「博士号」は新しい分野を切り拓いた人に与えられるもの

博士論文審査に合格をして得られる「博士号」。小保方氏の博士号は早大の調査委員会が『取り消し該当せず』という報告が本日公表されました。ところで、博士論文審査の要件や審査自体はどのようになっているのでしょうか。

以前に書いた記事『論文はコミュニティで書くもの』で、「論文」や「査読」について解説しましたが、今回は博士号が取れる「博士論文」に焦点を当てて、解説したいと思います。

博士号を取得するための要件

大学や学部によって異なりますが、博士号を取得するための要件が定められているところが多いでしょう。例えば、「筆頭著者で論文誌3本」と決められていると、博士課程在学中にこの条件を満たさなければ、博士号審査には進めません。

筆頭著者とは

研究は複数人で行うのが一般的です。その結果を論文にまとめるということは、すなわち1本の論文の著者も複数人になります。とすると、順番が大事になるのは当然。論文の著者の一番先頭に名前がくるのが「筆頭著者 (First Author)」といい、その論文の一番主要な貢献者です。また、次の貢献者は2番目ではなく、最後になるのが慣例で、「Last Author」と呼ばれます。通常、ここに名前を書くのは、指導教官であったり、共同研究の中の一番偉い人であったりします。

特に若手研究者は「筆頭著者の論文が何本あるか」が直接、博士号取得の条件だけでなく、就職やその後の人事にも響いてきます。最近では「Joint first authors」といって、二人で筆頭著者という論文も見かけるようになりました。貢献度が同等、といったことから「共同研究者」として名前を連ねるのではなく「二人とも筆頭」というわけです。この場合はたとえ2番目に名前が書かれていても、「筆頭著者の論文」としてカウントされます。

また、シニアな研究者にとっては「ラストオーサー」の論文が何本あるか、が重要になることも多いです。そのため、論文執筆の際には、共同研究者の名前をただ羅列すればいいわけではなく、共著者の名前の順番にもとてもこだわって、共同研究者のみなさんに失礼のないよう、貢献度に気を配りながら決めることになります。

博士課程の審査は大学や研究科ごとに異なる

筆頭論文の本数、などの条件が揃うと、博士論文を書き始めます。そして、博士審査へと段階が進んでいきます。この博士号取得のための審査は、文系や理系などで異なるだけでなく、大学ごと、そしてさらには同じ大学でも研究科ごとに規定が異なるのです。

博士号は新しい分野を切り拓いた人に与えられるものです。これまで誰にもされていなかった研究を行い、どんなに小さくても自分が切り拓いた研究分野を掲げて、博士論文審査に挑むのです。

私が所属していた工学系を例に挙げて紹介しましょう。博士審査は1人の主査の先生と、4~5人の副査の先生の下で行われます。学外の専門家を呼ぶこともあり、ときには国外から呼ぶこともあります。指導教員が審査側に加わるかどうかも、大学や研究科ごとに決められており、まちまちです。

審査委員の各先生方に審査会の前に、ご挨拶として、仮製本をした博士論文を直接持参し、簡単に博士課程の研究および論文の内容を説明させていただくことが多いです。遠方の先生には郵送したり、情報系では、PDFを添付して送ったりといったこともあります。審査をしてくださる先生方もお忙しいので、この段階でいかに自分が新しい分野を切り拓いたか、自分の研究を行ったことで世の中へどのような貢献があったのか、を自分の口から説明しておくことで、先生方に博士論文の内容を理解してもらいやすくなります。また、予め疑問点などをいただき、博士論文の中身を修正・加筆していくこともあります。

そして、博士審査へと進みます。博士審査は予備審査と、本審査に分かれていることが多く、本審査に関しては、公開公聴会であったり、非公開であったり。これも大学や研究科の規定によって異なります。また、昔は論文博士という、博士課程に在学しないで博士号を取得する制度もありましたが最近はなくなる方向に動きつつあるようです。

無事に審査が終わったあとも、博士論文の修正は続きます。審査の先生方のコメントに応じて足りない部分を加筆したり、表やグラフをわかりやすく加えたり。そのような作業を経て、ようやく最終版の博士論文が出来上がります。よって、仮審査や本審査の段階では、最終的に製本された博士論文ではないことが多いです。

一方、文系では、最終版の博士論文が出来上がった状態で博士号審査をし、審査後は一切書き直しを行わない、というところもあると聞きます。

製本は自分でする

博士論文の製本は自分でするのが慣例
博士論文の製本は自分でするのが慣例

博士論文は自分で製本します。博士号審査の際には、「仮製本」と言われる、簡易製本機で熱を加えて、ファイリングしたものを使用しますが、本審査が通り、博士号取得が決まった暁には、製本を行って大学と国会図書館に収めます。(なお、国会図書館リサーチナビのページによると、『2013年4月以降に学位が授与された博士の博士論文は、学位規則改正により、学位を授与した大学を通じてインターネットで公表されることになっています。』とのことです)

製本業者に自分で依頼をして、製本され納品されてくるという経験は、わたしには後にも先にも一度きり。大学へ提出する用、国会図書館へ提出する用、主査や副査の先生方用に加え、わたしは自分用と両親用にも製本しました。製本された博士論文が段ボール箱で届いたときはとっても感慨深かったのを覚えています。

論文の本数で就職先が決まる

さて、博士論文を書き、博士号を取得した研究者は、就職するわけですが、どういった職に就くのでしょう?

博士号取得直後は、ポスドク、研究員、助教といった、任期付きの職につくことが多いのですが、就職の際の履歴書替わりになるものが「研究業績」であり、論文の本数で就職できるかどうかが大幅に違ってきます。

また、これまでの総論文数だけでなく、過去5年以内の論文数を書く欄を設ける求人も多くなっており、研究成果を継続的に出していることが必要になります。なので、特に女性研究者は産休・育休から復帰してすぐの就職活動などは不利になることも多いのが事実です。最近では、そのための政府からの研究支援なども増えてきています。

「博士号取得」というのは、学生時代はゴールのように思えていましたが、研究者への道のスタート地点に過ぎないのです。