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SMAP解散で日本の働き方は変わるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
「スマスマ」最終回 SMAP、活動に終止符(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

デフレ時代の国民的アイドル

20年9カ月続いてきたSMAPのフジテレビ系番組『SMAP×SMAP』の最終回が12月26日放映されました。同月8日に行われた「ビストロSMAP」の収録が国民的アイドルとなった5人そろっての最後の活動となったそうです。『NHK紅白歌合戦』へのサプライズ出演もありませんでした。

出所:日経平均プロフィルをもとに筆者作成
出所:日経平均プロフィルをもとに筆者作成

寂しいですが、SMAPとはお別れです。グループ結成は日本がまだバブル経済に酔っていた1988年。日経平均の高値は30,159円。翌89年12月29日には史上最高値の38,957円をつけます。そしてバブル崩壊。株価は暴落します。SMAPが解散した2016年の高値はトランプ相場もあって19,494円まで回復しました。

SMAPはバブル経済とその崩壊に続く、デフレ時代の「失われた20年」を代表する国民的アイドルで、解散に至る一連の騒動は米紙ニューヨーク・タイムズや英経済紙フィナンシャル・タイムズなど海外の1流紙にも取り上げられました。デビュー当時、メンバーの6人は11~15歳で平均年齢は14歳。それから29年余、5人になったメンバーは39~44歳の中年になりました。

中年ボーイズバンドが残した教訓

FT紙のレオ・ルイス東京特派員は16年11月にSMAP解散に合わせてこんな記事を書いています。見出しは「日本の疲れ切った労働者のために中年ボーイズバンドが残してくれた教訓」です。「ポップスターでさえ農奴制の病理学から逃れられない」

日本の失業率は世界の中でも低い反面、長時間労働、サービス残業、正規と非正規雇用の格差、単身赴任、過労死、うつ病、自殺と暗いイメージがついて回ることは欧米諸国でもよく知られています。デフレ時代に求められるのは会社に尽くすハードワークとハーモニーです。SMAPはハーモニーを装いながらジャーニーズ事務所のためにハードワークをこなしてきたというわけです。

ルイス特派員はデフレに陥った日本経済の特徴として(1)問題解決の先延ばし(2)ガマン(3)社員は会社に隷従――の3つを挙げています。SMAPの不和は限界に達していたのに、ずっと解散という決断を先延ばしにしてきました。その不和を表に出さないよう5人はガマンを期待されました。

SMAPは16年1月、解散騒動を起こしたことについて謝罪会見し、いったんは存続する意思を表明していました。その際、安倍晋三首相が参院予算委員会で「多くのファンの方々の期待に、また願いに応えてグループが存続するということは、これはよかったのではないかと、こういうふうに思っております」と答弁したほどです。

ガマンする文化が長時間労働や過労死を生む原因になっているとルイス特派員は指摘します。SMAPはメンバー1人ひとりではなくジャーニーズ事務所のために働いていたというのです。海外生活が長くなると、日本人はどうして会社の利益を最大化するためにそこまでガマンして働くのかと思うようになります。

欧州と日本の働き方

日本企業では終身雇用が保障される代わりに、社員は理不尽な長時間労働やサービス残業、単身赴任をガマンして受け入れてきました。出世や異動に加えて、転職すると医療、年金、退職金の面で大きなマイナスになることが多いため、日本のサラリーマンは働き続けます。

欧州と日本の働き方を比べると、労働時間の長さと有給休暇取得率で大きな開きがあります。

英国では週48時間労働が上限とされ、28日間の年次有給休暇が定められています。大半の英国の労働者はいわゆる「9時~5時」で仕事を終え、国民の休日(8日間)とホリデーの20日間はきっちり休みます。体調が思わしくない場合は「シックリーブ(病欠)」をとります。

日本の場合、週40時間労働制が導入されていますが、正規雇用の長時間労働は常態化しています。勤続期間が6年半以上になると年次有給休暇は20日間与えられますが、取得率は50%に達していません。上司や同僚の顔色をうかがいながら、休みたくても休まないのが日本のサラリーマンなのです。

出所:OECDデータをもとに筆者作成
出所:OECDデータをもとに筆者作成

経済協力開発機構(OECD)の1人当たり平均年間総実労働時間のデータを見ると、ドイツ(2015年、1371時間)やフランス(1482時間)、スイス(1590時間)は短く、日本(1719時間)は欧州連合(EU)の劣等生イタリア(1725時間)と同じぐらい長く働いています。ギリシャは2042時間です。

死と背中合わせの長時間労働

12月28日、大手広告会社・電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)が過労のため自殺した事件で、東京労働局は、電通と当時の上司を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。

わが国における労働者の脳血管疾患・心疾患・大動脈瘤及び解離による死亡数は1995年には52,467人、2010年も30,353人にのぼっています。勤務問題を原因の一つにする自殺も2千件を超えています。

脳・心臓疾患に関係する15年の労災請求件数は795件で251件(うち死亡96件)の支給が決定されました。業務における強い心理的負荷による精神障害の労災請求件数は1515件で472件(うち93件が自殺または自殺未遂)の支給が認められました。一罰百戒を目指した電通事件は氷山の一角に過ぎません。

しかし歴代政府も、よくもまあ、ここまで放置しておいたものです。英国でも長時間労働を強いられた小児科医、専門医になる前のジュニアドクター、パイロットが過労死する事件が過去に起きています。長時間労働をすれば英国人でも日本人でも過労死するのです。OECDの就業1時間当たりの名目国民総生産(GDP)データを見てみましょう。

出所:OECDデータをもとに筆者作成
出所:OECDデータをもとに筆者作成

ギリシャ34.5ドル、日本40.1ドルと、米国64.1ドル、フランス59.5ドル、ドイツ58.3ドルの間には大きな開きがあります。ギリシャは完全にデフレです。先のグラフと合わせて見ると、デフレ下では長時間労働になり、生産性(就業1時間当たり名目GDP)は下がる傾向がうかがえます。

解散したSMAPの5人が仕事と生活のバランスの取れた新しい働き方を日本国民に示すことができれば、日本の働き方も大きく変わるかもしれません。問題は先送りせず即座に解決する。ガマンしない。会社に隷従せず、自分の夢に沿った生き方、働き方ができれば、日本はデフレから脱却し、成長を取り戻せるのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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