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リケジョを育てるのは、規定路線を押し付けない親の柔軟性

五十嵐悠紀お茶の水女子大学 理学部 准教授

前回は、女性研究者のキャリア形成に焦点を当ててご紹介しました。

>>彼女たちはなぜ研究者を目指したのか~そのきっかけと女性ならではの強み

しかし、女性研究者の数というのはいまだにどの業界でも少なく、マイノリティな存在であることは確かです。

情報処理学会の会誌『情報処理』の編集委員会では、2014年度現在、編集委員23名中、7名が女性です。この女性比率30.4%という数字、『IT人材白書2011』の「IT人材全体に対する女性の割合」の項目を見ても分かるように、IT業界ではかなり高い数値ではないでしょうか。

ちなみに、情報処理学会会員数における女性が占める割合は6.7%です。

内閣府男女共同参画局では、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」(「『2020年30%』の目標」)と目標を掲げており、その目標達成のために様々な取組が行われてきている現状です。

この30%という数字、なかなか実感として湧かないのではないかと思います。しかし、女性編集委員が30%を超えた現在の状態の編集委員会について、理事である東京女子大学の加藤由花先生は、「女性の比率が30%を超えたことで、編集委員会に確実に何かしらの変化が起きていることを感じる」、「すごく活気がある」と表現しており、この状態で委員会を進めていくことで、ダイバーシティや多様性の重要さが今後示されるのではないかと期待しています。

期待される「リケジョ」の活躍。そもそも、この「リケジョ」を増やすためには何をしたら良いのでしょうか? 筑波大学で行われた『FIT2014』でのパネルディスカッションの内容から紐解いていきます。

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リケジョを増やすには幼少期からの地道な啓蒙活動が必要

まず会場からは「女性にまず理系学部に来てもらうにはどうしたらよいか?」といった質問が出ました。

「どの大学でもそうだと思いますが、理工学部をはじめとして、理系では、どうやって女子を増やすかという取り組みを頑張っていますね。教育関係の研究をしていて、高校でプログラミングの授業を3年ほどやっていますが、1年目は女子生徒さんはほとんどいませんでした。情報、理数科系の高校ではすでに高校生の時点で女子生徒さんの割合が少ないですね」と話すのは高岡先生。

「最近は少し増えてきていると感じるので、『リケジョ』という言葉が流行した影響もあるのかもしれません。大学としては、オープンキャンパスとは別にいろいろな女子校に声をかけて、いろいろな理系の実験を見せる、というイベントにも取り組んでいます。理系学部に女子を集める時にはそういった啓蒙活動が大事になってきます。会誌編集委員としての役割などを通じて、情報発信のような活動は必要だなと感じています」(高岡先生)

また、私自身、日本科学未来館の友の会でワークショップを開催していた際に、女の子の親御さんから「女の子が参加できるワークショップをもっと増やしてほしい」という要望を聞いたことがあります。科学館で開催される実験系イベントやワークショップの類は確かに男子が興味を持ちそうなものが多く見受けられます。

これらのイベントは、参加対象を「男子」、「女子」と限定しているわけではないので、もちろん女子が参加しても良いのですが、親御さんが(ひょっとしたらお子さん自身が)精神的な障壁を感じているのかもしれません。

これら参加者の精神的障壁を取り除いてあげるためには、小学生くらいの年齢を対象とした、理系に興味を持つようなイベントを増やしたり、科学館に女子に来てもらうきっかけになるようなイベントをどんどん増やしていく必要があるのではないでしょうか?

「女の子だから」という育て方が進路を狭める

辻田さんは、アメリカ商工会議所が主催した『USJC-ACCJ Women in Business Summit』というイベントに出席した際に、「幼少期の環境や親のおもちゃの与え方が、子どもが何に興味関心を持つかに影響を与えている」といった議論を聞いてきたそうで、そのお話をしてくださいました。

「そもそも小さいころから『女の子はお人形』、『男の子はブロック』などと、女の子のおもちゃ、男の子のおもちゃと分かれているのが現状ですよね。それが原因で「私はファッション関係がいいかな。工学系は男の子みたいだし」というような思考につながってしまう。このような状況では、『女の子だから、女性だからこうあるべき』と知らず知らずのうちに教え込まれてしまうのではないでしょうか」(辻田さん)

(From Mads Boedker) 枠にとらわれない育て方が子どもの才能を引き出すかもしれない
(From Mads Boedker) 枠にとらわれない育て方が子どもの才能を引き出すかもしれない

辻田さんによると、「親、特に母親の考え方が子ども(女の子)の将来の職業に大きく影響を与える」という内容の論文も発表されているそうです。

3歳の女の子を育てている辻田さんの周囲では、「女の子だからこれを習わせた方がいいよね、女の子だからこうやって育てた方がいいよね」といった会話をよく聞くそうです。

辻田さんのお母さまは看護士として働いていたため、辻田さん自身も女性が働くということを当たり前だと思っていたそう。

また、お父さまは少女時代の辻田さんの机の上に『週刊アスキー』を置かれていたそう。このように「女の子だから」といった育て方をされなかったため、新しいデバイスやパソコンなど好きな理系少女に育ったそうです。

「大学で夏休みイベントとか企画すると良いかもしれませんね。小学校低学年くらいを対象として『これで夏休みの宿題も大丈夫!夏休みの電子工作イベント』とか、『ゲーム好きなあの子を振り向かせよう、ゲームアプリ作成コンテスト』とか(笑)。何か理系のものを身近に感じられるようなイベントを実施することで、リケジョを増やしていくきっかけを作るのが良いのではないでしょうか?」と、土井さんからは具体的なアイデアも出ました。

思い通りに行かない人生では対応力と粘り強さが大事

会場の現役学生さんからは、「学生時代にプライベートやキャリアの人生設計はどのくらい立てていたのでしょうか?」といった質問も出ました。

「キャリアについては、企業の研究所で働きながら博士号を取得して……と、研究者としてどう生きていくかは考えていましたが、プライベートについてはあまり立てていなかったですね。まずはしっかり仕事をしよう、その中で良いご縁があれば結婚したいな、と思っていました」(土井さん)

「海外に行って自分を成長させたい、という気持ちがあったのでいつまでに結婚しよう、という計画は考えていなかったです。どちらかというと自分のキャリアの方を考えていましたね。ポスドクを取ったらどこの大学に行こうかな、とか。でも、思い通りにはいかないのであまり考えすぎないほうが良いですよ」(辻田さん)

(From Sadie Hernandez) 詳細な計画を立てても、それが全てうまくいくことは稀
(From Sadie Hernandez) 詳細な計画を立てても、それが全てうまくいくことは稀

また、「具体的にはキャリアは何年先くらいまで考えていたのでしょうか?」との追加質問に、皆さんはそれぞれ次のような回答。

「そういった面ではけっこう無計画な方です。日本学術振興会の特別研究員の申請の際もそうでした。私が申請した年は例年より結果が分かるのが遅く、冬くらいに決まったのですが、当時の私は博士課程を卒業したばかりで、PDの申請書類は自分でアイデアを出して考えました。

これを出してダメだったら研究者をやめよう、結果が分かってから就職活動をしようと思っていました。そういった意味では運よく採択されましたが、3か月先の就職先を考えていないくらいの無計画さですね(笑)」(辻田さん)

高岡先生は自分の中で当たり前になっていた「大学院へ進学する」という計画以外は特に人生設計を意識しない方だそうです。

「巷ではよく、いろいろなことをやるには計画を持って、と言いますが、物事は計画通りには絶対行かないと思っています。研究も人生もそうですが、仕事が一つ終わって、ゆっくりと思っているうちに次の仕事が来る。その連続です。次々と転がり込んでくる仕事ですが、私はたいてい受けるようにしています。

これまでやったことなかった医療分野ですが、挑戦してみたら自分の幅が広がりました。このような経験から、私は天から降ってくるような仕事を大事にしています」(高岡先生)

皆さんが「人生設計をあまりしていません」という発言をされる一方、実は私自身は考えていた身。

「高校時代に自分史を書く宿題が出ました。これまでの振り返りの人生+その後の人生の設計を1枚の紙に書いていくという内容で、父が自動車会社のCAD関係のエンジニアだったこともあり、周りのみんなが22歳で就職というプランを書いている中、工学系の大学院に進みたいと書きました。その時点ではすでに博士号を取りたかったので27歳まで学生と書いていました。

また、母が若いうちに私を産んでいるので、30歳までに子どもを2人産みたい、そんな設計を書きました。実際にお茶の水女子大に入って、キャリアもプライベートも充実させている先輩方をいっぱい見たこともあり、“若いお母さん”と“博士号取得”を両方あきらめないで頑張ってみたいと思いました」(五十嵐)

そんなパネラーの意見を、加藤先生が上手にまとめてくださいました。

「『キャリア形成していません』というよりは、『考えてはいるけれど、その通りになるわけではない』というわけですね。すごく先のことを考えても、いろんなことが突発的に起きてくる。なので、その時に柔軟に対応できるといいな、というのが大事でしょうか。そして、先まで見て、考えすぎて、あきらめることはない。そんなことも大事ですね」(加藤先生)

女子大生の将来の不安を取り除く一助に

また、会場にいた大学教員の男性からは、「不安になっている女子学生はたくさんいるので、このイベントは非常に参考になると思います。海外からの留学生の女子が増えていることもあり、博士課程への進学を含めたキャリア形成や出産のタイミングなど悩んでいる人がとても多いです」と、同じような内容を英語でもトークしたらいいとの提案もいただきました。

実際に現役女子学生から出た質問では、「結婚相手とはどこで知り合ったのか?」といった質問から「妊娠出産のタイミングについて」など、具体的なライフプランについての質問が飛び出しており、「不安に思っている」様子をリアルに受け取ることができました。

リケジョを増やしていくためには、こういったイベントが全国規模で少しでも増えるといいですね。

(この記事はエンジニアtype 『五十嵐悠紀のほのぼの研究生活』からの転載です。)

お茶の水女子大学 理学部 准教授

東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学).日本学術振興会特別研究員PD, RPD(筑波大学), 明治大学総合数理学部 専任講師,専任准教授を経て,現職.未踏ITのPM兼任.専門はヒューマンコンピュータインタラクションおよびコンピュータグラフィックス.子ども向けにITを使ったワークショップを行うなどアウトリーチ活動も行う.著書に「AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55」(河出書房新書),「スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子 (ネット社会の子育て)」(ジアース教育新社),「縫うコンピュータグラフィックス」(オーム社)ほか.

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