Yahoo!ニュース

TDLダンサーから演出家へ!金谷かほりの仕事術「やめなければいつかはできます」

島田薫フリーアナウンサー/リポーター
仕事術について語る金谷かほりさん 撮影:すべて(C)Tomoko Hidaki

 「B'z」「Little Glee Monster」 といった有名アーティストのライブ演出、数々のテーマパークのショー、そして新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』、さらには『ワンピース・オン・アイス』など、多岐にわたるステージを手掛ける金谷さんは、ダイナミックで細やか、目を離せない演出が支持されています。注目される最新作は、ニューヨーク・ブロードウェイのクリスマス。演出家の仕事とは?演出家になるには?学びがあふれています。

―演出を始めたきっかけは?

 東京ディズニーランドのダンサーだった24歳の時に、アメリカのエンターテインメントを仕切っている“神様”みたいな人がいて、その人から「演出をやってみないか」と声をかけてもらったのです。

 「やってみます!」とお返事して初めてやったのが、小さなクリスマスショーでした。そしたら、その方が「演出をやるならダンサー辞められる?」とおっしゃるので、「辞めます」と答えてショーを作る側になり、その4年後独立しました。

―ダンサーのキャリアはどのくらいありましたか?

 幼い頃からクラシックバレエ教室に通って、中学ではバレエと機械体操。22歳までに基礎をしっかり身につけました。両親がバレエや芸能などエンターテインメントの世界にいたので、かなり力を入れてもらっていたと思います。

 ダンサーを目指していたところ、当時の新聞に東京ディズニーランドのダンサー募集広告(オープニングキャスト)が掲載され、人に勧められて初めてのオーディションを受けたのですが、一度のオーディションで人生が変わりましたね。ここで、2年間ダンサーを経験した後の40年が決まったわけですから。

 だから、自分が人をオーディションする時は、その人の一生が変わるかもしれないという思いで、すごく丁寧に見るようにしています。

―子どもの頃からダンサーを目指してきて、すぐに演出の世界に切り替えられましたか

 私よりダンスが上手い人はたくさんいたし、元々有名ダンサーになりたいとか自分を見てほしいという気持ちはなかったので、意外とすんなり(笑)。

 よく、若い人たちから「どうやったら演出家になれますか」と聞かれるけど、人にこういう気持ちになってほしい、こういうものを観てほしいというものを持っている人が、なるのだと思います。技術と知識が頭に入れば必ずできるという仕事ではないと思います。私も演出の勉強をしていたわけではないです。

―金谷さんは何を観てほしいと思いましたか

 最初に手掛けたクリスマスショーは、若いからシンプル!「楽しさと踊りの技術」です。「わーい!」という気持ちになってもらいたいのと、足を上げる、たくさん回る、リフトをする、そういうダンスの技術を観て楽しんでもらいたいと思いました。

―観てほしいものは変わりますか

 40年やっていると、歳とともに変わってはきますね。クリスマスショーをたくさん作ってきましたが、自分が愛する人と出会ったことが奇跡なんだということを、壮大なスケールで感じてほしいと思うようになりました。

 身近な人が身近にいることを当たり前に思いがちだけど、それは当たり前ではない。いつの間にかありがたみもなくなり、イライラすることばかり増えて…。でも、大事なものを自分はもらっているんだということを感じてほしい。

 クリスマスは、街も暖かい色の物が増えて、人に何かをプレゼントしたい、分かち合いたいという気持ちになれる、不思議な季節だと思います。

 私は何かとクリスマスに縁があるのか、クリスマスが大好きです。クリスマスは贈り物ができる季節です。人にプレゼントするのは特別な行為。その人の知らないところで、その人のために、その人のことを考えながらプレゼントを用意する時間って、素敵だと思うんです!

―今年は日本で7回目になる『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』の新演出をされることになりましたね

 今、準備の真っ最中です。公演では、皆に驚いてもらいたいし、素敵なプレゼントとして受け取ってほしい。お客様が「わー!」と受け取ってくれる瞬間は、自分にとってのプレゼントにもなるわけです。プレゼントをあげて、自分ももらえる、まさに両想いです。お客様が喜んでいただけたらの話ですけど(笑)。

―演出家とはどんな仕事ですか?

 お客様にとって何が一番良いか、何が伝わったらいいかを考えることが仕事だと思います。大概の演出家は妄想家です(笑)。単なる妄想を家で具現化して、1人で盛り上がったり下がったりするんです。

 私は、急に「これいい!」と思ったり曲をかけたり、「長いかな、長くても楽しいと感じてくれるかな」とか、部屋で悶々と考えます。椅子に座ったり、ベッドに行ったり、冷蔵庫を開けたりしながら、丸一日そのことだけを考えます。

―具体的にどうひらめいて何ができるんですか?

 まず、何を観せようとしているのかを考えます。今回のショーで言えば、「ニューヨーク・ブロードウェイのクリスマス」です。その中で「愛」を伝えたい、ときめき・きらめき・切なさ、全部入れたい、幻想的な部分もほしい。自分ならではの部分もちょっと入れたい、と考えていると一番観たい画が浮かびます。

 それで浮かんだのが、最初の森のシーン。今まで観たことのないファンタジーな白い森で、そこを、クリスマスの世界に入っていく入り口にしたいんです。すごく神秘的に見えると思います。白い森がクリスマスを具現化します。

 白い森には雪のように輝く人たちがいて、まるで浄化されたような雪の世界の中に幻想的なシーンがあって、そこからバッと変わったらレビュー!真っ白な雪と氷の世界から始まって、赤いレビューになったら“ときめき”が来る、と思うんです。

 そして、幸せで不思議なおとぎの国を皆が信じている。それは愛があるから。愛を感じたい…というところに持って行けたらと思います。

―『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』はアメリカのカンパニーで、英語上演ですね

 香港、韓国では経験ありますが、仕事でアメリカに行くのは初めてです。子どもの頃から母が英語の家庭教師をつけてくれていたので、言葉は問題ないです。今の私があるのは母の教育のおかげです。バレエ・絵画・楽器・英語、いろいろなものを習わせてもらいました。だから母は、私が演出した何を観ても「私のおかげ」と思っています(笑)。

―若い女性演出家が珍しかった頃、苦労も多かったのではないですか

 最初はいろいろなことで随分怒鳴られて、恐ろしかったですよ。この仕事で身を立てると決めてから、頑張りましたけど。

 今は逆に、自分がパワハラになっていないか気にします。食事も、自分から誘ってパワハラに思われないように、心の中で「奢るから誘って~」と思っています(笑)。

―「B'z」「Little Glee Monster」など、アーティストライブではどんな演出を?

 「B'z」は、この曲にはこういう持ち味があるから背景にダンサーを大勢出すとか、ここで稲葉さんがズボンをビリっと取って短パンになるとか、お客様が喜ぶだろうと思うアイデアを提案していました。東京ドームで最後に1周走ってもらう演出は、「稲葉さんのエネルギーがお客様に伝わって欲しいから」とお願いしたものです。

 「Little Glee Monster」は、彼女たちの何を観せるべきかを考えて、セットデザインやアイデアを出して作っていきます。一歩でも先に進んだ方が安心材料が増えるから、つい夜中まで残ってセットの準備を確認したりしていますね。

―演出時に心がけていることはありますか

 まずはステージのサイズです。大型ライブは、お客様はほぼスクリーンを観ているので、どこを観たいか、全身なのか、顔なのか、マイクを持っている手なのか、どういうサイズで撮るかを考えます。

 アリーナクラスだと全てが目に入るから、全体のバランスを考えます。小さい劇場だったら細部まで見えるから、そこで生まれる呼吸、現場にいるんだというお客様の気持ちを大事にする、という感じですね。

 私はいつも、反対の言葉を調べています。例えば、(秋の収穫を祝うと同時に悪霊を追い払う意味を持つ)ハロウィンだったら、「死」の反対を考えて「生」だと思ったら、「死」を使って生きるイメージを持ってもらうように作ります。反対の言葉が、生きるメッセージになる時もあるんです。

―日々の過ごし方を教えてください

 毎日焦っています(笑)。演出の仕事には終わりがないし、正解もない世界ですから、なるべくメリハリをつけて、「自分の店は閉店の時間です」と言ったら、そこからは仕事をしません。

 普通にテレビを見たり、好きなお店に行って好きなものを食べて、いっぱい飲んで寝る(笑)。あとはゆっくり料理をすると“無”になれます。

 筋トレをするのも好きです。筋トレは数字の世界だから、重さ何キロを何回とかやっていると、先週は5回だったけど今週は10回できたとか、できたことがはっきりした世界なので、真っ白になれるんです。

―将来どうなっていたいですか?

 健康に仕事をしていたい。昔から、どうなりたいという欲がなくて、良いところに住みたいとか、高級な洋服を着たいとかは未だにない。ただ、ステージを作り続けたいだけです。

 人は、少しずつしか上達しないんです。やりたいことがあれば、続けていれば、やめなければいつかはできます。そう思います。

 近い将来の『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』は、家族が見える、誰も置いてきぼりにならないショーにしたいと思っています。分からないとか、ついていけないとか思われないように、誰もがシンプルに素敵だと思ってもらえるもので、初心に返って「わーい!」という気持ちになってもらいたいです。

■編集後記

バイタリティとアイデアにあふれた方です。これまで数多くの金谷さん演出のショーを観劇してきましたが、どれも最高に楽しめました。何よりお客様最優先で考えてきた結果なのだと思います。演出とは、目に見える形にならないものだからこそ、人の心に残るものなのかもしれません。

■金谷かほり(かなや・かほり)

1961年2月10日生まれ、群馬県出身。国内外数々のテーマパークでのショーの演出を手掛ける。新作歌舞伎「ファイナルファンタジーX」、ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー、有名アーティストのライブ演出、MBS「金閣寺音舞台」、韓国ロッテワールドのナイトパレード World of Lightsなど。主な受賞歴は、2009年「IAAPA Big E Awards」、2013年「IAAPA YHEA AWARD」、2014年「アウトスタンディング・アチーブメント賞」。大阪芸術大学・舞台芸術学科教授。『ブロードウェイ クリスマス・ワンダーランド』は12/14~25、東京・東急シアターオーブにて上演予定。https://bcwjapan2024.jp/

フリーアナウンサー/リポーター

東京都出身。渋谷でエンタメに囲まれて育つ。大学卒業後、舞台芸術学院でミュージカルを学び、ジャズバレエ団、声優事務所の研究生などを経て情報番組のリポーターを始める。事件から芸能まで、走り続けて四半世紀以上。国内だけでなく、NYのブロードウェイや北朝鮮の芸能学校まで幅広く取材。TBS「モーニングEye」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」で専属リポーターを務めた後、現在はABC「newsおかえり」、中京テレビ「キャッチ!」などの番組で芸能情報を伝えている。

島田薫の最近の記事