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「ティラミスヒーロー」商標問題は今どうなっているか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:商願2018-104109 公報

「本日オープンした渋谷スクランブルスクエアに『ティラミススター』が期間限定で出店してるぞ~!」という記事を読みました。覚えている方も多いと思いますが「ティラミススター」とはシンガポールの瓶入りティラミス屋「ティラミスヒーロー」が、日本において関係ない会社に商標登録を先取りされていたため、苦肉の策で変更した商標です。

この「ティラミスヒーロー」商標問題、遠い昔のできごとのように思えますが、今年初めの話だったのですね(参考過去記事)。もう一般メディアで取り上げられることもないと思いますので、関連商標登録が現在どうなっているかを調べてみました。なお、説明の都合上、今日本で「ティラミススター」という商標を使用しているシンガポールの会社(およびその日本法人)を「本家ティラミスヒーロー」と呼ぶことにします。日本で「ティラミスヒーロー」を先取り商標登録してしまった株式会社gramという会社(以下gram社)は、他にも勝手出願的な行為を繰り返している会社のようです。

主な関連する商標登録と出願の審査状況は以下のようになっています。

「ティラミスヒーロー」文字商標登録 第6031954号

29類(乳製品等)、43類(飲食物の提供)で登録されています。こちらについては、特に異議申立や無効審判は請求されていません。実は、ティラミスを販売するのであれば、この商標権は直接は関係ありません(「飲食物の提供」はお店で食べさせるサービスを意味し、持ち帰り商品の販売とはまた別です)。

Tiramisu Heroロゴ+猫商標結合商標 第6073226号

画像

本家ティラミスヒーローがシンガポールで使用していたロゴを勝手出願したものです。(gram社は「商標をお譲りしてもいい」というようなことを言って「盗っ人猛々しい」と(「ひるおび」で八代弁護士に)批判されたりしていました)。

本商標登録には、30類(ティラミス等)、35類(菓子小売等)、43類(飲食店における飲食物の提供等)について、商標法4条1項7号(公序良俗違反)を理由に取消となっています。(審決では「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない」と判断されています。)29類(乳製品等)は残っていますが、前述のとおり、ティラミスの販売には直接は関係ありません。

なお、この商標については続きがあって、米国のイラストレーターから「自分の作品を流用したものだ」という物言いが付き(参考過去記事)、本家ティラミスヒーローの代表が謝罪し、もうこの猫のイラストは使わないと謝罪する事態になっています。その後は特に情報が出ていないですが、内々に和解したのか、うやむやになってしまったのかはよくわかりません。

「ティラミスヒーロー」文字商標登録出願 商願2018-25681

上記の文字商標登録の分割出願であり30類(ティラミス等)、35類(食料品の販売等)が含まれるので重要な出願です。9月3日に拒絶理由が通知されていますが、そこでは、4条1項7号(公序良俗違反)に加えて、4条1項10号(他人の周知商標等の類似)、4条1項15号(出所の混同)、4条1項19号(他人の周知商標との類似(不正目的))が、本家ティラミスヒーローとの関係において指摘されています。「再度、審査を行った結果、以下の拒絶の理由が発見されたため、あらためて通知します」と書いてありますので、メディアにおける炎上騒ぎが審査官の判断に影響した可能性があります。

今のところこの拒絶理由には応答がありません(覆すのはかなり困難に思えます)。延長を加味しても来年の1月13日には応答期限が来てしまい、その時までに応答がないとこの出願は拒絶されます。そうなると、本家ティラミスヒーローが晴れて「ティラミスヒーロー」を日本でも商標登録できることになります。

猫イラスト商標登録出願 商願2018-104109

本家ティラミスヒーローがシンガポールで使用していたイラスト(こちらはオリジナル作品だと思います)(タイトル画像参照)をgram社が先取り的に出願したものです。これについても、つい先日の11月15日に、4条1項7号(公序良俗違反)、4条1項10号(他人の周知商標等の類似)、4条1項15号(出所の混同)、4条1項19号(他人の周知商標との類似(不正目的))の拒絶理由通知が出ています。同様に覆すのは難しいように思えます。

ちなみに、gram社による別の勝手出願「てぃらぷり」(商願2018-062386) もプリン専門店「うっふぷりん」の商品と混同を招くことを理由に拒絶になっています。通常、未登録の先使用商標についてはそれなりの周知性がないとスルーされてしまうことが多いのですが、gram社の出願は未登録商標を狙った勝手出願の可能性が高いということで、特許庁内で厳しい目で見られるようになったのかもしれません。

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商標は先願主義である以上(特に消費者向けのある程度規模の大きい)ビジネスを始めるときには事前に出願しておくのが基本です。今回のケースも最終的には本家ティラミスヒーローが「ティラミスヒーロー」を日本でも商標登録できて終わりそうですが、先に出願さえしておけばこんな面倒なことにはならなかったわけです。とは言え、商標法の目的は協業秩序の維持であり、特許庁の審査官が「これを登録してしまったら公正な競争が阻害されるな」と判断してくれれば柔軟に動いてくれることもあります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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