Apple、デジタルコンテンツの「ミッシングリンク」を埋める?
米ウォールストリート・ジャーナルや米エンターテインメント業界誌バラエティによると、米アップルはこのほど、音楽配信サービス「Apple Music」などのコンテンツ事業を統括する幹部を新たに任命した。
狙いはサービス事業の強化
その人物とは、オリバー・シュサー氏。同氏は、Apple Musicの世界事業とインターナショナルコンテンツ担当のバイスプレジデントとして、インターネットソフトウエア&サービス担当シニアバイスプレジデントであるエディー・キュー氏の直属となる。
シュサー氏はこれまで、欧州の音楽・コンテンツサービス事業を統括してきた。今は、英国ロンドンに住んでいるが、今後は、米カリフォルニア州に移り住み、同州クパチーノにあるアップル本社と、同州カルバーシティーにある同社オフィスで、仕事をするという。
これについて、ウォールストリート・ジャーナルは、「iPhoneの販売台数が、かつてほど伸びなくなってきた今、アップルはサービス事業の強化を図っており、今回の人事異動はその一環ではないか」と伝えている。
アップルのサービス事業には、Apple Musicのほかに、「iTunes」「App Store」「iTunes Movies」などがあるが、2017年9月末までの2017会計年度における、その売上高は299億8000万ドルだった。サービス事業は、パソコンのMacやiPadのそれを上回り、iPhoneに次ぐ事業へと成長している(図1)。
ウォールストリート・ジャーナルによると、アップルはこの事業を2020年までに、400億ドル以上の規模に拡大したい考え。
- 図1 アップルの事業別売上高推移(インフォグラフィックス出典:ドイツ・スタティスタ)
Apple Music vs. Spotify
シニアバイスプレジデントのエディー・キュー氏は、シュサー氏の新たな役職と併せて、Apple Musicの有料会員数が、4000万人を超えたことも明らかにした。
バラエティやウォールストリート・ジャーナルによると、Apple Musicには、このほかに、無料トライアル利用中の人が、800万人いる。
一方で、Apple MusicのライバルであるSpotifyの今年3月時点の有料会員数は約7100万人。この人数には、公表されない無料トライアル会員も含まれている。
バラエティによると、Apple Musicの有料会員数は、毎月5%の伸びで増大している。これに対しSpotifyの伸び率は2%程度。Apple Musicは、世界最大手のSpotifyを追い抜く勢いで伸びているという。
シュサー氏の経歴や勤務地が示唆するもの
米経済専門テレビ局CNBCは、シュサー氏の新たな勤務地の1つに、アップルの新戦略を知るヒントがあると伝えている。
カリフォルニア州カルバーシティーは、テレビ番組や映画の製作会社が多くある都市。昨年10月には、米アマゾン・ドットコムが、オリジナル番組制作部門「Amazon Studios」の規模を拡大し、拠点をここに移すと発表した。
CNBCは、シュサー氏の経歴にも注目している。先ごろ、音楽認識アプリ「Shazam(シャザム)」を手がける英シャザム・エンターテインメントをアップルが買収すると、伝えられた。
CNBCによると、シュサー氏はその買収交渉で重要な役割を果たした人物。また、同氏はこれまで、レコード会社や映画製作会社、出版社との交渉も担当してきた。
アップルには、音楽サービスのほか、映像配信端末「Apple TV」や、AI(人工知能)アシスタントサービス「Siri」、AIスピーカー「HomePod」などがある。
しかし、これらデジタルコンテンツに関連する製品やサービスには、ミッシングリンク(つながりが分断されている部分)があると、CNBCは指摘。シュサー氏は、それを埋める役割を担うと見られている。
(このコラムは「JBpress」2018年4月13日号に掲載した記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)