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社員3名の会社がなぜ新卒採用3名を実現したのか。コロナ禍でも新卒採用にアクセルを踏む企業の実態とは。

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
コロナ禍でも新卒採用にアクセルを踏む企業の狙いはどこにあるのか。(提供:SENRYU/イメージマート)

コロナ禍2年目で2022年卒向けの新卒採用はディスコ社の調査(新卒採用に関する企業調査:10月調査)によると、すでに採用選考を「終了した」は53.4%となっている。内容としては内定辞退者「増えた」41.8%でオンライン面接の見極めはやはり難しい、とも言われている一方でWEB 面接の実施率は8割を超える。長期化するコロナ禍の影響により、WEB 面接が主流 となり、対面で一度も会うことがないまま内定に至るケースも少なくない。

そんな中でも積極的に新卒採用活動を実施している企業のホンネを探ってみた。

企業が成長する為には「新卒採用」は欠かせない

飲食企画サービスや医療クリニック、FC店舗、再生エネルギーなど他業種展開をする急成長中のベンチャー株式会社リロードエッジで代表取締役 高取健治さんは、コロナ禍で初めての新卒採用を一度断念したものの、23卒をターゲットにリトライしている。

リロードエッジ社の23卒内定者(写真提供:リロードエッジ社)
リロードエッジ社の23卒内定者(写真提供:リロードエッジ社)

――なぜ新卒採用をスタートしたのか。

これまで中途採用で成長してきた会社ですが、多くの経営者や新卒採用コンサルティング会社の話を聞いている中で、企業成長には新卒採用が欠かせないと認識はしていました。特に中途社員は過去の経験から一定の価値観が出来上がっている部分があり、我々が求めるビジネス感覚や理念浸透に時間がかかる。そんな時にたまたま会社の文化を構築していく中では新入社員の力は必須ということを書籍でも書かれていて「じゃあ、やってみるか」と今思えば本当に良いのかは半信半疑でしたが勢いで挑戦しました。

コロナ禍で断念した新卒採用

――コロナ禍で一度諦めた新卒採用をなぜ再開しのたか。

会社として新卒採用の経験がなかった為、新卒採用コンサルティングを導入して準備をしてさあ、いよいよという時に新型コロナウイルスの影響が拡大して飲食などのビジネスは瞬間的に赤字が出た為、急遽新卒採用はストップしました。

それでも助成金の活用や休業施策、ランチ営業など店舗ごとに様々な工夫をしている中でGoToトラベルで少しの回復、そして徹底したコストダウンで黒字化できる状態だったので、アフターコロナでも会社を存続できると確信。飲食業界ではテナント撤退が相次いでいたので、逆に早めに採用強化をしてアクセルを踏もうと考えました。

コロナ禍でランチ営業など工夫を重ねてきたMONSTER GRILL(写真提供:リロードエッジ社)
コロナ禍でランチ営業など工夫を重ねてきたMONSTER GRILL(写真提供:リロードエッジ社)

新卒採用で会社が変革できる気がする

――実際に採用活動で学生と接点を持ってみた感想は。

とにかく就職活動で頑張っている学生は熱い。そんな学生の前向きさ、未来に期待する想いなどを直接感じると「憧れてしまう」。入社したら自ら考えて提案して「新しい価値」を創り出して欲しい。どんどん新卒メンバーが下から会社を突き上げて盛り上げて欲しいと心から思えます。

まだ未知の世界ですが、新卒が入社をして既存社員とどんな化学反応を起こすか楽しみです。会社の文化も良い意味で変革できる機会だと思うし、既存の社員の価値観が変わり会社との距離感も変わってくると思っている。コロナ禍で挑戦した新卒採用で会社を大きく変革して飛躍したいと考えています。

人材の流動性が高い業界文化を変えたかった

自らを『映像制作を通じて誰かの心を揺さぶり、その人の未来を良い方向に揺さぶることを理念に掲げたクリエイター集団』という前年比200%超成長の映像制作会社エポックル株式会社。代表取締役大平 進士さんは起業後の社員3名の時に新卒採用で3名採用をしている。

社員3名で新卒採用実施を決めたエポックル株式会社大平代表(写真撮影:エポックル社)
社員3名で新卒採用実施を決めたエポックル株式会社大平代表(写真撮影:エポックル社)

――スタートアップになぜ新卒採用を選択したのか。

業界的に人材の流動性が高く、企業にノウハウが蓄積する文化は少ない傾向があります。さらには派遣というシステムも活用されていてどうしても若い人の成長、経営幹部、業界を牽引する人材を創出しづらいのが実態だと考えています。

業界変革の意味ではまずは自分たちが新卒で納得できる人材を採用して、後に幹部人材になってもらえるように「新卒採用」に踏み切りました。

3名のスタートアップに新卒3名採用はドキドキ

――まだ3名の組織に新卒を入れる葛藤はあったのか。

葛藤はなかったです。中途採用でもミスマッチや早期退職のリスクはありますし、会社の将来を考えて、戦力化してボトムアップができる状態になるまでには2、3年はかかるので極力早めに採用しておきたかった。正直、採用にかかるコストや新卒社員を抱える、つまり彼らの人生を預かることへのドキドキ感はありました。

――初めての新卒採用をどうやって実現したのか。

自分達には新卒採用の経験・ノウハウがありませんでした。また、昔のように人気業界でもなくなりつつあるので採用のプロにお任せをして業界イメージの払拭をしながら、本質的な魅力を打ち出していきました。

前年比200%超成長の映像制作会社エポックル株式会社のオフィス(写真提供:エポックル社)
前年比200%超成長の映像制作会社エポックル株式会社のオフィス(写真提供:エポックル社)

圧倒的なスピードで成長する新入社員たち

――実際に新卒社員は活躍しているのか。

1期生については本当によく頑張っていると思います。感覚的ですが業界の中では2倍の成長スピードだと思います。

当然ですが、新卒社員が即戦力になることはないので創業の3名が面倒を見ましたが、2期生4名、3期生10名はそれぞれ先輩にあたるプロパー社員が面倒を見ています。そこで組織化が進み、若手社員の中にも「育成観点」が芽生えて社内に良い意味での活気が出てきました。

新卒加入で生まれた社内文化

――会社の文化は新卒加入で変化したのか。

正直あまり文化は意識していなかったのですが、元々私が年功序列的な考え方が好きではないので、出来る人が役職につけば良いと思っていて、同期の中でも差がついてできる人にはどんどんチャンスは与えています。それは新卒加入の影響なので文化形成に大きく影響はしていますね。

――アフターコロナでも新卒採用は継続するのか。

継続したいと考えています。大手企業であれば中途採用を活用することが多いと思いますが、我々のようなベンチャーは完全に「先行投資」で新卒採用を考えています。

我々は自社の成長の為の「新卒採用」と位置づけながら、業界の文化を少しでも変革するということも考えて、継続して新卒採用をしていこうと考えています。

新卒採用で企業変革は実現するのか?

新卒採用を中心としたコンサルティングファーム株式会社Legaseed(レガシード)[本社:東京都港区]は100名規模のベンチャー企業だが創業8年目で新卒採用に毎年15,000人以上が殺到し、21卒向けインターン人気企業ランキング(楽天みん就調べ)では伊藤忠商事などの超人気企業に接近する総合10位、業界別では大手を抑えて1位となっている話題の企業です。

コンサルティングファームとして急成長しているベンチャー企業株式会社Legaseed(写真提供:Legaseed社)
コンサルティングファームとして急成長しているベンチャー企業株式会社Legaseed(写真提供:Legaseed社)

そのLegaseedで営業マネージャーをしている小池氏にここ最近の新卒採用市場について話を伺った。

――どんな企業が新卒採用に関するコンサルティングの相談をしてくるのか。

会社を成長・発展させようと強く感じている企業様からのご相談が圧倒的に多く、それが永続発展をする組織体にするために新卒人材を獲得し続けたいという想いのある経営者からのご相談ということになります。

中でも最近多いのは、新卒採用の実績がなく、初めて新卒採用に取り組み始める企業様からのご相談。新卒人材を採用し、育てることで組織文化の醸成、社内の一体化、労働環境の改善など様々な変革を社内に仕掛けていこうとされる企業様です。

――実際に新卒採用をすることで会社が変わるのか?

新卒採用で会社は変わると確信しています。今までもそういった瞬間を数多く目の当たりにしてきましたが、会社を変える新卒採用を行うにあたって、まずは新卒採用へ臨む体制を整える必要があります。

新卒採用は会社の未来を創る重要なプロジェクトですので、経営陣・現場責任者クラス・人事採用チームが一堂に会し、会社の未来を創造することから始めます。

まさに、会社のドリームチームを創って採用活動へ臨むことで、新卒採用が会社を変革する起爆剤になるのです。

実際に採用活動が始まると、現場で働く社員の皆さまにも出来る限り学生に触れていただく機会を創出します。普段の仕事を言語化し、学生へ伝えることが社員の方にとっても良い刺激となり、通常業務のモチベーションアップへつながります。

さらに、採用のゴールは「定着×戦力」だと考えています。

入社=ゴールではなく、入社した後の環境づくりがキーになるので金の卵を育てる仕組み、定着する仕組みを整える中で、会社として「働きやすい環境」を創り上げるのです。

株式会社Legaseedにて営業マネージャーを務める小池さん(写真提供:Legaseed)
株式会社Legaseedにて営業マネージャーを務める小池さん(写真提供:Legaseed)

――アフターコロナで中小企業は何を意識して採用活動を実施すべき?

オンライン×オフラインのハイブリット」が重要になると思います。その中でも特に「早期化×長期化×Web化」この3点がアフターコロナの採用マーケットで重要なテーマになります。

直近のデータによると、前年の就職活動よりも状況が厳しくなると想定している学生は全体の52%にも及びます。

コロナ渦で、就職活動も先行きが不透明なため、早期から就職活動へ向けて動き始める学生が増えています。しかしながら、オンライン中心の就職活動では企業の見極めが難しく、意思決定に時間がかかるケースが多いです。

第1志望としている業界について、志望するに至ったきっかけを尋ねると50.7%の学生が「インターンシップや仕事研究プログラムに参加して興味を持った」という回答でした。上記のことからも、企業側としては、いかにはたらくイメージや仕事のイメージをオンラインとオフラインを組み合わせて伝えられるかが重要になります。

弊社では、学生が手軽に参加出来るオンライン説明会やオンラインインターンシップで、会社や社員理解に加え、仕事の中身が疑似体感できるようなワークなど学生が仕事の中身を感じられるような工夫をしています。

上記より、オンラインが主流になった学生に対し、オフラインでどのように仕事の手触りを伝えるかということがアフターコロナの採用戦略の重要な観点になると想定しています。

新時代だからこそ採用を科学すべき

コロナ禍でビジネス全体に大きな影響が出たものの、2022年にアクセルを踏む企業は多い。そうした中で必ず課題になるのが採用。中途採用にも当然根深い課題はどの企業にもありますが、経営の一丁目一番地と言われる「新卒採用」は今回の取材で感じたように、

■未来を創る

■会社の文化や価値観を変革する

■経営そのものをアップデートする

上記の素材のような存在になっているのだと思います。

これまで新卒採用を継続してきたからこそ新時代に科学したい、エリアやブランド問題で採用が上手くいかない、会社を変革するために新卒採用にチャレンジしたい、いろいろな企業の状態や想いがありますが一歩踏み出すことで必ず変化は起きるはず。

経営者の皆様、新しい年に大きなチャレンジをしてみてはいかがでしょうか。

はたらくを楽しもう。

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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