梨泰院事故 「ウサギ耳男」は無実… 捜査線上には別人物「仮面男」と「ウサギ耳女」
「ウサギ耳男」は結局無実だった――。
10月29日に起きた梨泰院雑踏事故。韓国で直後から原因と疑われた「ウサギ耳帽子の男性」は韓国警察の捜査により「容疑なし」となった。
7日午後、韓国警察による特別捜査本部の第一次捜査結果報告の一つとして発表された。
このなかで「ウサギ耳の男」に対する捜査も行われた。事故現場付近で友人5~6人とともにいたずらで「押せ」と叫んだ、という目撃談が相次いでいた。これによってすでに混雑していた事故現場付近で「下がれ」という声が出ていた状況が「押せ」に逆転した、とされてきたのだった。
- 押せ、という声が聞こえたという目撃談が多いというニュース。音声含む。11月1日の「MBN」
本人は「事故発生の22時15分に別の場所にいた証拠となる交通系ICカードの記録」も提出していたが、結局は「スマートフォンの位置情報」と「監視カメラの映像」が容疑なし、となる決定的な"証拠"となった。また本人は無実を確信してか、11月5日土曜日に地上波番組に出演。「ネット上で自分の顔を晒した人すべてを訴える」などとコメントしていた。
「仮面の男」の噂話はすでに韓国で物議を醸す
ではなぜ韓国メディアやSNSを通じ、当日あの現場で「押せ」という声が聞こえた、という噂が巡ってきたのか。
確かにメディアで報道されてきた映像にも「押せ(ミロ)」という音声が収められているからだ。
「ウサギ耳男」以外の人物から発せられたという向きが強い。この日の韓国警察の発表に基づく韓国各メディアの報道もこういったものだった。
「今後の捜査対象には『ウサギ耳帽子の女』と『仮面の男』が含まれている」
前者はすでに11月3日の時点で韓国警察が「押せと言ったウサギ耳の人物は別の女性である可能性がある」と現地メディアに話していた。
後者に対して韓国では「カクシタルの男」と呼ばれている。カクシタルとは「赤い化粧や額の模様をつけた女性の姿を描いた仮面」。18世紀、若くして村に嫁いだ女性が夫と死別する人生を歩んだ。彼女の死後に村人が、鎮魂のために仮面をつけて踊ったという話が由来となっている。また2012年には日本統治時代を舞台に描いた同名のドラマが放映されたこともある。
- カクシタル男についての報道。KBS公式アカウント
ただし、韓国メディアの報道はかなり慎重、といったところだ。「ウサギ耳男」がネット上で素顔まで晒される被害が出たためだ。
現に「仮面の男」については「野党系の労働団体による陰謀説」「現場にアボカドオイルを撒いて、滑りやすくした」といった噂話がすでに出回っている。
8日の韓国国会で与党の「国民の力」議員が、野党「共に民主党」に対し「陰謀説」について質問するや、野党側は猛反発。該当の労働団体は「応戦する」と宣言する事態になっている。
「オイル」の件については韓国警察が7日に捜査結果を発表。「オイルではなく、酒(ジム・ビーム)だった」「該当の場所は事故現場ではなかった」と発表している。
ただし、この二人は今後取り調べを受ける流れになりそうだ。韓国警察特別捜査本部による捜査はこういった「噂話」を立証していく作業でもあるからだ。
事件翌日の30日から編成される340人体制のチーム。7日に終えた第一次捜査ではこういった証拠をもとに作業が進められてきた。
・現物611点
・録画・録音ファイルおよび電子情報6521点
・携帯電話2台
そのうち映像関連のものは次の通り。
・現場付近の監視カメラ映像57本
・SNS上の動画78本
・現場付近にいた人たちからの提供動画22本
また、韓国警察は7日から始まった第二次捜査において「捜査中」としている別項目も明らかにしている。
・管轄の龍山警察署長が当日、梨泰院の混雑を電話報告されていたにもかかわらず近くでの会食をやめず(サムギョプサルを食べていたという)、食事を続けた疑惑。監視カメラ映像の確認。
・現場の地理的な危険度の調査。狭い道路、傾斜、道路に突き出た飲食店の構造など。31日の鑑識結果(国立科学捜査研究院との共同調査による)で確保した事故現場の人の流れを3D分析したデータを基にしたもの。
・監視カメラ映像のさらなる分析を基にした時間帯別密集度変化の状況。
ちなみに事故直後に多く報じられた「芸能人を見に行ったために人が殺到」という噂の立証については、主要メディアは報じていない。
(了)