご交誼」(繊維ニュース、2023/4/24)