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デヴィッド・ボウイが映画界に遺したDNA。叶わなかった父子の共作

斉藤博昭映画ジャーナリスト
1974年、デヴィッドと当時の妻アンジー、息子のゾウイ(ダンカン・ジョーンズ)(写真:Rex Features/アフロ)

1月10日に亡くなったデヴィッド・ボウイは、俳優としても唯一無二の個性を発揮し、『地球に落ちて来た男』、『戦場のメリークリスマス』といった代表作はもちろん、アンディ・ウォーホールを妙演した『バスキア』、今でもマニアックな人気の高い『ラビリンス/魔王の迷宮』、ミュージシャンとしての才能を合致させた『ビギナーズ』など、次々と忘れがたい映画が挙げられる。

しかし、ボウイが映画界に遺したもの。その重要なひとつが「息子」だろう。ダンカン・ジョーンズ。映画監督である。

7歳の息子は音楽に興味ナシ

1978年、来日したボウイは、出演したTV番組「スター千一夜」で、同行した当時7歳の息子についてこんなことを語っている。

「息子の名はゾウイ。それはひとつの名前だけどね。とくに名前の意味はない。

目だけは似てないけど、ブロンドで、明るい性格が僕と共通かな。

あまり音楽には興味がないみたいなんだ。数学が好きなんだよ」

息子の本名はダンカン・ゾウイ・ヘイワード=ジョーンズ(父の本名はデヴィッド・ロバート・ヘイワード=ジョーンズ)。

幼少時はゾウイ・ボウイとして親しまれたその息子は、大学で哲学を専攻した後、ロンドンのフィルム・スクールに入り、映画の道を志すことになった。

初監督作を映画ファンが熱く支持

短編を経て、初の長編監督作『月に囚われた男』で、ダンカン・ジョーンズは一気に映画監督としての名声を築き上げる。大企業の作業員として月に送られ、たった一人で生活する主人公。その衝撃的な運命を描き、世界中のSF映画ファンの心をとらえたのだ。続く第2作『ミッション:8ミニッツ』では、列車爆発事件の8分前に時間をさかのぼり、犯人を探すという、これまた大胆なサスペンスに挑んだ。

その『ミッション:8ミニッツ』でインタビューした際、作品とはまったく関係ないにもかかわらず、ダンカン・ジョーンズは父デヴィッド・ボウイについても語ってくれた。その部分を、改めてここに残しておきたい。

ダンカン:父が一緒に仕事をした大島渚の映画は好きだし、北野武も大好き。今度の映画は、日本のマンガやアニメからも強い影響を受けているよ。

Q:マンガやアニメは、子供時代にお父さんに買ってもらったとか?

ダンカン:いくつかは父に紹介してもらった。その後、自分で探っていったんだ。父からの影響という点では、子供時代から熱心に勧められた読書だ。フィリップ・K・ディックやウィリアム・ギブソン、J・G・バラードを読み漁り、僕のSF愛が育っていった。

あとはキューブリックだね。『時計じかけのオレンジ』は僕が7歳の頃に、父に観せてもらった。幼い僕が衝撃を受けないように、父は「この場面はこういう意味がある。だから怖がらなくていいよ」と、横に座って解説してくれたんだ。その記憶は今も鮮明に残っている。フリッツ・ラングの『メトロポリス』も、そうやって観た。

Q:お父さんが、あなたの作品に出演したいと言ったりは?

ダンカン:逆に、僕の方がいつか父に出演してほしいと願っている。でも、それまで十分に経験を積み、本当に一流の監督になったと自覚したとき、満を持して、出演依頼をしたいんだ。まぁでも、僕が音楽の領域に足を踏み入れないように、父もあえて僕の世界に侵入してこないと思う。僕は死んでも音楽をやりたいと思わない。楽器で弾けるのはトライアングルくらいで、父の曲が流れたら、チン、チンと音を鳴らせるくらいかな(笑)。

Q:『ミッション:8ミニッツ』を、お父さんは観たのですか?

ダンカン:ニューヨークの映画館に、一般の観客にこっそり紛れて観に行ってくれた。そういう体験自体が楽しかったと言ってたよ。息子の作品なので、客観的な感想は控えてたけど、かなり気に入ってくれたようだ。今となっては、僕が音楽の道ではなく、映画の道を選んだことを、父は心から喜んでくれている。

7歳の息子に『時計じかけのオレンジ』を観せる。その息子が映画監督になると、一般観客に紛れて映画館で楽しむ…。

デヴィッド・ボウイの素顔が伝わる、貴重なインタビューとなった。

いま改めて、息子の監督作に父が出演できなくなったことが残念でならない。

現在、ダンカン・ジョーンズは、世界的な人気を誇るゲームを映画化した『ウォークラフト』の公開を控えている(彼はゲームオタクでもある)。さらにグラフィックノベルを基にした『Mute』という新作も待機中で、映画監督としての成功の道を着実に歩んでいる。

デヴィッド・ボウイのDNAは、映画監督へと受け継がれた。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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