マルチタッチもここで登場!未来を映す国際学会 -日本で初開催、「UIST」がやって来た!(前編)-

普段使っているマルチタッチの技術も、UISTで生まれたものだという。(写真はイメージ)
普段使っているマルチタッチの技術も、UISTで生まれたものだという。(写真はイメージ)

ユーザーインタフェース(UI)の分野のトップカンファレンスである「User Interface Software and Technology(UIST)」が、10月16~19日に東京で開催されました。

今年は初めての日本開催。つい最近までは200~300人程度の学会でしたが、第29回の今年は、500人の会場規模のところに600名を超える参加登録があり、UIST史上初めて参加登録を事前に打ち切ることになりました。

未来が生まれるUIST

今年は、キーワードとしては 「fabrication(新しい3次元プリンタやその使い方)」や、 「小型ロボットを使ったインタラクション」が注目を集めていたように思います。

UISTがどのような学会なのか、どのような発表が行われているのか、いくつか今年発表された研究の例を紹介しましょう。

Holoportation」は、世界初の立体映像のホログラム通信です。動画を見れば一目瞭然。近い将来のコミュニケーションを激変させる可能性を秘めています。

Zooids」は、机の上を動き回る小型ロボット群。ロボット同士が協調してモノを運んだりする他、図を描いたりもできます。

Muscle Plotter」は、筋肉に電気刺激を与えて操作することで、人間の手を制御してグラフを描ける技術です。

Rovables」は、MITメディアラボとスタンフォード大学の研究で、服の上を動き回るウェアラブルロボットです。アルス・エレクトロニカ2016にも出展された技術です。

Soli」は、GoogleのAdvanced Technology & Projects(ATAP)チームによる、レーダーで手の動きを検出する技術です。ウェアラブルデバイスが普及してきていますが、画面が小さくユーザーインタフェースが悪くなるという欠点があります。Soliは、この問題を解決するための技術として考案されました。

Optical Marionette」は、筑波大学の先生でもあり、メディアアーティストとして時の人である落合陽一氏らによる研究です。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に提示する画像を操作することで、人間の歩行を操作するという技術です。

最先端の研究。すべてはここからはじまった!

実は、みなさんが日々使っている技術の多くが、UISTで過去に発表されています。

たとえば、スマホで地図を見るとき、マルチタッチで拡大縮小してますよね。世界で初めて発表されたのは、かつてのUISTです("HoloWall: Designing a Finger, Hand, Body, and Object Sensitive Wall", UIST 1997)。

スマホを回転させると画面も回転しますよね。これも世界で初めて発表されたのは UISTです("Sensing techniques for mobile interaction", UIST 2000)。

ポケモンGoやってますか? AR(拡張現実)はそもそもUISTで研究されていたものです("The DigitalDesk calculator: tangible manipulation on a desk top display", UIST 1991、"The World through the Computer: Computer Augmented Interaction with Real World Environment", UIST 1995)。

スマホのキーボードは使っていますか? ジェスチャーを利用した画期的なキー入力が最初に発表されたのはUISTです("SHARK2: A Large Vocabulary Shorthand Writing System for Pen-based Computers", UIST 2004)。

スマホのUIはアニメーションが中心ですよね。 GUIでのアニメーションも、UISTで提案されています("Animation: from cartoons to the user interface", UIST 1995)。

このように、今日広く使われている技術がUISTにおいて10~20年前に発表されていることが分かります。逆にいえば、今年のUISTの成果を見れば10年後、20年後の世界をのぞき見ることができるのです。

だからこそ、ユーザーインタフェースの専門家にとっては必見の学会であり、マイクロソフトやグーグルといったトップ企業から多くの人が集まるのです。アップルからの参加者は、所属組織名を空欄にしてお忍びで参加していたという噂もあります。

Lasting Impact Award

UISTには、他の学会でもあるように、「Best Paper Award(最も良い論文への賞)」や「Honorable Mention Awards(ベスト・ペーパーには届かなかったが良い論文への賞)」「Best Talk Award(登壇発表賞)」など、多くの賞があります。

その中で、「Lasting Impact Award」という賞に注目したいと思います。

これはその名の通り、世の中に残るようなインパクトを与えた論文に与えられる、ユーザーインタフェースの分野において一番栄誉ある賞なのです。先に挙げた論文のすべてが、このLasting impact awardを受賞しています。

今年のLasting Impact Awardを受賞したのは、ジェファーソン・Y・ハン(Jefferson Y. Han)氏によるマルチタッチの研究「Low-Cost Multi-Touch Sensing through Frustrated Total Internal Reflection (UIST2005)」です。

これはUIST2005で発表後、たくさんの研究者や学生が真似をしてマルチタッチ大ブームがやってきた、というマルチタッチの先駆けとも言える研究論文です。

ハン氏は、自身の会社を設立して大きくし、その会社をマイクロソフトに売り、さらに別会社を設立。忙しい日々を送っていると言います。そんな彼が成功を一通り経験して、述べたことは「コミュニティが大事」だということ。

「この論文を出したときは大学の教員でもないし、学生でもなかったから、学会発表する義務はなかったんだ。だけど、このコミュニティでこの論文を発表することが大事だと思ったから、投稿したんだ。この研究は、ジュンやタケオ*1の研究にインスパイアされたものでもあるんだ」

と、今回のUIST2016の大会委員長(General Co-Chairs)である2人の研究者の名前を挙げて、コミュニティが大事であることを受賞トークで話していました。

では、このような未来が生まれるカンファレンスUIST、どのようなモチベーションで参加者は集まるのでしょうか。次回は、運営の裏側の話を紹介していきます。

*1=暦本純一 東京大学大学院情報学環教授と、五十嵐健夫 東京大学大学院情報理工学系研究科教授のこと。

(この記事は、JBPressからの転載です。)