耳の聞こえづらい方への駅案内を視覚的にわかりやすくする「エキマトペ」が話題である。9月13日(月)~15日(水)の3日間、10時から16時と期間限定で、JR山手線巣鴨駅にて実証実験をしている。

こちらは、デザインを手がけた方角方山さんのツイッター。23万回を超える動画の再生と、5000件近くのリツイート、1万件を超える「いいね」がついている。(2021年9月15日 12:50 記事公開時点)

通常の駅案内は電光掲示板による文字案内のみであるが、この『エキマトペ』では、駅構内で流れる音声案内にあわせて、手話、イラスト、「ヒューン」「キンコンカンコーン」といったオノマトペなどを利用して、情報を伝えている。文字にはふりがながついており、小学生低学年でも読めるようになっている。

聞こえない方や聞こえづらい方だけが利用する掲示板ではなく、すべての駅利用者が楽しめる視点で作られている点が魅力である。

JR巣鴨駅は、東京都立大塚ろう学校の最寄り駅でもあり、聞こえない子どもや聞こえづらい子どもも多く利用する。また、「おばあちゃんの原宿」として知られる場所でもあり、高齢者も多く利用している。

必要最低限の情報ではなく周囲の音も表している情報掲示板

聞こえづらい方は、こういった公共の場、特に電車の騒音などの激しい駅構内では、文字案内を頼りに行動をしている。補聴器の装用があっても、周囲の騒音がうるさいと人間の言葉だけを大きくするといったことはできないのだ。

そういった場合、必要最低限の情報が切り取られて掲示されることが多い。バス案内であれば「次は○○に停まります」はバス前方の電光掲示板に流れるが、「~美容院、○○パン屋をご利用の方はこちらのバス停をご利用ください」といった付加情報は、電光掲示板には提示されていない。

大学の授業でも、聴覚障がいのある学生向けの情報保障として、ノートテイクといった方法がある。授業中の文字通訳のことで、講義の際に聴覚障がいのある学生の隣にノートテイクをするノートテイカーが座り、PCや手書きで講義内容について筆記していく。この際には講義の内容だけでなく、先生の雑談や他の生徒とのやりとりなど、その場の雰囲気も含めて筆記し伝えることが基本だ。

この『エキマトペ』では、「ヒューン」「ヒュゥゥゥ」など、その場で聞こえている音を、不要な音と切り捨てるのではなく、それをそのまま表現して伝えている点も魅力である。

オノマトペが豊富な日本語

オノマトペとは、擬音語・擬態語などを指す。ふわふわ、ガチガチなどで形状を伝えることができたり、ぽつぽつ、ざあざあ、などで雨の降り具合を共有できたりする。

日本語はこういったオノマトペの語彙が豊富と言われている。また、マンガが浸透している日本ではこういった擬音語・擬態語などの表現・様子を、聞こえづらい人とも同じ表現・感覚で共有しやすいといった点もある。

オノマトペで表した周囲の様子と、マンガ調のイラストを使っての掲示は、まさに日本文化の良さを活かしていると感じた。

聾学校の子どもたちと一緒に考えたアイデア

実証実験の現場には、プロジェクトリーダーの本多達也氏(富士通)がいらっしゃり、話を聞くことができた。

実証実験の現場で一般客の様子を観察するプロジェクトリーダーの本多達也氏(写真:著者撮影)
実証実験の現場で一般客の様子を観察するプロジェクトリーダーの本多達也氏(写真:著者撮影)

「このプロジェクトは、川崎市立聾学校の子どもたちと一緒に考えました。1つのマイクで集音した音声をAIで分析して、アナウンスの文字化、手話の動画、駅構内で鳴る車両やホームドア、スピーカーからの音などをオノマトペ化しています。プロジェクトチームは、富士通株式会社、JR(東日本旅客鉄道株式会社)、DNP(大日本印刷株式会社)です。認識した音声にあわせてDNPの感情表現フォントシステムを提供してもらって表示しています。駅員さんのマイクから取得した駅アナウンスをリアルタイムに文字に変換することもできますよ。今からちょうどデモをやるところです。」(本多氏)

駅員さんがマイクで話す音からリアルタイムで、文字の表示およびフォントの選定が行われていた。(写真:著者撮影)
駅員さんがマイクで話す音からリアルタイムで、文字の表示およびフォントの選定が行われていた。(写真:著者撮影)

このように、あらかじめ用意されている文字やイラストをそのタイミングで表示しているのではなく、AIによる分析でリアルタイムに表示している。

また、電車のこないタイミングでは、聾学校の子どもたちが考えた「未来の通学をデザイン」したワークシートを順に掲示。いつ、だれが、どこで、どんなイメージで、といったワークシートにあわせて子どもたちが自由にアイデアを膨らませている様子が伝わってくる。

「今後、全国展開を目指しています!」という本多氏。「『エキマトペ』という名前は僕がつけたんですよ」という本多氏からはプロジェクトへの愛が伝わってくる。現状では、あらかじめ集音したデータに対して、AIで分析するためのラベル付けは手作業で行っており、これはかなり大変な作業でもある。しかし、リアルタイムでの掲示を追求することで、緊急時のアナウンスなどにも利用できる。

必要とされている人に情報を伝えつつ、周囲も楽しませてくれるユニバーサルデザインの情報提示である『エキマトペ』に今後も期待したい。