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2017年、CMが映し出したヒロインたち(上半期編)

碓井広義メディア文化評論家
2017年歳末の風景 札幌(筆者撮影)

テレビ番組もさることながら、1年間に流されるCMの数は膨大なものになります。そんな中から、今年印象に残ったCMとヒロインたちを記録しておこうと思います。まずは今年の「上半期」編です。

<永野芽郁さん>

アルペン  青い冬、はじまる「バイト先にて」

「スキー場=恋の舞台」というイメージ(あくまでもイメージです)が一般化したのは、いつのことだろう。まず、1987年に公開された、原田知世さん主演の映画『私をスキーに連れてって』の存在は外せないですね。

そして、この映画以上に影響を与えたのが、89年に登場したアルペンのCMです。特に93年のCMソング、広瀬香美さんが歌った『ロマンスの神様』は衝撃的でした。

あれから四半世紀近くが過ぎた冬。懐かしいあの曲を口ずさみながら、スキー場でバイトをしているのは永野芽郁(めい)さんです。

そこへ突然、90年代スタイルのおじさん(「ホリイのずんずん調査」で知られるコラムニスト・堀井憲一郎さん)が現われ、「スキーに連れてってあげる」と誘います。芽郁さん、ソッコーで「やだ!」と返事。実はこれ、一瞬の幻想だったというのがオチでした。

時代は変わっても、スキー場が持つ非日常的ワクワク感は変わらないと思います。この冬も、あちこちで “ゲレンデがとけるほどの恋”が誕生しているかもしれません。

そういえば、芽郁さんはその後、来年春からのNHK朝ドラのヒロインに決まりました。勝負の年になるわけで、ぜひ頑張ってほしいものです。

<石田ゆり子さん>

キリンチューハイ ビターズ 「あなたの顔」

昨年10~12月に放送され、社会現象にもなったヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)。新垣結衣さん、星野源さんはもちろんですが、石田ゆり子さんが演じた“ヒロインの伯母” 百合さんも人気がありましたよね。

仕事のできるキャリアウーマンにして独身。部下を率いるしっかり者が、ふとした瞬間に見せる素顔や本音がとてもチャーミングでした。

しかし、石田さんの女優としての凄さはそれだけではありません。かつて『さよなら私』(NHK、2014年)では、高校時代からの親友(永作博美さん)の夫(藤木直人さん)と不倫関係。

また『コントレール~罪と恋~』(同、16年)は、過って自分の夫を死なせた男(井浦新さん)と禁断の恋に落ちる、切ないラブストーリーでした。どちらも石田さんが併せ持つ清純とエロスに驚かされた作品です。

たとえば、そんな石田さんが目の前にいて、グラスに“大人のビターチューハイ”を注いでくれる。しかも「ゆるんで、いいよ」「もっと、ゆるも」なんて言われたら・・・そりゃもう、乾杯どころか完敗でしょう。

<杉咲花さん>

リクルートSUUMO  最後の上映会「夢」

学生時代に暮らしたアパートは、渋谷のNHK放送センターのすぐ近くにありました。ガス・水道・トイレがすべて共同の四畳半で、家賃は1万3千円。70年代半ばとはいえ格安だったと思います。

渋谷駅まで徒歩10分という便利な場所だったせいか、近所のアパートには寺山修司さんも住んでいました。駅に行く途中の書店「放文社」でよく立ち読みをしていた、寺山さんの大きな背中が懐かしい。

このCMで、杉咲花さんが演じる女性が4年間を過ごした部屋は、明るくて住み心地も良さそうです。保育士を目指して頑張る姿を見守ってくれた部屋。大切な夢を応援してくれた部屋。杉咲さんの心のスクリーンに映し出される回想を眺めながら、自分が青春から遥か遠くまで来たことを思って、少しだけ感傷的になりました。

しかし、最後のシーンで元気が出ました。杉咲さんが、荷物を送り出して空っぽになった部屋に向かって深々とお辞儀をするのです。渋谷の四畳半を出る時、やはり同じように頭を下げたことを思い出しました。その部屋を選んだのは偶然かもしれませんが、住む人の気持ちで必然に変わるのかもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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