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【カタールW杯】韓国代表主軸DFが激白 「ハッキリ言って日本が羨ましい」「かなりの差がついた」

(写真:ロイター/アフロ)

日本と同じくカタールW杯をベスト16で終えた韓国代表。

欧州組の選手たちはしばしの自国での休養を終え、ふたたび「仕事場」へと戻る時間となっている。

そういったなかでソン・フンミンと並ぶ2大スターの1人、CBキム・ミンジェ(ナポリ/イタリア)の出国時の空港でのインタビュー内容が話題になっている。

「あえて一言言うのなら、韓国の選手たちがヨーロッパのチームからオファーが来た場合、いい形で送って欲しいです。はっきり言って日本がすごく羨ましいです。今や日本と比較になりません。より多く出ていかなくてはなりません(12月15日、仁川国際空港にて)」

今大会を通じて、韓国のみならずアジア各国がワールドカップで通用すると実感した、というキム・ミンジェ。189センチの長身CBに対し、メディア側が「退任したパウロ・ベント監督が韓国選手を欧州に連れて行くと思うか?」と質問したところ、キムはこう答えた。

「多く連れて行ってほしいし、選手も行きたいと思うだろうが、難しい面もあると思います。移籍金が高い。Kリーグクラブ側はできる限りいい形で送り出してほしい。そしてヨーロッパでプレーする選手がもっと多くなって欲しい。Kリーグが悪いということではない。ただ、日本には欧州組が多い。いまやチームの競争力は韓国より遥かに有利な位置にいると思います」

キム・ミンジェが日本について「羨ましい」としたのは「Jリーグクラブの欧州移籍への寛容さ」。Kリーグは「移籍金も高く、硬い姿勢」ということだ。

カタールW杯での両国代表のうち、欧州組は日本が26人中19人、韓国は8人だった。いっぽう「朝鮮日報」はカタールW杯の韓国の総5得点のうち、4つがKリーグ所属選手だったというデータを紹介し、そのポテンシャルの高さを暗に示している。

自身も移籍金で「遠回り」 

確かにキム・ミンジェ自身、欧州5大リーグの一角、イタリアのナポリにたどり着くまでかなりの遠回りをした。

頭角を現した2018年シーズンの後、国内メディアでは全北現代モータースからの移籍先としてさんざん欧州名門クラブの名前が挙がった。しかし実際に行先は中国の北京国安だった。単に「移籍金が高く」「海外での実績が少ない選手に欧州クラブは結局尻込み」、結局は「中国のクラブのみとの交渉が成立」という流れは想像に難くない。

北京で3年プレーしたのち、2021-22シーズンから欧州でのファーストステップとしてフェネルバフチェ(トルコ)でプレー。実績を残した後に、今シーズンからナポリに移った。

写真:ロイター/アフロ

そこには「自分もKリーグクラブの移籍金が高くなければ、すぐにでもヨーロッパに行けたのに」という思いがありそうだ。

では、なぜKリーグクラブの移籍金が高いのか。そこには国内でも多くの説がある。

「ここ10年で急速にアカデミー組織を重要視するクラブが増えたため、若い選手の移籍金で回収したいと考えている」

「まだまだ保守的な考えが強く、欧州で成功するか分からない選手に対しては高い移籍金を設定し、自クラブで確保しようとする考えが強い」

などだ。

じつは日本の「たくさんのリーグを見る文化」は特徴的

いっぽう「日本と比べて欧州移籍が進まない理由」にはもっと根本的なものがある。「40年来の歴史的背景」と「徴兵制度」だ。

まずは前者だが、韓国には特に2000年代から強まった「イングランドプレミアリーグ1強」「それも突出した存在としてイングランドを評価」という欧州サッカーへの視点がある。だから選手にも「イングランドに行ってナンボ」という目線が向けられる。そこは日本との大きな違いだ。

韓国にも日本にも「欧州5大リーグ」という言葉はある。

まず日本について言うと、ここ20年は「イングランド・スペインが2大リーグ」という視点があり、60年代後半以来の「ブンデスリーガとの繋がり・憧れ」があり、さらに90年代の「セリエA全盛期」には大いにイタリアへの関心が高まった。つまりたくさんのリーグを楽しむ文化がある。それらを支えたのは日本の雑誌文化だった。

従来、マニア文化だった欧州サッカーは「テレビ・新聞の枠には入れないもの」だった。だから月刊の専門誌を中心にたっぷりと「多様なリーグのニュース」を堪能する文化が育まれた。

それらが92年からの日本代表の躍進、93年のJリーグ発足、02年W杯を通じて一気に「大衆化」できるかに見えたが、結局出来なかった(余談だが)。それでも「多様なリーグを楽しむ文化」の根は張られている。

いっぽうの韓国は前述の通り「プレミアリーグ1強」。これは中国や東南アジアと似た形態だが、韓国にははっきりとした背景がある。

まず従来メディアの報道は「新聞中心」。90年代後半から多くの韓国メディア関係者と接してきたが「日本の雑誌文化は本当にすごい」という話を幾度も聞いた。新聞ではじっくり何かを見るというよりも、限られた紙面で、重要な試合の結果やスキャンダルのような「瞬間的報道」がメインになる。

そこに03年以降のパク・チソンとイ・ヨンピョのオランダリーグおよび欧州チャンピオンズリーグの「テレビ中継文化」が入っていった。テレビは当然、枠の競争が激しいため「数字が取れるものに一極集中」となる。

写真:ロイター/アフロ

その傾向が05年のパク・チソンのマンチェスター・ユナイテッドへの移籍で一気に高まっていく。もちろんその間のプレミアリーグ自体のステイタス向上も重要な理由だ。つまりは「自国の選手が活躍している世界最高峰リーグ」があるなら、そこに人気が集中して当然、という話だ。そこから今日の「ソン・フンミン大活躍時代」へと繋がるという流れだ。

ちなみに1974年生まれの筆者、「青春時代はセリエA一色」というクチだが韓国のサッカーファンとはイタリアリーグの話ではほとんど盛り上がらない。むしろ「縁遠いリーグ」という位置づけだ。

気がつけば「ドイツのステイタス向上」

そういった違いが何を生んだのか。

韓国ではトップ選手が「プレミア一本」で欧州行きを目指したため、成功できない事例が生まれた。主に00年代中盤から後半のことだ。

06年のKリーグMVPから、08年にウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンに移籍したMFキム・ドゥヒョンは1シーズン半で20試合1ゴール。

写真:Action Images/アフロ

チョ・ジェジンは04年から清水エスパルスでゴールを連発、06年フランスW杯でもフランス戦でアシストを決めるなど結果を残し、07年にニューカッスル入りの交渉まで行ったが決別。

イ・ドングは10代で98年フランスW杯に出場するなど、若くして才能を認められたが、その後キャリアが停滞。徴兵、そしてドイツW杯前の膝の重傷など「膿を出し尽くした後」に、06年からミドルスブラ入りを果たしたが、1シーズン半で23試合0ゴールに終わった。

これらの選手が仮に、イングランド以外に行っていたらどうなっていたか? 息の長い欧州組にも成りえていたと思うが、なにせ自国には「イングランドに行ってナンボ」という空気がある。

同時期、日本はドイツに多くの選手が進出していった。いわば「韓国が見向きもしないリーグ」。しかし、80年代の全盛期が過ぎた後、力が落ちてきたと見られていたこのリーグは2010年代前半から「世界最高の平均観客動員数」でも知られるようになっていく。価値が少し変わった。気がづいたらそこには、日本人プレーヤーがたくさんいたのだ。

変えようのない「徴兵問題」

もうひとつ、日本と韓国の構造の違いがある。

日本にはベルギー・フランスリーグの選手が多くおり、韓国には中東・中国の選手がいる。

この点には明らかに「徴兵」の有無が影響している。

国民の義務として、28歳までに入隊しおよそ1年半軍隊チームで活動しなくてはならない。その間は無報酬に近い。

28歳までにキャリアの分岐点がある。金銭面のみならず、その間にパフォーマンスもどうなるか分からない。すると「兵役前の展望が見える期間にできるだけ多くの報酬を稼ぐ」という考えが生まれる。それゆえ、中東・中国への移籍も多くなる。

後列二人目の17番が兵役中の選手。2018年W杯前に。筆者撮影
後列二人目の17番が兵役中の選手。2018年W杯前に。筆者撮影

韓国記者とこの話になることが多いが、こういった表現も出てくる。

「韓国人選手は兵役があるから、日本人選手のように『遠回り』できない」

遠回り、とは20代の選手たちが高い報酬を得られずとも、ベルギーやフランスの下部クラブで実績を積んでステップアップする、というやり方のこと。これが韓国では難しいということだ。兵役の時期になれば世界中のどこにいても韓国に戻らなければならない。厳密に言うと兵役に行く1年前にKリーグの所属クラブを決め、そこから軍隊チームにレンタル移籍しなければならない。ならば「先に稼いでおく」という考えから中東・中国を選択する。

時間の制限がある。兵役は国民の義務ゆえ、この構造は変えられないものだから、韓国サッカー界はこの問題とも直面していくことになる。

今回のキム・ミンジェの発言を報じた「YTN」のYouTubeアカウントのコメント欄にはこういった内容が寄せられている。

「本音だ~ 韓国も変えてみよう」

「Kリーグのクラブは故障した電卓を使わないように」

「自分たちが育てた選手たちに対するこだわりが強すぎ」

「日本が好きなら日本に行け」

概ね「よくぞ言った」という雰囲気だ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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