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なぜ、この時期に? 明日から北朝鮮ミサイル発射想定の住民避難訓練再開へ

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
非戦闘員である駐韓米軍家族の韓国脱出避難訓練(駐韓米軍司令部HPから)

 明日(22日)から日本では4年3か月ぶりに北朝鮮のミサイル飛来を想定した住民避難訓練が行われる。予定では訓練は富山県魚津市を皮切りに香川(土庄町)、北海道(京極町など2か所)、新潟(粟島浦村)、沖縄(与那国町など4カ所)、大分(中津市など2カ所)など8道県10市町村で来年1月まで実施される。

 北朝鮮のミサイル発射を想定した避難訓練は北朝鮮が中長距離弾道ミサイルや大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した2017年から2018年にかけて秋田県男鹿市をはじめ青森、山形、新潟、富山、茨城、愛媛、山口、福岡、長崎県内など全国29の自治体で順次実施されていた。しかし、2018年6月に米国が北朝鮮との首脳会談に応じたことで北朝鮮のミサイル発射が凍結され、その後は見送られていた。

 日本が避難訓練の再開に踏み切ったことに日本海に向けミサイルを発射している北朝鮮は当然のごとく敏感に反応している。

 「拉致問題は解決済」と、日本を批判した宋日昊(ソンイルホ)日朝国交正常化交渉担当大使の談話(9月15日)に目を奪われ、気づかなかったが、その2日後の17日に北朝鮮外務省のホームページに日本研究所研究員の名による「何を企てた退避騒動なのか?」と題した論評が載っていた。

 「キム・ソルファ」と名乗る研究員は日本の対応について「我々の自衛的国防強化措置が取られる度に東京のど真ん中に核弾頭が落ちたかのごとく(日本は)病的反応を示している」とか「我々のミサイル攻撃に備えるという口実の下、迎撃ミサイルを常時配備するなど騒動を起こし、生業に没頭している住民まで動員し、奔走湯を焚く一方でミサイル発射の『誤報』を演出し、我々との対決雰囲気を頻繁に鼓吹している」と非難していた。

 日本政府は避難訓練再開の理由について松野博一官房長官が今年4月の記者会見で「北朝鮮からの弾道ミサイルが今年に入って高い頻度で発射されている」ことを挙げていた。 

 北朝鮮は今年1月から4月まで極超音速ミサイル、戦術誘導ミサイル、長距離巡航ミサイル、中長距離弾道ミサイル(火星12型)、それに新型大陸間弾道ミサイル(火星17型)を含め20発も発射していた。また、5月以降も「火星17型」(5月4日と25日)を含め潜水艦弾道ミサイル(5月7日)、短距離弾道ミサイル8発(6月5日)、巡航ミサイル2発(8月17日)を発射している。北朝鮮のミサイル発射は一昨年の5回(8発)、昨年の8回(12発)に比べて明らかに急増している。

 ミサイル発射情報は全国瞬時警報システム「Jアラート」や緊急情報ネットワークシステム「エムネット」を通じて行われる。実際に北朝鮮が2016年2月7日にフィリピンに向け人工衛星と称して長距離弾道ミサイル「テポドン」を西海岸に面した東倉里基地から発射した際には発射から3分後の午前9時34分には「Jアラート」と「エムネット」を通じて全国の地方自治体などに発射情報が配信されていた。「テポドン」が通過した沖縄では「発射情報!発射情報!先ほど北朝鮮からミサイルが発射された模様です」との放送が流れていた。

 避難訓練では「ミサイルが発射されたもよう」との防災行政無線放送が流れると、住民らは屋外にいる場合は、体育館など近くの頑丈な建物や地下(地下街や地下駅舎などの地下施設)に避難し、近くに適当な建物等がない場合は、物陰に身を隠すか地面に伏せるよう指示されている。また、屋内にいる場合には、できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動するよう指導されている。

 日本だけでなく、北朝鮮のミサイルのターゲットにされている韓国や米国でも避難訓練が実施されているが、今年はまだそうしたきな臭い情報はソウルからは伝わってはいない。

 駐韓米軍は毎年春と秋に朝鮮半島有事に備え、韓国在住の米市民を安全な地域に輸送する「NEO訓練」を行っている。

 また、国外への脱出訓練としては2016年の秋にソウル駐在の米軍家族らを在韓米軍基地から在日米軍基地に輸送する訓練が行われていた。国外脱出訓練は2009年以来、7年ぶりだった。

 米国務省は米市民と外交官及び米軍家族らを対象に「非戦闘要員疎開命令」を出し、対象者は避難の際に一人当たり最大で27キログラムの所持品の持参が許されていた。ソウル龍山区にある米軍基地で身元確認の腕輪を渡され、保安検索の手続きが行われ、生物・化学兵器による攻撃を12時間防止することのできるマスクの着用方法に関する訓練も受けていた。

 一方、ハワイ州では2017年11月から仕事始めの日に月一回、住民退避訓練が実施されていた。日本軍によって真珠湾を奇襲攻撃されたハワイ州が敵国の攻撃に備えて非常退避訓練を実施したのは米ソ冷戦終結後初めてであった。

 ハワイでは最悪のシナリオとして北朝鮮が15キロトンの核兵器を中心都市ホノルルの上空約300メートルの地点で爆発させた場合に備えた訓練も実施された。通常のサイレンに続いてミサイル飛来を知らせる2度目の警報サイレンが鳴れば▲住民も観光客も一斉に建物に隠れる▲運転中の場合は車を停車させて、建物の中に避難するか、地面に寝そべる▲上空の閃光(せんこう)は見ない-などの対策を取っていた。

 避難訓練の概要は基本的にはハワイも日本も同じだが、唯一の違いは北朝鮮のミサイルが20分前後でハワイに到達するのに対して日本列島にはその半分の約10分で到達することだ。

 北朝鮮の弾道ミサイルが日本列島手前の公海上に落ちるのか、それとも日本の上空を飛んで来るのか、早い段階で見極められれば良いが、危険に気が付いた時にアラートを鳴らしては手遅れとなり、対応のしようがない。朝鮮半島有事が現実となれば、ミサイルは通告、予告なくいつ、どこからでも発射される。備えあって憂いなしである。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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