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「ゴホゴホ!食べ物が気管に入った」は本当に気管に入っているのか? 呼吸器内科医の解説

倉原優呼吸器内科医
(提供:イメージマート)

食事中、食べ物が入ってはいけないところに入ってしまってゴホゴホとむせることがあります。「食べ物が気管に入った」とよく言われていますが、本当に気管に入っているのでしょうか?

なぜ食事でムセてしまうのか

そもそもなぜ食事でムセてしまうのかというと、ごはんを異物と認識して気管や肺に入らせないようにするためです。とっさに出るゴホゴホを、「咳嗽反射(がいそうはんしゃ)」といいます。

咳嗽反射を起こす神経は、迷走神経(めいそうしんけい)といいます。なぜこのような呼び方になっているかというと、とても体内の走行が複雑だからです。

とにもかくにも、この神経の枝が刺激されると咳が出るのですが、食事が気管に入ってしまう直前に、迷走神経の1つである上咽頭神経が「こりゃイカン!気管に入れるな!」と、急いで肋間筋と横隔膜を収縮させて、咳を誘発させてくれるのです(1)()。実際にはもっと複雑な仕組みですが、ざっくり書きました。

図1. 咳嗽反射のメカニズム(参考資料1より引用)
図1. 咳嗽反射のメカニズム(参考資料1より引用)

食事は実際には気管に入っていないことが多い

食事の種類によるのですが、基本的に気管に入らないためにムセるので、実際には気管に入っていないことが多いです。「食事が気管に入った」と来院されたときにはすでに咳がおさまっていることが多く、こういった患者さんは、しっかりムセることができているので気管には入っていません。

また、水やお茶などの液体でムセやすいですが、多少気管に入っても肺炎を起こさないことが多く、肺から水分は吸収されますので、これも過度に心配する必要はありません。

ただ注意点があります。咳が続いている場合、本当に異物が気管に入っている可能性があります。そのため、「食事が気管に入った」と思った後も、何時間も咳が続くような場合は、病院は受診するようにしてください。

また、高齢者の場合、いよいよムセることができなくなってくると、症状があまり出ないことがあります(図2)。誤嚥性肺炎になって、静かに発熱だけ起こす患者さんもいるので、おかしいと思ったらやはり病院を受診するようにしてください。

図2. 加齢と咳嗽反射(筆者作成)
図2. 加齢と咳嗽反射(筆者作成)

小さな子どもは、うまく咀嚼できずに気管に異物が入ってしまうことがあるので、これもおかしいなと思ったら早めに受診するようにしましょう。

まとめ

「食べ物が気管に入った」と思っている人のうち、しっかりとムセることができている方は、気管への誤嚥を防げていることが多いです。

ただ、小さな子どもや高齢者では思わぬ誤嚥を起こすことがあるため、症状が長引く場合は病院を受診しましょう。

(参考)

(1) Chung KF, et al. Lancet. 2008 Apr 19;371(9621):1364-74.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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