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ウクライナ政府、戦場での即戦力目指しドローンのパイロットさらに1万人を養成:期間は約1週間で無料

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「ドローンはゲーム・チェンジャー。戦場ではとても重要な役割を果たし、ウクライナ人の命を守る」

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民用品ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍でドローンの撃墜が繰り返されている。

2023年6月にはウクライナのメディアのUATVがドローンのパイロット(操縦士)養成のトレーニングを報じていた。トレーニングは1週間程度で、初日からフィールドでドローンの操縦を行って技術を習得していく。このトレーニングですでに1万人のパイロットを養成してきた。

2023年5月にミハイロ・フェドロフ副首相が自国のテレビに出演した際のインタビューでは、国内でドローンのパイロットをさらに1 万人育成する予定だと語っていた。7600人のマルチコプターの操縦士、2000人のFPVドローンのパイロット、400人のエアクラフトタイプのドローン操縦士を養成していく予定。

ミハイロ・フェドロフ副首相は「ドローンによる監視だけでなくFPVドローンでの攻撃についても学んでいけるようにしていきます」と語っている。番組では「ドローンはこの戦争のゲーム・チェンジャーになるとても重要な兵器です。ドローンは監視と敵への精確な攻撃という点で、戦場で重要な役割を果たしています。ドローンによって多くのウクライナ人の命も救われています」とウクライナ紛争におけるドローンの果たす役割を紹介している。

ウクライナ政府はウクライナ軍が監視・偵察、攻撃で使用するためのドローンを調達するために、政府が運営しているメディアを通じて世界中に寄付を呼びかけている。「drone(ドローン)」と「donation(寄付)」を掛け合わせて「dronation(ドロネーション)」という造語も作っている。また世界中から集められた寄付で開発や調達したドローンでロシア軍を攻撃するプロジェクトを総称して「Army of Drones」プロジェクトと呼んでいる。ドローンのパイロット(操縦士)1万人育成も、「Army of Drones」プロジェクトの一環である。そしてドローン操縦のトレーニング費用は全て無料で、ウクライナ全土26か所で受講できる。

ウクライナ軍では小型民生品ドローンを使用して監視・偵察を行っている。さらに世界中からの寄付で調達した小型民生品ドローンに爆弾を搭載して地上にロシア軍を見つけたら投下して爆発させている。また爆弾を搭載した小型民生品ドローンごとロシア軍の戦車や塹壕などに突っ込んでいき爆発させている。

ドローンの操縦は他の戦車や戦闘機を操縦するのに比べたら習得するのは遥かに簡単である。欧米から提供された兵器の使い方を習得するためにウクライナ兵がイギリスやアメリカに研修を受けに行くことがあるが、ドローンの習得はそのようなことは一切不要である。しかもトレーニングが終わったら即戦力としてすぐに最前線のロシア軍を偵察したり攻撃したりできる。ウクライナ軍では毎日24時間、何機ものドローンを飛行させてロシア軍を監視したり攻撃したりしているので、実地での訓練(OJT)もいくらでも可能である。

ウクライナ軍だけでなくロシア軍も多くの監視・偵察ドローン、攻撃ドローンを使用している。これだけ多くのドローンが戦場で使用されたのは歴史のなかでも初めてである。そして監視・偵察ドローンも攻撃ドローンも探知したらすぐに迎撃されて破壊されてしまう。そのためドローンは何機あっても足りない。24時間常にあらゆる場所で上空からドローンで監視してロシア軍を探知したら、すぐに攻撃を行っている。そのためドローンのパイロット(操縦士)も何人いても足りない。

▼ウクライナでのドローン操縦トレーニングを報じる地元メディア

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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