OPECが協調減産で合意、その背景と影響
石油輸出国機構(OPEC)は11月30日にオーストリアのウィーンで開催した第171回定例総会において、日量120万バレル前後の協調減産を実施することで合意した。
OPECは9月28日の臨時総会において、OPEC全体の産油量を日量3,250万~3,300万バレルに設定することで合意していたが、具体的にどのような形でこの産油ターゲットを実現するのかは議論が難航し、今総会での最終合意も危ぶまれていた。特に、増産継続を主張するイランとイラクに対して、産油シェアの乱れを嫌ったサウジアラビアがあくまでも増産対応を求めていたことが、過去二回にわたるハイレベル協議での合意形成も阻害していた。
しかし、イランがほぼ現状と同じ日量380万バレルに産油量を凍結することで合意したことで、サウジアラビアも態度を軟化させ、2008年以来となる8年ぶりの協調減産が実行に移されることになる。
サウジアラビアが日量49万バレルと最も大きな減産割当を負担するが、イラクが21万バレル、UAEが14万バレル、クウェートが13万バレルなど、イランとリビア、ナイジェリアの三か国を除いて協調減産が実施されることになる。OPECは、ロシアなどOPEC非加盟国に対しても60万バレルの減産を期待するとしており、最大で180万バレルの原油供給が市場から排除されることになる。当面の実施期間は来年1月1日からの6カ月とされているが、その効果や影響を検証した上で、更に6カ月の期間延長を検討することも合意内容には含まれている。
原油輸入国化が進むインドネシアの加盟資格一時停止などの混乱も見受けられるが、これまで市場原理に原油需給調整を任せていたOPEC(更にはOPEC非加盟国)が、供給管理方針を打ち出したことは高く評価できる。来年1~3月期中に需給均衡状態を実現するのは困難だが、4~6月期のOPEC産原油の推定需要(=国際原油需給が均衡化するOPECの産油量)は日量3,214万バレルであり、OPEC非加盟国の対応状況によっては4~6月期に国際原油需給が均衡化する可能性も十分にある。2017年通期のOPEC産原油の推定需要は3,269万バレルであり、仮に年後半までOPEC加盟国・非加盟国の生産調整が継続できれば、過剰在庫の取り崩しが本格化する可能性も十分にあろう。
■シェールオイルに打ち勝ったOPECも降参した
OPECの当初の戦略では、過剰供給に伴う原油安を放置しておけば、高コストのシェールオイルやサンドオイル、深海油田などの操業が維持できなくなり、OPECが大規模な減産を実施しなくても国際原油需給は均衡化し、シェールオイルなどから国際シェアを奪い返すことが可能というものだった。
しかし現実には、既にシェールオイルの減産圧力はピークを過ぎており、ここ最近は石油リグ稼働数が増加傾向に転じるなど、逆に増産が警戒される状況に変わり始めている。一方、長期化する原油安でOPEC加盟国の経済は疲弊しており、特にベネズエラなどは石油産業を維持することも難しい経済破綻状態に陥っていた。サウジアラビアについても、赤字財政から国債発行による資金調達を迫られており、その他の産油国でも国営企業の持分売却など、原油安対応は限界に近づいていた。
その意味では、シェールオイルとOPECとの闘いは両者がともに敗者になったとも言える。原油安対応でシェールオイルに打ち勝ったOPECも、長期化する原油安には打ち勝つことができなかったのだ。それだけ、2014年以降の需給緩和圧力は強力だったと言えよう。しかし、その結果としてOPECが供給管理再開で結束できたのは極めて大きな変化になる。OPEC総会が決裂すれば、原油相場の急落が新たな国際経済・金融不安を招くとの警戒感もあったが、そのようなリスクオフ環境が回避されたとの意味でも、今回のOPEC総会は高く評価できる。
■今回のOPEC合意へのリスクは?
今後は、OPECが合意内容を着実に履行できるかが焦点になる。OPECは協調減産で合意したが、それが意味を持つものになるためには、合意内容を着実に履行していくことが求められる。しかし、過去には合意の順守が疑われる事例も少なくなく、特に今回の協調減産合意をきっかけに原油高が進行すると、抜け駆け的な増産が始まる可能性がある。仮に合意内容が守られていないとの証拠が出てくるようであれば、原油市場に広がった「期待と楽観」は「失望と悲観」に180度転換し、原油価格に対しては強力な下押し圧力が発生する可能性がある。
また、シェールオイルの生産動向にも注意が必要である。仮に原油価格の上昇でシェールオイルの増産が本格化すると、OPECが協調減産で失った産油量が、シェールオイルの増産に入れ替わるだけの可能性に終わる可能性がある。すなわち、OPECとしては市場シェアをシェールオイルに譲り渡すだけの最悪の結果に終わる可能性があり、その際に改めてOPECが増産体制を強化するようなことになると、国際原油需給は再び供給超過の世界に突入する可能性が高まる。
他にも、地政学的要因から減産状態にあるリビアとナイジェリアの増産ペースが加速するようなことになると、OPECの殆どの国が協調減産を実施したにもかかわらず、OPEC全体の産油水準は上振れするようなリスクも存在する。リビアとナイジェリアについては生産ターゲットの設定が行われていないだけに、両国の生産動向には注意が必要である。
■OPEC総会を受けての原油価格は?
OPECが8年ぶりに原油供給に政策介入を実施して過剰供給の解消に働きかける以上、当面の原油価格に対しては上昇プレッシャーが働き易くなる。今年後半のWTI原油先物価格は1バレル=40~50ドル水準をコアに乱高下が繰り返されているが、55ドル水準までの上昇は十分に許容できる状況に変わっている。投機筋の勢いが付けば、瞬間的に60ドル近辺まで値が飛ぶ可能性も否定はできない。
一方で、過度の原油高はシェールオイルの増産を警戒させることになるが、マーケットではシェールオイル増産が本格化する原油価格のマジックナンバーは60ドル水準にあるとの見方が支配的である。その意味では、今回のOPECの協調減産合意のみで60ドル、70ドルと値位置を切り上げていくのは時期尚早とみている。原油安の必要性は薄れたことで、下値は従来の40ドルから45ドル水準まで切り上がったとみているが、原油価格が再び従来の100ドル水準に到達するには、まだ多くの時間が要求されそうだ。
OPECは国際原油需給、原油価格安定化への第一歩にようやく踏み出した段階であり、今後はその合意内容を着実に履行して「成果」を得ることができるかが注目される。ここでOPECの協調減産が明確な成果を経ずに終わるようなことになると、OPECの追加減産やシェールオイルの減産再開を求める原油安の脅威が再燃する可能性もある。