菊正宗の「手触り」商標登録出願について
日本でも色彩のみから成る商標が登録され始めた件については既に書きました。この機会に、以前から書こうと思っていた件を書きます。
米国では、非伝統的商標(つまり、文字やマークではない商標)として、色彩のみから成る商標や音の商標に加えて、香りや触覚なども商標登録の対象になっています。
今年の1月に菊正宗酒造が触覚の商標を米国で出願したとのニュースリリースを出しています。瓶入り日本酒の容器において「緑の竹のタガの部分はツルツルとした手触りを残しながら、木の部分にニス加工のシュリンクで木肌の手触りを想起させている」ということです。
実際、米国の商標登録出願を調べて見ると1月27日に出願番号87313375として出願されていました。出願書類の記載は以下のようになっており、上記のプレスリリースの記載に相当する説明がなされています。
米国でも触覚商標の登録ケースは数えるほどしかありませんが、ボトルのラベル部分が皮の手触りになっているワインの登録例があるので、菊正宗の触覚商標も登録される可能性は十分にあると思います。
ところで、この件を報じた時事通信の記事では、触覚に加えて香りも商標登録出願したように見えますが、元のプレスリリースではそうは書いてない(「天然吉野杉の香り」が特徴とは書いていますが、それを出願したとは書いていません)ですし、米国の出願記録もありません。
確かに、前述のとおり、米国では香りも商標登録の対象ではありますが、単に商品の機能を発揮させるための香りは商標登録されないことが審査基準(TMEP)にも明記されています(たとえば、芳香剤の香りは出願されても拒絶する旨が書かれています)。なので、仮に日本酒の香りを出願しても機能的であるとして拒絶される可能性が高いでしょう。そもそも、飲食物の香りを特定の企業が商標として独占できてしまうようであれば、明らかに弊害が大きすぎます。
香りが商標登録されるのは、たとえば、エンジンオイルにイチゴの香りをつけるなど、商品の機能とは直接関係ないところで、自他商品の識別のために人為的に香りを加える場合のみが対象です。