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バルサでのグリーズマンの適応。ストライカーの性と、シメオネの下で培われた犠牲心。

森田泰史スポーツライター
ボールを追うグリーズマン(写真:松尾/アフロスポーツ)

得意の左足から放たれたシュートが枠から外れ、アントワーヌ・グリーズマンは天を仰いだ。

この夏にバルセロナに移籍したグリーズマンだが、ゴールから遠ざかり苦しんでいた。プレシーズン5試合でノーゴールが続いたあと、リーガエスパニョーラ開幕戦の直前に行われた親善試合ナポリ戦でようやく初得点を記録した。

2014年夏に加入したルイス・スアレスはリーガにおいて初得点するまでに7試合を必要とした。2017年夏に加入したウスマン・デンベレはシーズン序盤に負傷離脱を強いられ、リーガで初得点を挙げたのは第33節セルタ戦だった。2018年1月に加入したフィリペ・コウチーニョは第21節アラベス戦でデビューして第25節ジローナ戦で得点を記録している。

■渇求

ただ、グリーズマンに対するバルセロニスタの目は厳しい。まず、彼の移籍に際しては契約解除金1億2000万ユーロ(約145億円)という大金が動いている。そして、紆余曲折を経て、バルセロナへの移籍が決まったからだ。

グリーズマンのバルセロナ移籍の可能性が大きく取り上げられていたのが昨年夏だ。だがグリーズマンはアトレティコ残留を決断。それも、ジェラール・ピケが手掛けたドキュメンタリー番組『ラ・デジション』で、その決断を明言するという皮肉なオチが付いた。2018-19シーズン、バルセロナの本拠地カンプ・ノウにアトレティコの選手として来訪したグリーズマンには、痛烈なブーイングが浴びせられた。

時は流れ、その1年後にグリーズマンは移籍を決断する。そこでも、ひと悶着あった。FIFAでは、所属クラブとの契約を半年以上残している選手と、他クラブとの事前交渉が禁じられている。しかし、アトレティコとの契約を2023年夏まで残しながら、グリーズマンはバルセロナと3月の時点でプレ合意に達していたといわれている。アトレティコ側が、その不当を主張したのだ。

プレシーズンに行われたジョアン・ガンペール杯において、バルセロニスタはグリーズマンを拍手で迎えた。その反応は肯定的なものであった。裏を返せば、期待値は高い。

メッシ、スアレス、ネイマールの「MSN」は2015-16シーズン、131得点を記録した。メッシ(41得点)、スアレス(59得点)、ネイマール(31得点)という内訳だ。バルセロナで3トップを形成した3年間で、彼らが最もゴールを記録したシーズンだ。

メッシ、スアレス、グリーズマンーー。「MSN」超えこそが、バルセロニスタの「MSG」への渇求である。

■布陣変更

エルネスト・バルベルデ監督は2017-18シーズン、伝統の4-3-3を諦め、4-4-2にシステムチェンジした。開幕前に、ネイマールがパリ・サンジェルマンに移籍したためだ。だが18-19シーズンにおいては、システムを4-3-3に戻している。

グリーズマンがウィングに置かれた場合、期待されるのは2つの役割だ。守備時はサイドハーフとして機能して可変式4-4-2を形成すること。攻撃時は、ジョルディ・アルバの偽ウィングを生かすために、スペースメイキングをすることだ。デンベレとコウチーニョは、このポイントで苦しんでいる。

グリーズマンはアトレティコでディエゴ・シメオネ監督の指導を受け、守備意識を高めた。走力を筆頭に、彼のフィジカルベースはアトレティコに在籍した5年間で飛躍的に向上した。

メッシ、スアレス、さらにはジョルディ・アルバの邪魔をせずに、フィニッシュに絡むプレーをする。そして、守備面で強いられる負担を受け入れる。それがバルベルデ監督がグリーズマンに求めるところだろう。犠牲心。自己犠牲の精神。規律。グリーズマンの資質を顧みれば適応は順調に進むはずだ。

「過去は関係ない。ゴールを決めれば、すべては帳消しになる」とは、ピケの弁である。

グリーズマンはゴールを必要としている。その意味合いにおいては、メッシ、スアレス、デンベレ、コウチーニョの比ではない。期待が、要求が、グリーズマンには重く圧し掛かっている。

■目指す領域

「メッシやクリスティアーノと同じテーブル席に着きたい」

グリーズマンは2016年にイギリス紙『ガーディアン』に対して語っていた。メッシとクリスティアーノ・ロナウドに追い付きたい。明確な意思を持って、挑戦し続けてきた。

2018年のロシア・ワールドカップで、グリーズマンはフランス代表の優勝に貢献した。フランス人がバロンドールを受賞すべきだ。そう主張していたグリーズマンだが、同年のバロンドールを受賞したのはルカ・モドリッチだった。

本当の意味でメッシに並び、バロンドール受賞の有力候補になり、ビッグイヤーを獲得するために、グリーズマンはバルセロナでゴールを量産しなければいけない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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