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「新型コロナウイルス×東京オリンピック」が就活に与える本当の影響と対策方法について。

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
新型コロナウイルス×東京オリンピックの影響は21、22就活に既に出ている(写真:森田直樹/アフロ)

新型コロナウイルス感染症の発生が報告されて以来、日本をはじめとして世界各地から感染の拡がりが報告されている。特に日本ではこの2週間で集団発生や感染経路が不明というニュースも飛び出し終息の見えない状況にさまざまな影響が出ている。

学生に与える影響は卒業式から入社式まで

全国でイベントなどが中止、延期が相次いでいるが、中でも学生への影響は大きい。

大分県にある立命館アジア太平洋大(APU)は20日、3月の卒業式と4月の入学式を中止することを早々に発表している。留学生を含む学生の9割以上が県外から集まる式典をリスクとして大きな決断をした。

某私立大学のキャリアセンター長は

著名な大学が決断すると全国的に同じ動きを取らざるを得ない

と言うように今週から動きは激しくなることが予測される。

就活市場での衝撃ニュースが飛び込んだ。21就活における広報解禁日いわば就活スタートのホイッスルとも言える就職情報サイト「リクナビ」が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、今月22日~3月31日に予定していた合同企業説明会やイベントを中止すると発表したのだ。中止するイベントや説明会には就活生が5万人ほど、企業は5千社ほどが参加すると予想されていたことを考えるとその影響は計り知れない。

さらには、三菱UFJ銀行をはじめ就活生に人気のある大手・ブランド企業が続々と3月開催予定だった21卒向け会社説明会の中止を決めた。代わりにWEB説明会に切り替えられる企業は準備を急いでいる。

そして人生で一度しかない4月の入社式を延期する動きも出てきている。「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングや流通大手のイオンは既に4月に予定していた入社式を延期することを決めている。同時に新入社員向けの大規模な研修も取りやめる。

21採用は超短期決戦から長期戦へ

就活ルールがなくなり、国主導に切り替わっても変わらない「3月解禁」の流れはそもそも21卒向けの就活では実態としては守られてはいなかった。すでにディスコ社の調査では1月1日時点で「本選考を受けた」が35.2%、「内定を得た」7.0%で前年同期(4.7%)より 2.3 ポイント上昇している。「内定を得た」については世の人事屋は肌感としは「もっと多いはず」と言うだろう。

今年2020年は何と言っても7月から東京オリンピックが開催されるため東京はもちろん他の地域にも影響は大きく予想されており、新卒採用は7月上旬までに終わらせたいというのが企業のホンネでそのようにスケジュールされていた企業が大半だった。

どころが新型コロナウイルスの影響で3月からの会社説明会、水面下で進んでいる面談や面接が中止となることで当初の予定は後ろ倒しになる。影響が収まったとしても東京オリンピックで採用の動きは鈍くなり、結果的に秋採用に突入する企業は例年以上になることが見込まれる。

学生のミーハー就活が加速する

21卒の就活生が就職先企業を選ぶ際に重視するのは同じくディスコ社調べでは

「将来性がある」49.0%

「給与・待遇が良い」43.6%

「福利厚生が充実」31.8%

と例年と大きな変化がない中で「仕事内容が魅力的」(20.6%→16.2%)の低下が目立つ。つまり学生の視点では大手・ブランド企業の人気が引き続き高い状況だ。

そんな中、就活生が社会の広さを知り、これまで知られてない企業と出会いミーハー心を薄めて自分に合った企業と出会うきっかけの合同説明会、そして説明会やOB/OG訪問などの企業との接点が中止となると、就活生は現時点で知っている有名な企業をエントリーせざるを得ない。結果的に倍率が跳ね上がり超買い手市場になる。

希望している企業群の選考に落ちて、方向性を切り替えた頃には東京オリンピックが開催され新卒採用は小休憩となってしまう。夏前に終わるはずの就活は秋までずれ込んでしまう。

22卒向け新卒採用も影響は大きい

新型コロナウイルスと東京オリンピックの影響は22卒向け新卒採用にも大きな影響を与える。本来企業は夏のインターンシップで本選考を受けてもらう母集団形成を作る事に必死になる。大学3年生もまずは夏のインターンシップ(1Dayインターンシップは実態として会社説明会になっている)に参加をして視野を広げる、または意中の企業の社員と接点を持つための活動が活発になる。

今年はどこまで新型コロナウイルスが影響するか見えない、さらには東京オリンピックでここ数年安定的に実施されて来た夏の1Dayインターンシップの開催は混乱するだろう。

大手メーカー採用担当者は

東京ではインターンシップが開催出来ないのでオリンピック開催中は地方を行脚することも検討している

と言う。

一方で中小企業の採用担当者は

東京を中心に採用活動をしているので母集団形成が新型コロナウイルスで出来ない上に東京オリンピック、パラリンピックが終わるまで活動が出来ないので非常に厳しい年になりそう。秋採用で勝負をする計画です

と漏らす。

先の見えない新卒採用市場だからこそ

そもそも近年の就活では企業が求める学生像が大きく変わって来ている。企業がAI時代に適した人材の確保を科学している点やはたらく人の多様性、ダイバーシティー、労働人口減少など背景は多岐にわたる。つまり学生の学歴や経験の評価から学生時代に培った能力、価値観、人間性が評価の軸となって来ている。

「自己分析就活」の崩壊について解説し「未来志向就活」の講演をする著者(写真提供:北海学園大学)
「自己分析就活」の崩壊について解説し「未来志向就活」の講演をする著者(写真提供:北海学園大学)

一方で就活生はまだまだ「自己分析就活」をはじめとした「古い就活」が主流となっており、ミスマッチや早期離職は変わっていない。そして、この先市場がどのように回復してどこまでオリンピックの影響が出るかは予測が難しい。だからこそ21、22卒に関わらず企業の新卒採用の今を理解して「正しい準備」をすることが重要だ。

「自己分析」をして過去と今の「好きや性格・軸」で業界/職種を決めていく「古い就活」ではミスマッチの角度を上げるだけで、最前線の採用には適していない。未来志向と自分のライフデザインを起点に今を見る「新しい就活」にシフトすること。企業がいつ、どのような動きになっても良いようにテクニックやセリフを覚えるのではなく自分事として捉えて、自分の言葉で面接官に伝わるような準備をしたい。

動きが見えない時だからこそ、周囲に流されずに正しい情報を手にして焦らず冷静に判断して欲しい。

はたらくを楽しもう。

【参考】

〇キャリタス就活 2021 学生モニター調査結果(2020 年 1 月発行)

新しい就活

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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