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オートバイのあれこれ『分かるヤツだけ乗ってくれ。それで全然構わん。』

Rotti.モトエンスー(moto enthusiast)

全国1,000万人のバイク好きたちへ送るこのコーナー。

今日は『分かるヤツだけ乗ってくれ。それで全然構わん。』をテーマにお話ししようと思います。

他の工業製品と比べて趣味性の高いオートバイには、しばしば興味深い開発エピソードが見受けられます。

ヤマハが1985年(昭和60年)にリリースした『SRX』も、なかなか感情を揺さぶられる開発ストーリーを秘めているといえるのではないでしょうか。

▲SRX-6〈1985/画像引用元:ヤマハ発動機〉
▲SRX-6〈1985/画像引用元:ヤマハ発動機〉

1980年代、日本は高度経済成長を経て、安定成長期を迎えます。

そしてそのようななか、世間にはどことなく浮ついた風潮が漂っていました。

もちろんそれは“戦後復興の証”でもあったわけですが、その雰囲気に嫌気が差していたのがヤマハのエンジニアたちでした。

骨のある男らしいシングルスポーツを作って、最近のナンパな風潮に一発かましてやろう

ヤマハは得意のモノづくりを通じて、浮かれ気分の世間に警鐘を鳴らそうと考えたのです。

そうした背景の下に生まれたのが、SRXというオートバイでした。

▲虚飾を排し、シンプルに徹した設計〈画像引用元:ヤマハ発動機〉
▲虚飾を排し、シンプルに徹した設計〈画像引用元:ヤマハ発動機〉

SRXのハイライトは、とにかく“余計なモノが無い”ということ。

「上辺だけを着飾るようなパーツは要らない」という設計思想がひしひし伝わってくる、シンプルなディテールとなっていました。

また性能面においても、当時はレーサーレプリカブームに伴う高性能至上主義が幅を利かせていましたが、SRX(SRX-6)は600ccもの排気量を持ちながら42psと、250ccの2ストレプリカモデルにも及ばないスペックだったのです。

しかし一方で、必要な箇所にはしっかりとコストがかけられていました。

最も分かりやすいのがフレームで、SRXには加工が難しい角パイプを使用し、さらに車体のシルエットに凝縮感を持たせるため、エンジンとフレームの隙間が限界まで詰められました。

当然、従来の一体型フレームでこの凝縮感は演出できない(=エンジンを搭載できない)ので、開発陣はフレームの一部にボルト留め構造を採用。

エンジンを載せてからフレームパイプの一部を取り付けられるようにし、理想のシルエットを叶えたのでした。

また、アルミやステンレスが使われているパーツに関しては、その素材の質感を活かす処理が施されるなど、余計なモノを付け足さない代わりに、既存の部分、走るうえで不可欠な箇所には徹底的な品質追求が行われました。

▲90年にモデルチェンジ。より現代的な作りとなった〈1990/画像引用元:ヤマハ発動機〉
▲90年にモデルチェンジ。より現代的な作りとなった〈1990/画像引用元:ヤマハ発動機〉

結果的にSRXは、発売後間もなく大ヒット。

当時のレプリカブームとは乖離したキャラクターだったものの、開発陣の“熱量”が世間に通じたのか、想定以上の支持を集めることに成功したのでした。

開発陣はSRXのリリース前「(このバイクの良さが)分かる人間にだけ乗ってもらえればそれで結構」と考えていただけに、SRXの好評ぶり(600ccのSRX-6は約2万台、400ccのSRX-4は国内のみで約3万台が売れた)にはうれしい反面、面食らったといわれています。

モトエンスー(moto enthusiast)

バイクを楽しむライター。バイク歴15年で乗り継いだ愛車は10台以上。ツーリング/モータースポーツ、オンロード/オフロード、最新バイク/絶版バイク問わず、バイクにまつわることは全部好き。

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