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池袋暴走事故で警察が「厳重処分」の意見を付けて書類送検 その意義とは

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 池袋暴走事故では、警視庁が運転手の男を東京地検に書類送検する際、「厳重処分」の意見を付けたという点に注目が集まっている。ほかの事件でも同様の報道をよく見かける。こうした意見の意義とは――。

意見は4パターン

 国家公安委員会規則である「犯罪捜査規範」には、次のような規定がある。

「事件を送致又は送付するに当たっては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書又は送付書を作成し、関係書類及び証拠物を添付するものとする」(195条)

 「送致」は警察が被害者から被害届を受けたり、変死体を発見したり、様々な情報に基づいて捜査を行った場合であり、「送付」は警察が告訴や告発を受けたり、犯人による自首があった場合だ。

 マスコミは両者をひっくるめて「送検」と呼び、特に逮捕されていない事件の場合を「書類送検」と呼んでいるが、法令にはそうした用語などない。

 要するに、事件送致などに際しては、被疑者にはこうした刑事処分を行うべきだ、といった意見表明が警察に求められているわけだ。警察が事件の経緯や状況、背景事情などをよく把握しているからだ。

 その際の意見には、次の4つのパターンがある。

(1) 「厳重処分願いたい

 起訴するのが相当だと考えている場合

(2) 「相当処分願いたい

 起訴・不起訴については検察に一任したいと考えている場合

(3) 「寛大処分願いたい

 起訴を猶予するのが相当だと考えている場合

(4) 「しかるべく処分願いたい

 時効が成立しているとか、被疑者が死亡しているとか、告訴がなければ起訴できない事件で既に告訴が取り下げられているといった事情により、不起訴以外にはあり得ない場合

あくまで参考意見

 ただ、検察は、いかなる事件であっても、被疑者の処分を決める際、この意見に拘束されることはない。むしろ、特に意識していないというのが実情だ。

 というのも、そもそも証拠により犯罪の容疑が認められ、送致や送付された被疑者が犯人である事件であれば、(4)に当たらない限り、現実にはそのほぼ全てが(1)の「厳重処分」となっており、(2)や(3)などないに等しいからだ。

 予算や人員が限られている中、これを割き、時間をかけて捜査を遂げた以上、検察による最終的な判断がどうなるにせよ、治安維持の担い手を自負する警察としては、(1)の意見を述べておく、というわけだ。

 ごくまれに(2)や(3)の記載があると、何か珍しい生き物にでも遭遇したかのような気になる。

 例えば(2)だと、起訴か不起訴かが極めて微妙なライン上にあり、どのような事情を重く評価するかで、どちらにも転ぶような事件とか、証拠が薄く、犯罪の容疑が認められないかもしれないとか、アリバイが成り立つかもしれず、真犯人とは認められない可能性がある、といった場合だ。

 また、(3)だと、既に示談が成立し、被害届も取り下げられ、被害者が被疑者を許し、その処罰を全く希望していない、といった場合だ。

検察は粛々と捜査

 いずれにせよ、検察は、警察の処分意見が(1)であっても遠慮なく不起訴にしているし、逆に(2)であっても、例えば送致後に被疑者が被害弁償の約束を守らず、被害者の処罰感情が悪化しているなどといった事情があれば、起訴している。

 池袋暴走事故でも、警察が(1)の意見を付けて送致したのはごく当たり前の日常的な実務の一場面にすぎず、検察からすると特に驚くような話ではない。

 送検後、男の取調べなど検察で必要な捜査を粛々と遂げたうえで、ブレーキとアクセルの踏み間違いという過失の内容に間違いがなければ、結果の重大性や処罰感情の厳しさなどを踏まえ、地裁に正式起訴し、公開の法廷で裁判を受けさせるという結論になるだろう。むしろ、それが当然の姿ではないかと思われる。(了)

(参考)

拙稿「池袋暴走事故、39万筆の署名が逆効果になるおそれも 送検された元院長の今後は

拙稿「池袋暴走事故で書類送検、勲章はどうなる? 剥奪される可能性も

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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