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眞子さまの結婚宣言「お気持ち」文書の大波紋とバッシング報道の背景にある皇室タブー

篠田博之月刊『創』編集長
秋篠宮家の長女と次女(写真:Motoo Naka/アフロ)

第一稿はさらに衝撃の書き出しだった

 2020年11月13日に発表された秋篠宮家長女・眞子さまの結婚宣言とも言うべき文書には驚いた人も多かったろう。あれだけ逆風が吹き荒れてきたのに結婚の意思が揺るがなかったことに対してだ。

 『週刊新潮』11月26日号によると、文書は、毎週金曜日に開かれている秋篠宮家を支える部局のトップである皇嗣職大夫の会見で配られたという。8日に立皇嗣の礼が行われ、30日の秋篠宮の誕生日会見は事前収録だから、眞子さまの文書発表のタイミングは13日しかなかったわけだ。

『週刊新潮』11月26日号(筆者撮影)
『週刊新潮』11月26日号(筆者撮影)

 一部週刊誌では書かれていたが、実は眞子さまの「お気持ち」文書は、当初、2月に発表される予定もあった。宮内庁が結婚延期を発表したのが2年前の2月で、「2020年に延期する」という、その期限だったからだ。しかし、文書の内容をめぐって議論がなされ、眞子さまは宮内庁の重鎮たちとも相談を重ねたらしい。

『週刊朝日』11月27日号(筆者撮影)
『週刊朝日』11月27日号(筆者撮影)

 当初の文書第一稿の書き出しは「今年、入籍します」だったという。『週刊朝日』11月27日号がスクープとうたって経緯を報じているが、見出しはこうだ。「書き出しは『今年、入籍します』眞子さまが準備した『幻の第一稿』」。第一稿では12月に入籍とされていたが、検討の上、穏当な内容に書き替えられたのだという。

バッシング報道を続けた週刊誌はどう反応したか

 小室家バッシングで結婚に水を差してきた週刊誌が今回の文書をどう報じたかは興味深い。前出『週刊新潮』の見出しは「『眞子さま』結婚宣言で『小室圭さん』圧勝」。『女性セブン』12月3日号はもっとあけすけだ。「小室圭さんと母ほくそ笑む『2億円結婚』」。バッシングしてきた小室さん母子にしてやられたという悔しさがにじみ出ている。

 結婚による眞子さまの皇籍離脱に伴う一時金が億単位になるそうで、小室家にそんな大金を渡してよいのか、というのが週刊誌の反対キャンペーンの一論拠だった。『週刊文春』11月26日号には「お気持ち公表後、宮内庁には抗議や苦情の旨の電話が殺到した」という関係者談話が載っている。個人の結婚についてこういう反応がなされるというのは、これまでの週刊誌のバッシング報道がいかに影響を及ぼしているかを示すものだ。

『週刊文春』11月26日号(筆者撮影)
『週刊文春』11月26日号(筆者撮影)

 ついでながらこの『週刊文春』の記事によると、この眞子さまの意思が強いのを受けて、母親の紀子さまは「最近では結婚容認に傾いておられるようです」という関係者のコメントが載っている。ただ父親である秋篠宮はいまだに小室さん母子への不信感を根深く持っているという。

 前述したように億単位の一時金が支払われることについては、この記事によると当の眞子さまは「おカネはいりません」と言っているという。記事ではそうした眞子さまの覚悟を「駆け落ち同然の結婚計画」と評している。記事の見出しはこうだ。

「『お金はいらない』眞子さま”駆け落ち”計画 秋篠宮が覚悟 眞子さまを”勘当する”」

 週刊誌の見出しがセンセーショナルなのはこれに限ったことではないが、この『週刊文春』の見出しは、内容に比してあまりにも扇情的だ。

「お気持ち」文書が投げた大きな波紋

 さて2年以上にわたって続いた眞子さま結婚をめぐる騒動に、今回の「お気持ち」文書が大きな影響を与えるのは間違いない。週刊誌の一色となってのバッシング報道に、もう結婚はなくなったという印象を持っていた人も少なくないと思うが、今回の文書は、その流れを大きく変えると思われるし、反発も引き起こすかもしれない。

 一連のバッシング報道についてはこのヤフーニュースでも私は相当コメントしてきたし、拙著『皇室タブー』でも大きな紙幅を割いている。例えば2019年3月に佳子さまが姉の結婚を支持するコメントをした時の日本社会の反応について書いた記事から一部を引用しよう。

《眞子さまの結婚をめぐる一連の騒動は、「結婚においては当事者個人の気持ちが大事」という個人主義と、皇室については一市民と異なり家系にこだわるのは当然という「家」を重んじる考え方との相克だったと言える。皇室の伝統を重んじる立場からすれば、母子家庭で借金まで抱えた小室家は皇室と関わるのにふさわしくない、という見方が、結婚反対の論拠となる。結婚が当事者の意思にそってなされるべきというのは、一個人なら当然だが、皇室は別だという考え方だ。

 考えて見れば雅子妃の適応障害問題も同様だった。キャリアウーマンとして育ってきた雅子妃が、皇室に入ったとたんに、「跡継ぎを産むのが最大の務め」という皇室の伝統的考えとの軋轢を感じ、それが長く続くことによって変調をもたらした。眞子さまも、このままの状態が長く続いたり、結婚が破談になったりした場合は、自分自身が否定されたという思いがトラウマになっていく可能性はある。》

《ことに雅子妃のような悲劇が続くと、今後、皇室に嫁ぐ女性を見つけるのが極めて困難になる。だから雅子妃と眞子さまの問題は、象徴天皇制という曖昧なシステムに起こるべくして起きた問題といえる。宮内庁や皇室伝統を重んじる保守派は、象徴天皇制存続の為に良かれと思ってふるまっているのだろうが、それは危険な諸刃の刃と言える。》

週刊誌のバッシング報道と「皇室タブー」の関係

《もうひとつ考えるべきことは、皇室報道を毎週のように続けている週刊誌が、小室家バッシングという一色に染まっていることだ。これは恐らく、情報源となっている宮内庁関係者や皇族の一部に週刊誌全体が依拠しているためだろう。取材する者の心情は、どうしても取材源に引っ張られる。

 眞子さま結婚延期騒動は、象徴天皇制が歴史の流れとどう折り合いをつけていくべきかという、なかなか本質的な問題を提起しているのだが、同時に報道のあり方をめぐる問題も提起している。昭和天皇の時代まで顕著だった「皇室タブー」は、一見すると過去のものになったかのように思われているが、報道がある種の呪縛に囚われているという意味では、本質は変わっていないようにも思えるのだ。》

 週刊誌のバッシング報道が皇室タブーと関わりがあるという指摘は一見するとわかりにくいかもしれないが、別の記事ではこう書いた。

《そもそもこの騒動のきっかけは、2017年末に出た『週刊女性』の記事で、そこには圭さんの母親が元婚約者への借金を返していないという話が書かれていた。しかし実はその何カ月か前から、週刊誌には、小室家がいかに貧しいかとか、父親が自殺したらしいといった話が次々と報じられるようになっていた。

 考えようによっては、母子家庭で育った小室さんが貧しい中で留学を行うなど努力を重ね、皇族と結婚というのは、美談仕立てで報じることだってできる。それがそうならずにバッシングが拡大していった背景には、恐らく皇室内外でこの結婚に反対する声があったからではないだろうか。

 例えば2017年の婚約内定会見で、小室さんが眞子さまを「月」にたとえ、眞子さまが小室さんを「太陽」にたとえたのだが、皇室関係者の間では、皇族が「月」で一般人が「太陽」とは何事だという反発もあったと言われている。どうもこの結婚に反対する動きの中に、皇室関係者の小室家の「家柄」を問題にする空気があったと思われる。》

  週刊誌の皇室報道は、基本的に皇室の保守派に依拠する論調で続いてきたのが特徴だ。それは、皇室のプライベートな情報に踏み込む際にも、自分たちは皇室の尊厳を重んじる立場から問題提起しているのだというエクスキューズができるからだ。また皇室の保守派の中にも、週刊誌に情報を流すことで自分たちの主張を広めようとしてきた勢力があって、それが雅子妃バッシングにもつながったし、今回の小室家バッシングにもつながっている。皇室タブーを意識して、安全弁として皇室保守派のスタンスに乗っかる週刊誌と、皇室保守派の思惑が一致して、ある意味で偏った報道がなされてきたとも言える。眞子さま結婚報道についても、小室家の家柄を問題にし、一時金目当てで小室母子が画策しているのではないかといううがった見方が一貫して貫かれてきた。

 その意味でも一連の眞子さま結婚報道は、結婚に関して当事者2人の個人の意思を尊重すべきという考え方と、皇室は特別な存在で、家を重んじるのは当然という考え方の相克だった。

 だから今回の眞子さまの「お気持ち」文書は、個人の意思をあくまで貫くという宣言であり、大きな波紋を投げることになったのは間違いない。

 なお以上の引用は下記の2つの記事からとったものだ。関心ある方は参照してほしい。

波紋を広げた「佳子さま発言」は象徴天皇制をめぐる大事な問題を提起している

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190406-00121190/

小室圭さんが突如公表した文書の波紋と眞子さまとの結婚延期騒動めぐる気になる動き

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190130-00113054/

 さらにそれらを集大成する形でまとめたのが拙著『皇室タブー』だ。興味ある方はぜひこの本を読んでほしい。

http://www.tsukuru.co.jp/books/

 眞子さま結婚騒動は今後どうなっていくのだろうか。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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