Jリーグの「中指問題」にモノ申す。規制ばかりのJリーグに未来はない。
最近、Jリーグのサポーターの間で、「中指問題」に関する議論が白熱している。
事の発端は、9月28日に長野県松本市アルウィンで開催されたJ2松本山雅FC対コンサドーレ札幌の一戦で、札幌のサポーターが中指を立てた写真がSNSで拡散したことだ。
拡散された写真は2種類あり、ひとつは札幌サポーターが松本のホームゴール裏入場ゲートの横断幕に対して中指を立てている写真をツイッターに自ら上げたもの、もうひとつは札幌のアウェイゴール裏最前列でサポーターが中指を立てているところを松本サポーターが撮影したものである。
これに対して、コンサドーレ札幌は当該サポーターに事実確認を行い、松本山雅FCと協議した上で、当該サポーター3名に対して『厳重注意処分』を下した。
中指を立てる行為をスタジアムで行うとなぜ処分が下るかというと、「Jリーグ統一禁止事項」というルールが存在するからだ。
このうち、中指を立てる行為が、6つ目の「差別的、侮辱的もしくは公序良俗に反する言動の禁止」に該当するというわけだ。中指を立てる行為を善悪で判断するならば、当然99%の人が悪い事と評するだろう。
しかし、こういった公序良俗違反、平たく言えばモラル・マナー違反に関して、スタジアム内でのサポーターの言動を全て監視下に置き、いちいち罰則を与えることを恒常化してはならないと僕は考える。
なぜならそこにはゴール裏独特の「文化」があるからだ。
汚い部分も含めて、ゴール裏の「文化」である
「中指を立てるなんて、ホント馬鹿な集団だね」と蔑んで見る人も多いことだろう。では、札幌のゴール裏がどういった集まりなのか、実際に映像で見てもらうのが手っ取り早いので、下記動画をご覧頂きたい。
この映像は今年のホーム開幕戦のキックオフ前に札幌ドームのコンコースで開催された決起集会の模様だ。
Jリーグに興味のない人からすると、異様な光景に見えるだろう。彼らは血気盛んに応援することがクラブの勝利に繋がると信じてやまない人たちである。
僕もアウェイ戦の時はゴール裏のこの集団に入って、バモバモ飛び跳ねながら、90分間声を張り上げて応援をしている(バモとはスペイン語で行けという意味)。僕もある意味、この「馬鹿な集団」の一員だ。我を忘れて試合中に全力を出し過ぎて、脱水症状を起こして倒れる人までいる。それ程僕らは「マジ」なのだ。
ゴール裏のこの異常なテンションの中で勝利の歓喜を味わうと病み付きになる。普段の日常生活では決して味わえない「非日常の愉しみ」がここには存在する。
選手と共に「戦う集団」としてスイッチが入っている状態なので、時に敵対心を丸出しにして、対戦相手に向けて行儀の悪いアクションをする人もいる。しかしそれは一種の「パフォーマンス」であって、それを起因として暴力事件に発展したというのを僕はここ数年、札幌ゴール裏で聞いたことがない。
良くも悪くも、これが長年札幌ゴール裏が培ってきた「文化」なのだ。キレイ事のみでは語れない、汚い部分も含めた「文化」がそこには存在するのだ。
無難な解決方法は、サポーターの良心や自制心に任せる方式
公序良俗違反に関して、クラブが行儀の悪いサポーターを律儀に監視して、いちいち処分していてはキリがない。
例えば、相手選手の悪質なファールで自クラブの選手が怪我をしてしまった場合、ゴール裏からは猛烈なブーイングが浴びせられるのが常だ。その際に一部からは汚い言葉も発せられるだろう。「Jリーグ統一禁止事項」では行動のみならず言動までが規定の範囲内なので、厳密に言えば「汚い言葉」もNGとなる。そんな言動まで処分の対象にするのが不毛であるのは言うまでもない。
当然、暴力や人種差別といった、明らかなルール違反は罰せられて然るべきだ。暴力は刑法により罰せられ、人種差別はFIFAが大々的に「SAY NO TO RACISM」というメッセージを発している。
だが、公序良俗違反の領域、いわゆる明確に法律で罰せられるわけではなく、モラルやマナーが問われる「グレーゾーン」においては、サポーターの自発的な抑制によってコントロールされる形が理想的だと思う。重箱の隅をつつく通報にその都度対応していては際限がない。
「Jリーグ統一禁止事項」の6項目目において、「※当該言動が上記に該当するかは主管クラブが判断することとします」という但し書きがあるのは、その「さじ加減」をクラブに一任していることを意味する。
そういった意味で、コンサドーレ札幌がクラブとしての処分を「厳重注意」に留めたのは、ある意味適切だったと僕は考える。
ここで数試合の入場禁止などの目に見える形の処分を行うと、その前例に基づいて相手サポーターを陥れるための通報が後を絶たなくなる可能性があるからだ(自らその違反画像をSNSにあげるのが愚行であるのは論を俟たない)。
人種差別問題と公序良俗違反は程度が違いすぎる
浦和レッズの「Japanese Only」の横断幕問題、横浜F・マリノスのバナナ問題など、Jリーグは今年、何度か人種差別問題で物議を醸し出した。Jリーグ側も非常にセンシティブになっているのは確かだ。
だが、この人種差別問題にかこつけて、公序良俗違反についても厳しく取り締まるのはナンセンスだ。あまりにも程度が違いすぎる。
もしその「グレーゾーン」に介入した場合、指摘や通報がエスカレートすることは自明だ。中指を立てる行為がNGなら、親指を下に向ける行為はどうなのか?中継の音声でサポーターの侮辱的な声掛けを拾ったら、都度特定して処分の対象とするのか?そんな通報に都度付き合っていたら、クラブの業務に支障をきたすだろう。そもそも○○ダービーなどと敵対心を煽る広報の仕方が公序良俗違反の根本的原因に成り得るので規制、なんてことにもなりかねない。
日本は平和な国である。サポーター同士で殺し合いが行われるような野蛮な国では決してない。海外でもサポーターが中指を立てて処分されるリーグなど、聞いたことがない。この領域は「グレーゾーン」として踏み込まず、サポーターを信頼した上で、個人の自発的な抑止力に任せるのが妥当である。
規制でがんじがらめにするJリーグに未来はない。各クラブのゴール裏の「文化」を是非尊重してほしい。いち札幌サポーターからの願いだ。