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アギーレ監督を象徴する4−4−2の戦術的な意図。「日本のラウール・ガルシア」となるのは?

河治良幸スポーツジャーナリスト

12月29日からスタートした日本代表キャンプも3日間を終え、4日目で2015年に移った。

3日目には練習の負荷が上がり、アギーレ監督のテンションもヒートアップしてきているが、その中で一貫して使用されたのが4−4−2というシステムだ。これまでの6試合でもこの形を用いたことはあったが、練習はほとんど中盤にアンカーを置く4−3−3で行っており、公開されている範囲において、最初の本格導入となる。

[練習時の布陣]

緑チーム

豊田   岡崎

乾   香川   遠藤   本田

長友  森重   塩谷   酒井

桃チーム

中島   植田

武藤  清武   柴崎   小林

太田  今野   長谷部  昌子

就任会見で「ベースは4−3−3を考えているが、展開によっては3−4−3になったりもする。その時の選手の状況、試合の展開によって変えていきたい」と語っていたアギーレ監督は、4−2−3−1、5−3−2、4−3−2−1など選手構成や相手に応じて、ありとあらゆるシステムを活用してきた。同じフォーメーションの中で柔軟に対応する監督もいるが、アギーレ監督は複数のシステムを活用して、そこに戦術的な意図を込めるタイプ。その中でも、これまで長い指導キャリアの中で最も多く採用しているのが4−4−2だ。

アギーレ監督が4−3−3をベースに考える理由として、攻守のバランスを安定させやすく、後ろに起点を作りながら効率よくサイドを突けることがある。ただ、速く攻めようとしても、前線にターゲットが1つしかなく、左右のウィングをマークされると前に出しどころがなくなるデメリットがある。基本的には、中盤でタメを作ることに適したシステムだが、試合中に形を変化させやすい部分が、アギーレ監督がチームのベースとして考える大きな要因かもしれない。

一方で4−4−2の場合、コンパクトな3ラインで高い位置からプレッシャーをかけ、ボールを持ったら素早く縦に付けて攻撃を仕掛けることに適している。2人のFWがいることで、相手のDFにターゲットを絞られにくく、2人のコンビネーションから中央にギャップを生みやすい。特に現在は4バックが主流であるため、相手が数的有利を作ろうとボランチやサイドバックにズレて対応させようとすると、周囲にスペースができ、他の選手がそこを突きやすくなる。

ただし、ビルドアップでDFラインと中盤に相手のプレッシャーがかかりやすいため、ボランチというより、セントラルMFの2人は速くシンプルにボールを動かして、2トップやサイドMFにいい形でボールを持たせる役割が求められてくる。

こう語ると4−4−2が例外なく1つのコンセプトで採用されている様に誤解されがちだが、もちろん監督や選手の特徴によってそのメリットとデメリットも変わってくる。アギーレ監督の場合、中盤のセントラルMFはハードワークを前提に、1人が積極的に攻撃参加し、もう1人はワイドに捌きながらバランスを取る傾向にある。

また4−2−3−1やボックス型の4−4−2と異なり、4人のMFは中央とサイドでそれほど固定的に守備的、攻撃的と分かれない。プレミアリーグでは良く見られるが、アギーレ監督の4−4−2はスペインでは珍しいもので、当時も対戦相手に混乱が見られたものだ。

3日目の練習では遠藤&香川、柴崎&清武というコンビだったが、関係としては香川と清武が前に出て行き、遠藤と柴崎はボールをワイドに散らしながらバランスを取っていた。おそらく、この時点で特に誰が前に行き、誰が残るといった要求は出されていないはずだが、香川や清武といった選手は前に出ていってこそ能力を発揮する選手で、中盤での仕事はその起点だ。

そういう視点でアギーレ監督の率いるオサスナがスペインリーグで躍進した2005−06シーズンを振り返ると、当時はパブロ・ガルシアという絶対的な攻守の要をレアル・マドリーに引き抜かれ、アギーレ監督はシーズン前から5バックなど試行錯誤をしていた。しかし、ユース昇格の2年目立ったラウール・ガルシアを抜擢すると、目覚ましい活躍で4−4−2のセントラルMFに定着。バルセロナを破るなど、このシステムをベースにオサスナが躍進する原動力となった。

現在はディエゴ・シメオネ監督の率いるスペイン王者アトレティコ・マドリーで主力を担い、スペイン代表にも名を連ねるラウール・ガルシアの持ち味は、素早いチャンスメークからバイタルエリア、時にはペナルティエリア内にまで絡んで行く攻撃力だ。長身でフィジカルが強い彼を香川や清武と全く同列に扱うことはできないが、アギーレ監督にとって理想的なタイプのMFで、一般的なボランチとも、スペインでいうピボーテとも特徴が異なる。

しかも、トップ下もこなせるラウール・ガルシアにはプニャルという、高い守備力とシンプルなパスに定評のある経験豊富なパートナーがいた。現在の日本代表では遠藤より長谷部に近い。もっとも4−3−3でアンカーを担う長谷部と今野がセンターバックに入っていた事実から考えても、4−4−2といってもウルグアイ戦の途中から使ったアンカーを残す布陣と違い、遠藤や柴崎が中央の一角を担う形はアジアで相手が引いて来た時のオプションかもしれない。ただ、このシステムの中で存在感を高める申し子的な選手が現れる可能性もある。

4−4−2に関して1つ覚えておいてほしいのは、アギーレ監督がこのポジションに求める1つとして、これまで4−3−3のインサイドハーフが見せてきた様な臨機応変な攻撃参加をスピーディな展開の中で行える選手を1人は置くということ。それによって中央の高い位置に厚みと迫力を出すことが前提のシステムであるということだ。

もう1つ、4−4−2をこのタイミングで用いるメリットに、アギーレ監督のコンセプトを植え付けることがある。指揮官にとって実は最もベーシックなこの形で縦にパスを付ける、守備なら縦にボールを入れさせないという意識付けをしておけば、4−3−3や他のシステムを使った時も、大きな意味でのコンセプトを忘れることなく応用していける。

アギーレ監督はポゼッションを全く用いない監督ではないが、中盤でボールを失うリスクを負ってポゼッションを高めるぐらいなら、効率よく高い位置にボールを運んで、素早くチャンスにつなげた方がいい、そこで攻撃が終わったらすぐ切り替えてボールを奪い返せばいいという考え方の監督だ。もちろん、選手の疲労度や得点経過でその優先順位も変わる。

今後、もともとベースとして語っていた4−3−3はもちろん、3バックを使うかもしれないし、パワープレーを意識した布陣を本番に備えてテストするかもしれないが、今回の合宿で初めてフィールドの10人を並べた練習でこの4−4−2は、アギーレ監督のコンセプトをほぼそのまま表していると認識していただいて間違いない。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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