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ラグビー日本代表は来年のW杯でサッカー日本代表ばりの“快進撃”を果たせるか

永田洋光スポーツライター
ジョージアに互角に戦った日本FW。途中出場の姫野和樹は地元でトライ!(写真:アフロ)

 ロシアで開催されているFIFAW杯ロシア大会で、サッカー日本代表が初戦でコロンビアを2―1と破り、グループリーグ突破への期待を大いに高めた。

 そのサッカー日本代表の大一番となる、24日深夜キックオフのセネガル戦を前にした23日、ラグビー日本代表も、6月のテストマッチ・シリーズの勝ち越しをかけて、ジョージア代表を豊田スタジアムに迎え撃った。

 結果は28―0。

 15年8月29日にW杯壮行試合として行なわれたウルグアイ戦(40―0)以来のシャットアウト勝ちを収めて、6月の3試合を2勝1敗で終えた。

 6月を前に、日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は「3勝」を目標に掲げたが、いつものように目標は達成されなかった。

 それでも、世評はおおむねポジティブで、世界ランキングの近い相手(日本11位、ジョージア12位=23日時点。現在は13位)にしっかり勝ち切ったことが評価されている。

 けれども、目標を達成できなかったのだから、3試合を総括すれば「可もなし不可もなし」といったところに落ち着くのではないか。

 以下、ジャパンのパフォーマンスを点検してみよう。

シャットアウトで勝ったジョージア戦のリアリティ

 まず評価されるべきは、スクラムに定評のあるヨーロッパのチームに対して、3試合を通してほぼ安定したスクラムを組めたことだ。

 エディー・ジョーンズ時代の14年に、ジャパンがルーマニアとジョージアに遠征し、スクラムを粉砕されたことを考えれば、これは高く評価されるべきだ。

 課題だったラインアウトも、最長身選手が身長198センチのアニセ・サムエラで、彼を除けば195センチ以下の選手しかいなかったにもかかわらず、安定的にボールを獲得できた。

 攻守の起点となるセットプレーが計算できるようになったことが、3試合で総得点84、総失点42という安定した戦いぶりを支えたのだ。

 おかげで防御もかなり安定した。

 ただし、ジョージアを完封できたのは、FWがスクラムで優位に立ち、モール防御でも健闘して、彼らの力業を封印できたからだ。バックスの能力を比べれば、イタリアの方がはるかに才能に溢れていて危険であり、FW以外にトライを奪う術がないのがジョージアなのだ。

 実際、イタリアとの第1戦では防御ラインのギャップを駆け抜けられてトライに至る原因を作り出し、第2戦では、ジャパンがセットプレーからムーブを仕掛けたにもかかわらず、イタリアの防御に人数で上回られて、苦し紛れに蹴ったボールをカウンターアタックされてトライを許している。

 防御は修正を経て上向きにはなったが、決して鉄壁ではなかったのだ。

 イタリアとの第2戦は、シックスネーションズ参加国としてのプライドをかけて本気で挑んできたイタリアに、ジャパンが少々気圧されて敗れたゲームでもあった。

 ここでイタリアを返り討ちにしていれば、ジョセフHC率いるジャパンの評価がグッと上昇するところだったが、現実は違った。

 ワールドラグビーが毎週更新する世界ランキングによれば、イタリアはジョージアよりも下位(現在14位)に位置しているが、これはイタリアがシックスネーションズで、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランド、フランスといった強豪と毎年真剣勝負を繰り広げ、そこで敗れているからに他ならない。

 ジャパンが、この秋にニュージーランド、イングランドと、掛け値なしの強豪国と真剣勝負に臨むことを考えれば――そして、その先にW杯本大会で、本気のスコットランド、アイルランドと戦うことを考えれば――、問題なのは本気のイタリアに勝てなかった事実であり、それを踏まえた上で、これからどう力を伸ばすかだ。

 テストマッチ2勝1敗は、想定内の結果であり、想定を上回って強化が進んでいることを証明するものではない。

 「可もなし不可もなし」と評価したのは、そういう意味なのである。

 ちなみに、ジョージア戦で、ジャパンがキックを多用してゲームをコントロールしたことで、ジョセフ流の「キッキング・ラグビー」が実を結んだかのように言われているが、雨でボールが滑りやすいコンディションと、ジョージアのバックスにイタリアほどのカウンターアタック能力がないことを考えれば、誰が指揮を執っても勝つためにはキックを多用しただろう。

 ジャパンが、雨というコンディションと、相手の特徴を考慮に入れて、リアリズムに徹してジョージアをシャットアウトしたことは素晴らしい。

 ただ、キャプテンのリーチ・マイケルは、試合終了直後のインタビューで「見ていてつまらないラグビーだったけど、これが勝つためのラグビー」と話した。

 それがジョージア戦のリアリティだったのである。

W杯は“巨大な一発勝負”だ!

 このリアリティに満ちたジャパンが、来年のW杯で、今ロシアでロシア代表が国中を熱狂させているようなブームを起こせるか。

 あるいは、アイスランド代表のような魂に満ちた戦いぶりを見せられるのか。

 サッカーW杯では、ロシア代表がFIFAランキングをあざ笑うかのように活躍し、同じように日本もランキングが何も語らないことを示している。

 彼らの行き着くところがどこなのかは現時点ではわからないが、W杯を“巨大な一発勝負”と考えれば、ラグビー日本代表もまた“大化け”する可能性を秘めている。

 ラグビーは、サッカーよりもはるかにリアルに実力差がスコアに反映されるスポーツだが、それでも他ならぬジャパンが、15年W杯初戦で南アフリカ代表を破るという、ジャイアント・キリングを達成しているのだ。

 いくら指揮官が替わったとはいえ、あの大会を知る選手たちが今のチームの中心だ。

 遺伝子は受け継がれている。

 あとは秋にジャイアント・キリングの可能性が感じられる戦いぶりを見せられるかどうか。

 腰痛治療のために母国ニュージーランドに一時帰国することになった指揮官には、ぜひ丸いボールのW杯をじっくり見て欲しい。

 格下が格上を倒すことはどういうことであるか。

 格上が格上であり続ける理由はどこにあるのか。

 そこには、世界で勝つためのリアリティがぎっしりと詰まっている。

 

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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