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意外と知らない「かき氷」3つの真実とは?

山路力也フードジャーナリスト
日本人なら誰もが愛する夏の風物詩「かき氷」は、ここ数年劇的に進化を遂げている。(写真:アフロ)

劇的な進化を遂げた現代のかき氷

スイカや冷やし中華と並んで、日本人なら誰もが夏の風物詩として思い浮かべる「かき氷」。赤や緑、黄色などの色鮮やかなシロップがかけられ、お祭りの屋台などで売られているかき氷をイメージする人が多いだろう。汗ばむような夏の暑い日に頭をキーンとさせながら頬張るかき氷の美味しさを一度は経験したことがある人も多いのではないだろうか。今も変わることがない、夏の情景の一つである。

その一方で、ここ数年のあいだに「かき氷専門店」が増えている。夏に限らず秋でも冬でも一年中食べられ、メニューにはかき氷しかない専門店。そんな店の前には長い行列が出来、色々な店のかき氷を食べ歩く「カキゴーラー」「カキゴオリスト」と呼ばれるかき氷マニアたちも現れた。夏になるとテレビや雑誌ではかき氷特集が組まれ、かき氷だけを紹介したガイドブックも出版されている。かく言う私も「かき氷評論家」としてメディアに登場することも少なくない。

そんな自称「かき氷評論家」の立場で言わせて頂くと、世の中の大半の人はかき氷の真実を知らない。かき氷をいまだ夏の屋台のメニューと思っている人があまりにも多過ぎると思っている。かき氷を食べ歩いているというと軽く嘲笑される。一杯が1,000円するかき氷があると聞くと皆一様に驚き、かき氷は安い食べ物なのにと顔を曇らせる。夏場にイチゴのかき氷が売られていないことに疑問を感じる。

今、かき氷の世界は劇的な進化を遂げている。皆がイメージするかき氷とは別の奥深く魅力的な世界が広がっている。シロップを一から手作りし、削り方や氷の温度に気を遣い、盛りつけも美しく食べやすく考えられている。店ごとに違う個性豊かなかき氷の数々は、もはや「料理」と呼んでも過言ではない。

かき氷ブームを構成する二つの潮流

ひと言でかき氷といってもそのスタイルは様々である。実際、かき氷の人気店として取り上げられているお店を眺めると、大きく分けて二つの潮流があることに気付くだろう。まずはかき氷のスタイルを区別することが、かき氷を理解して楽しむ上で重要になってくる。

「雪うさぎ」(駒沢)のお正月限定かき氷。日本酒を使った優しい甘さの一品。
「雪うさぎ」(駒沢)のお正月限定かき氷。日本酒を使った優しい甘さの一品。

一つめのスタイルは「日本式かき氷」。氷を削ってシロップをかける、誰もがイメージする昔ながらのスタイルである。しかしながら、基本的な設計は昔と変わっていないが、内容はまったく別物と言っていい。

かつては着色料が使われた色鮮やかな市販のシロップがかけられていたが、今のかき氷専門店はほとんどが自家製のオリジナルシロップを使用している。旬の素材を使って季節感のあるメニューを提供する。また「バレンタイン氷」「クリスマス氷」など、季節のイベントに合わせた限定のかき氷などもある。かき氷はアイスクリーム同様、通年愛されるメニューになっているのだ。

さらに氷の削り方や盛りつけ方、さらにはシロップの掛け方も研究が重ねられて進化し続けている。氷を削って上からシロップをかけ回していたのは昔の話。今は削っている途中に何度もシロップを忍ばせて、最後まで味が続くように工夫がされている。さらには途中から味が変わるように違うシロップを入れたり、フルーツなどを氷の中に入れたりもする。また、ケーキ型やハート型の型枠に氷を入れるなど、形そのものが斬新なかき氷もある。

もう一つのスタイルは最近急激に増えている「海外のかき氷」である。日本だけではなく韓国や台湾などでもかき氷は人気のスイーツ。本国で人気を集めたブランドが今日本に次々と進出している。日本のかき氷店はほとんどが個人経営だが、海外から日本にやって来たかき氷は日本の企業が海外と提携して出店しているケースが多いのだ。

韓国の伝統的なかき氷「ピンス」。最近の韓国では進化したピンス専門店も多く存在している。
韓国の伝統的なかき氷「ピンス」。最近の韓国では進化したピンス専門店も多く存在している。

韓国のかき氷「ピンス(氷水)」は、細かく削った氷の上に豆や餅、旬のフルーツなどの具材を盛りつけた伝統的なスイーツ。上から食べるのではなく、氷と具材を混ぜて食べるのが本来の食べ方だ。またシェアして食べる前提で、ボリュームも日本と比べて倍くらいの大きさのものも少なくない。さらに最近ではミルクが入った氷を削ったり粉末状にしたピンスも多く、その表現の幅は一気に広がった。昨年原宿にオープンして一気に行列店となった「雪氷(ソルビン)」は韓国発のかき氷カフェチェーンである。

台湾の人気かき氷チェーン「ICE MONSTER」。柔らかな食感がクセになる。
台湾の人気かき氷チェーン「ICE MONSTER」。柔らかな食感がクセになる。

台湾のかき氷は「シェーファーピン(雪花氷)」。牛乳や練乳、マンゴーピューレなどが入った特製の氷を専用の機械で削り出すのが特徴で、氷そのものに甘味や乳成分が入っているので、氷の味や食感がまったく日本のものとは異なる。2015年原宿にオープンし、今では日本各地に展開している「ICE MONSTER」は台湾発の人気かき氷チェーン。可愛らしいキャラクターやカフェのような雰囲気が若い世代を中心に本場台湾同様に日本でも受けている。

氷の種類や状態によって味や食感が変わる

かき氷はその様々な味が注目されがちだが、あくまでも主役は「氷」である。氷の種類や状態によってかき氷の味や食感は驚くほどに変わる。かき氷専門店では氷に一番気を遣っている。そこらへんにある氷をただ削っただけではないのだ。

ゆっくりと冷やして凍らせた氷は、氷としての結晶も大きくなり食感もなめらかになる。
ゆっくりと冷やして凍らせた氷は、氷としての結晶も大きくなり食感もなめらかになる。

まず氷の形状の違いがある。「ブロック氷(貫匁氷)」と「キューブ氷」では氷の作り方も、削り方もまったく異なる。ブロック氷とは柱状の透明な大きな氷の塊で、現在ほとんどのかき氷専門店では製氷会社で作られた「純氷」のブロック氷を使用している。純氷とは透明度が高く溶けにくい特徴がある。家庭の冷凍冷蔵庫で作る氷はマイナス20℃ほどで急速冷凍して作られるのに対し、製氷会社の純氷はマイナス10℃くらいの温度で何日もかけてゆっくりと作られることで、透明度が高く混じりけのない氷が出来るのだ。

ブロック氷の場合、氷を削る時のストロークが大きくなる。例えるならばカツオ節を削った花かつおのような状態だ。かき氷専門店の多くがブロック氷を使うのは、かき氷の食感を重要視しているからである。薄く長く削られたかき氷はふわふわとして口の中で溶けていく。一方のキューブ氷の場合は氷一つ一つがそもそも小さいために、薄く長く削ることが難しく食感もジャリッとしたものになる。屋台などで売られているかき氷の多くはキューブ氷を削ったものだ。

さらに氷の温度も重要となる。氷は冷凍庫などで保存されている場合、ほとんどがマイナス20℃以下になっている。しかし氷が冷た過ぎると前述したように薄く長く削ることは難しい。かき氷専門店のほとんどは氷を冷凍庫から出した後に、少なくともマイナス10℃以上まで温度を上げた状態のものを使う。この温度で削らなければふわふわで口の中で溶けるかき氷は作れない。

日光の老舗蔵元「松月氷室」の天然氷は、多くのかき氷専門店で使われるブランド氷。
日光の老舗蔵元「松月氷室」の天然氷は、多くのかき氷専門店で使われるブランド氷。

ちなみに「天然氷は頭にキーンと来ない」ということが良く言われるが、これは間違いである。天然氷であっても削り方が雑で温度が低ければキーンとなって頭が痛くなる。逆に純氷であってもていねいに削ってあり温度が高ければ頭が痛くはならない。あくまでも氷の扱い方、削り方で決まるのだ。

ちなみに天然氷とはその名の通り、機械的に冷凍して作ったものではなく、山中などで冬の寒さを利用して天然水を何日もかけてゆっくりと自然の力だけで固めた氷のこと。ひと冬で作る事が出来る氷の量には当然限りがあるので、当然のことながら稀少性は高くなり値段も高価になる。冬に作られた氷は「氷室」と呼ばれる貯蔵庫に蓄えられ、氷が多く使われる夏場までその出番を待つ。現在、天然氷は日光や八ヶ岳などいくつかの場所に蔵元があるが、その土地によって水が違うため氷の味や質感も変わるのも面白いところだ。

かき氷のベストシーズンは夏ではない

現在のかき氷は夏だけではなく一年中食べられるようになった。とは言え、多くの人は今でもかき氷は「夏の食べ物」だと思っていることだろう。しかしこれは私をはじめ多くのかき氷マニアが感じていることだと思うが、かき氷のベストシーズンは夏ではない。少なくとも私は夏場よりも秋や冬の方が積極的にかき氷を食べている。

「しもきた茶苑大山」(下北沢)のクリスマス限定かき氷は、栗を使ったモンブラン氷。
「しもきた茶苑大山」(下北沢)のクリスマス限定かき氷は、栗を使ったモンブラン氷。

その理由の一つは、夏場よりも秋や冬の方がメニューが魅力的であるということだ。かき氷専門店の場合、旬の食材を使ってシロップを作る。夏場だと主に柑橘類などが中心になるが、秋や冬になると食材が豊富になりシロップのバリエーションも一気に広がる。例えばサツマイモや柿、栗などを使ったかき氷などは夏場には食べることが出来ない。産地にこだわったり旬のものしか使わないポリシーを持つ専門店の場合、イチゴのかき氷が夏場にないのもそのためだ。

さらに一年中食べられるかき氷専門店であっても、トップシーズンはやはり夏であるため、冬場と比べると夏の方が断然来客数が多くなる。マニアではない多くの人が求めているのはイチゴや宇治金時などの定番シロップであることや、忙しくて凝ったシロップを作る必要や余裕がないこともあり、ある意味分かりやすいメニューが多くなる。そうなるとやはり食材が豊富で手間ひまかけた凝ったかき氷が食べられるのは夏以外ということになる。また、当然のことながら夏場のかき氷は溶けやすい。氷の状態から考えてもかき氷をじっくりと味わえるのは夏ではない。

また、来客数が桁違いに多い夏の場合、人気店ともなると一時間や二時間待つのは当たり前になっている。しかし、夏に何時間も行列を作る人気店であっても、冬などは週末にちょっと行列が出来る程度の混み具合であることが多い。氷の状態が良く、魅力的なメニューが多く、さらに混んでいない秋や冬をかき氷マニアが狙うのは当然のことなのだ。

とはいえ、暑い夏だからこそ冷たいかき氷で涼を取りたいというのは、平安時代から続く日本人としてのDNAでもある。くれぐれも暑い中行列に並んで体調を崩さぬように気をつけて、美味しいかき氷をまずは楽しんで頂きたい。そしてそのあとに待ち構えているかき氷のベストシーズンに向けて準備をしておいて欲しい。奥深く楽しく魅力的なかき氷の世界が貴方を待っている。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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