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アトピー性皮膚炎治療薬の選択肢拡大:デュピルマブからトラロキヌマブへの切り替え効果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【アトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢:トラロキヌマブの可能性】

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う慢性的な炎症性皮膚疾患です。日本では全人口の約10%が罹患していると言われており、多くの患者さんが日々の生活に支障をきたしています。近年、生物学的製剤と呼ばれる新しい治療薬が登場し、治療の選択肢が広がってきました。

今回は、アメリカのマサチューセッツ総合病院で行われた最新の研究結果をもとに、アトピー性皮膚炎の新しい治療法について解説します。

【デュピルマブからトラロキヌマブへ:治療の転換】

現在、中等度から重度のアトピー性皮膚炎に対して、デュピルマブとトラロキヌマブという2つの生物学的製剤が承認されています。デュピルマブはインターロイキン4(IL-4)とインターロイキン13(IL-13)を阻害する薬剤で、多くの患者さんに効果を示しています。

しかし、一部の患者さんではデュピルマブが効果不十分だったり、副作用が出たりすることがあります。そこで注目されているのが、IL-13のみを阻害するトラロキヌマブです。

この研究では、デュピルマブの治療を中止した34人の患者さんのうち、27人がトラロキヌマブに切り替えました。その結果、59%の患者さんで症状が改善したことが明らかになりました。

【トラロキヌマブの効果と安全性:実際の治療成績】

トラロキヌマブを使用した27人の患者さんのうち、7人で症状が完全に消失し、9人で部分的な改善が見られました。平均して6ヶ月間の治療期間で、これらの良好な結果が得られています。

一方で、11人の患者さんでは効果が見られませんでした。効果がなかった患者さんの中には、デュピルマブに戻った方や、別の治療薬に切り替えた方もいます。

副作用については、27人中9人で何らかの症状が見られました。主な副作用は結膜炎(6人)、毛包炎(2人)、指のしびれ(1人)でした。

この研究結果は、トラロキヌマブがデュピルマブの代替治療として有効である可能性を示しています。特に、デュピルマブで効果が不十分だった患者さんや副作用が出た患者さんにとって、新たな希望となるかもしれません。

【日本人患者さんへの示唆:治療選択の幅が広がる】

日本でも、デュピルマブとトラロキヌマブはともに承認されていますが、この研究結果は日本人患者さんにとっても重要な意味を持ちます。

アトピー性皮膚炎の症状や治療反応性には個人差があるため、複数の治療選択肢があることは非常に重要です。デュピルマブで効果が不十分な場合でも、トラロキヌマブに切り替えることで症状が改善する可能性があります。

また、副作用の観点からも、患者さんそれぞれに合った治療薬を選択できるようになります。例えば、デュピルマブで結膜炎などの副作用が出た場合、トラロキヌマブに切り替えることで症状が改善する可能性があります。

ただし、この研究はアメリカで行われたものであり、日本人患者さんでの効果や安全性については、さらなる研究が必要です。日本人の遺伝的背景や生活環境の違いによって、治療効果や副作用の出方が異なる可能性もあるからです。

アトピー性皮膚炎の治療は、症状の程度や個人の状況によって異なります。軽度から中等度の場合は、保湿剤やステロイド外用薬などの従来の治療法で十分な効果が得られることも多いです。中等度から重度の場合に、これらの生物学的製剤の使用が検討されます。

最適な治療法を選択するためには、皮膚科専門医との綿密な相談が不可欠です。症状の程度、これまでの治療歴、生活環境など、様々な要素を考慮して、個々の患者さんに最適な治療計画を立てることが重要です。

アトピー性皮膚炎の治療は日々進歩しています。新しい治療薬の登場により、これまで難治性とされてきた患者さんにも希望が広がっています。しかし、どの治療法を選択するかは慎重に判断する必要があります。

皮膚科専門医との定期的な診察を受けながら、自分に合った治療法を見つけていくことが、アトピー性皮膚炎との上手な付き合い方につながります。症状の改善だけでなく、生活の質の向上を目指して、医療者と患者さんが協力して取り組んでいくことが大切です。

参考文献:

1. George SE, Yu J. Tralokinumab as an Effective Alternative after Dupilumab Treatment Failure in Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis: A Real-World Study. Journal of the American Academy of Dermatology. 2024. doi: https://doi.org/10.1016/j.jaad.2024.08.019

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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