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やはりドラフト1位の実力 横浜DeNA・度会隆輝は“全力疾走”で新人王を獲る

横尾弘一野球ジャーナリスト
笑顔と全力疾走がトレードマークの度会隆輝(横浜DeNA)は新人王の有力候補だ。

 プロ野球12球団の春季キャンプは次々と打ち上げられ、これからはオープン戦が本格化する。2月25日にキャンプ地の宜野湾で東北楽天とのオープン戦を実施した横浜DeNAは、4対2で快勝して約1か月のキャンプを終えた。今年こそのムードが漂うチームの調整はおおむね順調だったという印象だが、その中でドラフト1位入団の度会隆輝は好スタートを切っている。

 プロとしてフリー打撃の初球でライトへアーチを架けるなど、「何かを持っている」と感じさせるパフォーマンスが度会の魅力だが、一方でキャッチボールから1球を大切にする姿勢をはじめ、横浜高やENEOSで叩き込まれた基本を忘れていない。そして、変わらずに愛されキャラである。

 昨春に、ENEOSで雑誌掲載用のポートレートを撮影した時のことだ。

「聞いた話なんですけど、瞳が少し潤んで見えたほうが、全体的な映りがいいらしいんです」

 そう言った度会は、目を閉じると瞼の上から指先で目玉をグリグリと押し、涙目にして撮影に臨んだ。その間、カメラマンやチームメイトは「度会の涙待ち」になったのだが、雰囲気は悪くなるどころか、「おまえ、そこまでするか」という声に笑いが起き、現場のテンションは一気に上がった。

 そうして、ENEOSで技術はもちろん、人間性でもチームの中心と認められていた度会は、横浜DeNAでも若さを前面に出したプレーや新人らしい振る舞いでチームに溶け込み、プロの水にも慣れていっているようだ。もちろん、打席に向かう際に名前をコールされると、ひと際大きな拍手が起こる。

 2月12日の中日との練習試合で対外試合が始まると、初球からフルスイングするなどアグレッシブな姿勢で、オープン戦ではギアを一段上げたバッティングを見せている。そして、何より度会の魅力を示しているのが全力疾走だ。打ったら一塁まで全力で走るのは基本中の基本と言われるが、フライを打ち上げても、ピッチャーゴロでも全力で走れる選手は限られている。

 社会人でも、都市対抗のような大舞台になれば、大半の選手が一塁まで全力で走る。しかし、観客が少ない試合でも同じように走っている選手は多くない。実は、こうした全力疾走は、普段から積み重ねていなければできないと言われている。それができるのがENEOSのよき伝統であり、度会もしっかりと守っていた。そして、3年間で体に染みついた全力疾走を、プロでも恐らく無意識に続けている。度会のようにフルスイングする打者は、どうしても打ったあとのスタートが遅くなる。それでも、力強い走り出しと急加速で、ゴロの打球では相手の内野陣にプレッシャーをかけている。

 また、そうやってプレーしていた習慣は着実に体力も養っており、これはペナントレースが幕を開けたあと、特に疲れが溜まる夏場に違いを発揮するはずだ。これからは、度会からトレードマークの笑顔が消える時期もあるだろう。それでも、持ち前の切り替えの早さで乗り越え、新人王を争う活躍を見せてくれるはず。野手の新人王は2019年の村上宗隆(東京ヤクルト)が最後だが、今季のセ・リーグは度会をマークしておきたい。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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