「ひきこもり」「思春期」の子どもとの接し方

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子育てをしていると、その時その時でさまざまな新しい悩みにぶち当たります。

おなかに子どもがいる時は出産がゴールのような気持ちでいましたが、出産したらそこからが始まり。数々の予防接種や、保育園問題などを通り過ぎて、幼児期が終わり、「児童」と呼ばれる頃になると、「小1の壁」と言われる壁も感じるようになりました。また、学童保育入所問題をはじめ、「小4の壁」「思春期の壁」なども存在すると聞きます。

近頃では、覚える勉強を経てきた子が「自ら進んで考える」ことができずに、進学や就職が難しくなる「社会人デビュー期における不安」が増えているといいます。そして、誕生期、教育期には、行政で様々な支援がありますが、進学か就職かといった「社会人デビュー期」に関しては、なかなか行政からの支援は行き届いていないのが現状なのです。

約150名の会場は満席に

2016年6月9日、東京都教育委員会が主催する「平成28年度 社会教育指導者研修/家庭教育支援施策研修」が中野サンプラザ(東京都中野区)で行われました。テーマは「子供の将来の自立の不安やひきこもりと、思春期の親子の関係・つきあい方」について。

対象者は、教育委員会、社会教育関係施設、子ども家庭支援センター、児童館などを含めた、行政職員の方々、幼稚園・保育所の方々、そして、地域で子育て支援や家庭教育の支援にかかわる、PTA役員や民生委員、子育て支援NPO法人の方々でした。

私は小学校PTA役員としてこの講座を知り、参加してきました。そこには約150名の会場が満席になるほどの申し込みで、当日も質疑応答をはじめ、多くの盛り上がりを見せており、関心の高さにびっくりしました。

この講座は、教育に深く関わる人たちに向けた専門的な「研修」ではありますが、世の中の親御さんにとっても非常に参考になる内容だと思いますので、その概要をお伝えしたいと思います。

十分とはいえない若年無業者対策

まず、取り上げられたテーマは「子供の将来の自立の不安やひきこもり」です。

講師を務められたのは、認定NPO法人「育て上げネット」の蟇田 薫(ひきた・かおる)氏と、森 裕子(もり・ゆうこ)氏。育て上げネットは、ニートやひきこもりに代表される若年無業者など、社会的自立に困難を抱える子どもや若者の自立支援に取り組む団体です。家庭へのサポートも必要であることに気づき、母親の会「結(ゆい)」を立ち上げ、親へのサポート業務を行っています。

ここで言う「若年無業者(ひきこもり・ニート)」とは、義務教育を終えた15~39歳の無業者を指します。「ひきこもり」とは厚生労働省の定義によると、「仕事や学校に行かず、家族以外の人とほとんど交流もなく、原則的には6カ月以上自宅にひきこもっている状態」とされており、文部科学省の「不登校」の定義「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により、登校しない、あるいはしたくともできない状況にあるため、年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いた者」とは区別されています。

当日の様子。東京都教育委員会提供
当日の様子。東京都教育委員会提供

ニートやひきこもりは現在推定250万人と言われています。

雇用・失業者対策にはハローワークをはじめとした支援が拡充し、困窮者対策には生活保護などの支援が整っています。しかし「若年無業者対策」は、長い間、政治・政策的に対策なきエアポケットでありました。2006年より「地域若者サポートステーション」モデル事業として開始し、平成27年には全国160カ所設置されていますが、まだまだ十分な支援とは言えないので今後を期待したいと蟇田氏は話してくださいました。

育て上げネットは、若者自立支援五原則として「発見・誘導・支援・出口・定着」を掲げ、活動をされているそうです。

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実際に現場に携って見えてきた問題は、「社会的要因」「心理的要因」「生物学的要因」に分類できるといいます。

「若年無業者(ニート・ひきこもり)の方の悩みはいろいろな要因が重なり合っています。そこで悩みを聞く側は、複合的な悩みを因数分解して考えることが必要です。一人っ子のひきこもり家庭のお母さまが相談に見えたとき、一番気になることは何かを突き詰めていくと、『今は両親である私たちが支えていられるが、私たちが年をとって亡くなったあとが心配』とのことでした。そこで、「家庭内の社会科」を勧めました。お米を研ぎ、洗濯物を干す。そうすることで、身の回りのことは自分自身でできるようになるからです」(蟇田氏)

森氏は、ひきこもり対策としては、本人だけでなく、保護者と話をすることが大事だと指摘します。

「特に、自分が思っていたのとは違う、こんなユニークな戻り方もあるんだよ、ということを本人だけではなく保護者にも納得してもらうことが大切です。親世代の幸せと現代の若者の幸せでは価値観が異なることもあるのです」(森氏)

子どもと親の適度な距離とは

次のテーマは「思春期の親子の関係・つきあい方」でした。

森氏は、子どもと親の適切な距離について、(1)幼児期から思春期、(2)思春期、(3)成人してから、と分けて解説してくれました。

幼児期では、親子の距離は近いし、太い。そして、大人がやることを子どもは真似て、やり方を覚えていきます。

そして、感情の共有が大事な時期です。「感情の共有がないと、共感力が低くなる、自己主張が弱くなる、どうせ聞いてくれないということに繋がっていく可能性があります」と森氏。

我が家でも、普段の子育ての中で子どもの気持ちは聞きますし、意思も尊重はしますが、基本路線は親が決めて親がリードしています。おそらくどのご家庭でも、幼児期から思春期までは大人主導で生活している時期でしょう。

ところが、思春期になると、自立への試行錯誤の時期になります。そのため、親は自分がしてきた苦労を子どもにはさせたくないので、つい「そんなことやってる場合じゃないでしょ」と言いがちです。しかし、子どもは「自分に力があることを承認してほしい時期」でもあるため、子どもの世界も理解してあげるべきであると森氏は話してくださいました。

効率的な相談にするために

そして、こういった相談を受ける側に立った場合には、「より効率的に相談に乗るために、4つの気質の理解をして対応を分けるとよい」というアドバイスがありました。4つの気質とは以下の図の通りです。

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こういった「相手の気質の理解をして、相談を受けたり解決策を促したりする」というのは、行政や子育て支援に携わる方はもちろん、各自の家庭内においても非常に有効だと思います。子どもにとっても親にとってもストレスなく日々の生活を過ごすためには、お互いの気質を理解する必要があるのではないでしょうか。

この4コマから何を思いますか?

最後に、当日に会場で行った4コマ漫画を使ったワークをご紹介します。

上大岡トメ著「子どもがひきこもりになりかけたら」(KADOKAWAより許可を得て転載)
上大岡トメ著「子どもがひきこもりになりかけたら」(KADOKAWAより許可を得て転載)

これは、昨秋に発売された上大岡トメ著「子どもがひきこもりになりかけたら」(KADOKAWA)の4コマ。どこの家庭でもよくある光景の一つなのではないでしょうか。

さて、3コマ目でのお母さんの気持ちはどうでしょう?

では、そのときの娘の気持ちは?

4コマ目のお母さんの気持ちは? あなたならどうする?

そんなことを2人1組になりディスカッションしたあとに、会場全体で発表し、意見や対策を共有しました。私は、「お母さんは本当はテレビのことを指摘するのではなく、娘とお話をしたいと思っている」と感じましたし、バタンと閉まったドアに「『果物があるよ』と声をかけ、もう一度出てこさせようとする」と考えました。

会場からは「そのまま朝まで声をかけない」「『自分で食べたものは自分で下げてね』と声をかけて娘のお皿だけは食卓に残しておく」「『ごちそうさま』と娘は言っているからまだまし」「そもそもなぜ娘と一緒にお母さんは食べてないの?」といった実に多くの意見が交換されて、たった4コマでも感じ方や考え方の豊富さを実感しました。

このように、理論から実践まで幅広く扱っていただいた研修会。ひきこもりやニートといった話は普段はあまり話題に上りにくいのですが、実は小さな種はどこにでも転がっています。小さな問題から大きな問題まで含めると、実に多くのご家庭で悩まれている問題の1つだと感じます。そして、解決していくためには、当事者や行政の方々だけでなく、周りの理解や支援がもっともっと必要だと思います。

みなさんも上記の4コマやこのマンガをきっかけに、ぜひ周りの方との話題に出してみてはいかがですか?

(この記事は、JBPressからの転載です。)