なぜ“ルカク騒動”は起きたのか?ハーランド、ケイン、モラタの移籍の可能性と高騰するストライカーの価値
マーケットが開くと、周囲が騒がしくなる。
それはビッグクラブの常だと言われれば、そこまでだ。だが移籍の憶測が流れた場合、早めに“火消し”を行わないと時に手遅れになることがある。
今冬の移籍市場で、去就に注目が集まったのがロメル・ルカク(チェルシー)だ。
チェルシーはこの夏、移籍金1億1100万ユーロ(約143億円)をインテルに支払い、ルカクの獲得を決めた。トーマス・トゥヘル監督の要望だった。昨季、チャンピオンズリーグ制覇を成し遂げたチェルシーだが、もうひとつ高いレベルに行くために、ルカクが必要だというのがトゥヘル監督の判断であった。
ただ、負傷と新型コロナウィルスの影響で、シーズン前半戦の段階で公式戦19試合7得点2アシストとルカクの適応は遅れた。
■ルカクの発言と雑音
そんな中、ルカクは「心の中にインテルがある。いつか復帰してプレーしたい」と発言。「レアル・マドリー、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘンといったクラブに移籍したくない選手はいない。インテルに加入した時、その3クラブからのオファーを夢見ていた。最終的にはチェルシーだけがオファーをくれた。インテルから契約延長の話があれば応じていたと思う」と語った。
「不必要な雑音をもたらした」と怒ったのはトゥヘル監督である。リヴァプール戦では、ルカクが招集外になり、移籍の憶測が加速化した。結果的には、ルカクが謝罪を行いトゥヘル監督がそれを受け入れた。
“ルカク騒動”は、ひとまずの決着をみた。しかし、チェルシーが簡単にルカクを手放せないように、ストライカーの存在価値は日に日に高まっている。
ハリー・ケイン(トッテナム)、アーリング・ハーランド(ボルシア・ドルトムント)、アルバロ・モラタ(ユヴェントス)といった選手たちだ。
ケインは今夏、マンチェスター・シティ移籍に近づいていた。しかしながら、1億2500万ポンド(約189億円)のオファーにも、トッテナム側が首を縦に振ることはなかった。
「ケインが夏にどういう状況に置かれていたかは知っていた。けれども、トッテナムに残ると決めてから、彼は完全にこのプロジェクトの一員になった。勝利のために何かを構築していく段階で、ケインは必要不可欠な存在だ」とはアントニオ・コンテ監督の弁だ。
モラタに関しては、バルセロナが強い関心を示している。
ユヴェントスにレンタル移籍中のモラタだが、保有権を有するのはアトレティコ・マドリーだ。バルセロナとしては、ユヴェントスとのレンタル期間を短縮した上で、モラタの譲渡をアトレティコに容認してもらう必要がある。そういった状況が、オペレーションを難しくしている。
また、バルセロナのジョアン・ラポルタ会長の“本命”は別にいる可能性がある。それが、ハーランドである。
■ハーランドをめぐるバルセロナとマドリーの戦い
ハーランドは2020年冬の移籍市場でボルシア・ドルトムントに加入。その際、加入2年後から移籍が容易になるようにミーノ・ライオラ代理人とドルトムントの間で「取り決め」がなされたと言われており、契約解除金が7500万ユーロ(約82億円)になるとみられている。
そのハーランドを、バルセロナとレアル・マドリーが狙っている。ハーランド自身、スペインでプレーする希望を持っているようだ。
バルセロナはジョアン・ラポルタ会長がハーランドの獲得を強く望んでいる2009年夏のズラタン・イブラヒモビッチの獲得以降、ライオラ代理人とラポルタ会長の関係は良好だという。ただ、このクラブはサラリーキャップの問題を抱えている。今冬の移籍市場でフェラン・トーレスを獲得した際にも、フィリペ・コウチーニョの放出とサミュエル・ウンティティの契約延長と減俸という荒業で何とかフェランの選手登録に漕ぎ着けた。
一方、マドリーのフロレンティーノ・ペレス会長のトップターゲットはキリアン・エムバペ(パリ・サンジェルマン)だ。今季終了時に契約満了を迎えるエムバペを移籍金ゼロで獲得するため、全力を尽くすというのがマドリーのスタンスである。しかしながらエムバペとハーランドを両獲りして新たなサンティアゴ・ベルナベウのお披露目に箔を付けたいという野心がペレス会長にはある。
ネイマール(契約解除金2億2200万ユーロ)、エムバペ(移籍金1億8000万ユーロ)、ジョアン・フェリックス(1億2700万ユーロ)、コウチーニョ(1億2000万ユーロ)と高額な移籍金はアタッカーに対して支払われてきた。
その流れは変わっていない。ただ、彼らを繋ぎ止める方にも強い力が働いている。駆け引きは続き、覇権争いは終わらない。