顔にアザがある女性=大人しく慎ましい。その勝手なイメージを覆す新たなヒロイン像を探して
今年も数々の映画を通して、さまざまなヒロインと出会ってきたが、映画「よだかの片想い」の主人公・アイコは日本映画において最もいそうでいなかった画期的なヒロインといっていいかもしれない。
顔にアザのある女性という、ひと昔前であれば悲劇のヒロインとしてしか語られない、護られるべき存在を、ほとんど真逆といっていい、主体性のある、自らが主導権を握る女性として存在させた。
強くてしなやか、そしてしたたかなアイコは、男性にとって「かわいい」存在というロジックにほぼ落とし込まれる近年の日本映画のヒロインの中に入ると異彩を放つ。
このアイコという存在で何を描き、彼女にどんな思いを込めたのか?手掛けた安川有果監督に訊く。(全四回)
主人公のアイコに目がいきました
まず本作は、これまでも多くの作品が映画化されてきた小説家、島本理生が2012年に発表した同名小説が原作。主演を務めている松井玲奈自身が島本の大ファンで原作に惚れ込み、映像化へ動いていたという。どういった経緯で安川監督のもとへは話がきたのだろう。
「そうですね、松井さんが島本理生さんの大ファンでいらっしゃって、特に『よだかの片想い』に思い入れがあり、いろいろな制作会社に打診していたそうです。『映画化できないでしょうか』と。
その中で、今の制作会社に話がまとまっていった時に、この企画に合うのではないかということで私に声が掛かりました。
また、その制作会社のプロデューサーの方から脚本は城定秀夫さんがいいのではなないかとお話を受けて。
わたしも城定監督の作品のファンでしたので、『書いていただけるのならばぜひ』と思ってお願いしました」
では、島本の原作を手にしたと思うが、どんな感想を抱いただろうか?
「やはり主人公のアイコに目がいきました。
彼女は顔にアザがあって、現在はそれを受け入れているところがあるんですけど、それまでは受け入れがたいものでコンプレックスとして抱えてきた。
であるがゆえに、アザがある自分の処世術で、自らが傷つかないように守りながら生きてきたところがある。たとえば、恋愛に関しても、ちょっといい人と思っても、あまり期待しないとか。そのように自分を安全なところに置いてきたところがある。
ただ、彼女は、飛坂と出会うんですけど、『彼はほかとは違う』と感じて恋愛が始まったときに、もう一気に弾けるというか解放されるというか。いままで傷つくことに恐れていたのに、一気に変わって、もうなりふり構わず捨て身で飛坂にぶつかっていく感じがある。
この想定外でまったく次の動きが読めないダイナミックな変化を遂げていく彼女の存在がひじょうに新鮮に映りました。
顔にアザがある女性というと、固定観念で受け身だったり、大人しく慎ましやかな人物を勝手にイメージしてしまう。でも、彼女はちょっとというか、かなり違う。
はじめは安全なところに身を置きながら、エンジンが一気にかかると危険を顧みないで突進していくようなアイコの心情を追っていくのは、おもしろいのではないかと思いました」
なにか新たな女性像を描けるのではないか
原作を読むと、女性に忠実さや従順さを求める男性上位の日本社会が透けてみえてくる。アイコはそうした社会にある意味、反旗を翻す存在といってもいいかもしれない。
「たとえば、容姿にコンプレックスのある女性がある男性と付き合うようになったという場合でも、知らず知らずのうちに『付き合ってもらっている』といった要素が強くなっていたりする。
ただ、さきほど少し触れたようにアイコは受け身ではない。恋愛でちょっとたがが外れてから、誰でもない自分に主導権があって、自らの意思で動いていくところがある。この彼女をしっかりと見つめることができれば、なにか新たな女性像を描けるのではないかと思いました」
(※第二回に続く)
「よだかの片想い」
監督:安川有果
脚本:城定秀夫
原作:島本理生「よだかの片想い」(集英社文庫刊)
出演:松井玲奈、中島歩
藤井美菜、織田梨沙、青木柚、手島実優、池田良、中澤梓佐
三宅弘城
公式HP:https://notheroinemovies.com/
シモキタ-エキマエ-シネマ「K2」ほかにて公開中
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(C)島本理生/集英社 (C)2021映画「よだかの片想い」製作委員会