きょう日本ーブラジル戦 先に1-5で大敗した…「韓国にも勝て」
"ブラジル「観光なし」 日本ベスト8の夢を壊すか"
6月3日、韓国メディア「デイリーアン」がこんな見出しの記事を配信した。2日の韓国戦を終えたブラジル代表が翌日に日本に出発したニュースを報じるものだ。
なんでもブラジルは「日本政府による隔離政策のため、韓国でやったような観光が出来ない」「より試合に集中できる環境で日本戦に臨む」のだそう。それゆえ「カタールW杯ベスト8の夢を抱く日本の幻想を壊せるのか」という視点の記事だ。。
は? よくぞそんなことが言えるものだ。リフレッシュがどう試合に作用するかなんて、選手本人たちにしか分からないだろうに。やったほうがいい場合もある。
まあいずれにせよきょうの日本ーブラジル戦を占う最も良いデータの一つは「6月2日の韓国戦」だ。
同じアジアのチームが1-5で敗れたゲーム。韓国はどう戦ったのか。
韓国監督「失点は個人のミス」と言い切り
「多くのミスがあった。スコアがそれを証明している」
試合後、韓国代表のパウロ・ベント監督(ポルトガル)はこう振り返った。
「1点目から3点目までは攻撃の組織力とは関係のない守備のミス」
守備陣のミスを強く叱責。これが勝負を決めたのだと。
前半4分までほとんどボールに触れなかった韓国。序盤の流れの悪さが尾を引いた面もあり、7分から57分までの間に3ゴールを奪われた。ベント監督曰く「ここでミスが出た」。
7分に先制点を許したシーンでは、相手左SBアレックス・サンドロに対してドリブルのコースを空けた。4枚の守備ラインが下がってしまったのだ。折り返しを許す。
さらにこの時、ボランチを含めた6人が中央からやや遅れて入ってきたフレッジをフリーにしていた。
ここで勝負あり。
フレッジはバウンドしたボールを強くは叩けなかったがDFライン4人全員が揺さぶられ、最後にはリシャルリソンがこれに触れゴール。
韓国守備陣は先制点を奪われたことにはっきりと動揺した。直後のプレーでブラジルの前線2人のプレッシャーにたじろぎ、GKキム・スンギュからボランチのチョン・ウヨンに入れたボールをかっさらわれてしまう。これをネイマールがドリブルで持ち込み、折り返したが、ハフィーニャのシュートはポストに。流れが悪くなったのは確かだ。
あとの2失点ははっきりいって「個人の責任」を問うもの。ベント監督はこう言った。
「1試合でPKを2度も取られるのは、私の人生で初めてだ」
いずれもDF(イ・ヨンとキム・ヨンクォン)がペナルティエリア内でファウルを犯した。監督の戦術的問題ではない、と。アジア系の監督なら「ミスをカバーしよう」と話したのではないか。ポルトガル人指揮官による欧州キリスト教社会の厳格さ、とも取れる発言だった。
韓国の「ポゼッション」へのこだわり
しかし、韓国にとって(少なくともパウロ・ベント監督にとって)、より重要なのはこれら失点の話ではなかった。
「攻撃」だ。
ベント監督自ら、試合をこう振り返っている。.
「私の意見ではこの試合で自分たちのスタイルを変えたのではない。しかしビルドアップの過程で違うスタイルを追求するつもりだ。これまで多くの時間をかけ、リスクをもって(精密なビルドアップ)をやってきたのだが、今日の試合では攻守でミスが出た。(中略)長い時間をかけてやってきたのだから他のスタイルをやるには修正にまた時間がかかる。我々のスタイル通りにやることがもっともミスを減らすことだ」
なにせ「ビルドアップ」にこだわらなければ「ならない」。
韓国代表は伝統的にロングパスを織り交ぜ、"強さ"や"速さ"で勝負してきた。また02年のヒディンク以降の外国人監督の時期にはスタイルどころか「意思疎通」「戦術が無味無臭」といった問題を抱えてきた。
そういったなかで、このパウロ・ベント監督は2018年以降、幾度かの更迭論(なかでも2021年3月の日韓戦後にかなり高まった)を経て、自分の色をついぞ定着させた。この「ビルドアップ」だ。カタールW杯アジア最終予選で「突破を決めるまで無敗」の実績をもって、世論を納得させた。
そしてこの「ビルドアップ」(日本では「ポゼッション」ともいいそうだが)は韓国サッカーにとっての「悲願」のひとつだ。2010年7月より2011年12月まで指揮を執ったチョ・グァンレ監督は自らの現役時代よろしく「漫画サッカー」と呼ばれるポゼッションを志向したが、このスタイルのアジアでの「本家」たる日本にアジアカップと8月の札幌の2度敗戦。これもあって解任の憂き目に遭った。
だからやんなきゃならない。
しかし2日のブラジル戦では中途半端な面もあった。30分に同点に追いついた後、少しばかり韓国のペースの時間帯があった。ものの見事にブラジルFWのプレスをGKとDFがショートパスを駆使して剥がし、ボランチが前を向いてボールを受けるシーンを作った。
ブラジルが一瞬、前がかりになったスキを突いたのだが…しかし、前方に大きなスペースがあった左サイドのソン・フンミンにボールは届かず。ソンにとってのこの日の「一番いい体勢」に見えたが。攻撃に少し時間がかかったために、相手DFの予測と対応を許したのだった。
それでもベント監督はビルドアップを試みた。ブラジル相手に「組み立てのやり方を変えてやった」というのだ。
日本は「勝っている」…韓国には
これ、日本はもうすでに「超越」した点だ。
W杯本大会で韓国のいう「ビルドアップ」も「守備的」(あるいは「遅攻」と「速攻」)の双方を試みたことがある。勝ったこともあるし、負けたこともある。はっきり言ってこの点は韓国の先を言っている。現在の森保一監督が志向するのは「双方がこなせるチーム」だ。
5日の前日会見を取材に国立競技場に出向いたが(監督本人も「やっぱり(対面は)嬉しい」と話していた)、こんな話をしていた。
ー明日はどんな戦いを?
「チームのコンセプトを世界で勝っていくことを見据えてやってきた。良い守備からいい攻撃に移る。相手のハイプレッシャーをかいくぐって速攻に繋げられるか、我々のボール保持に繋げられるか。速い、連携・連動を見たい」
速攻とボール保持。状況に応じて双方が出来る、ということだと。2018年7月の就任会見でも口にしていたことだ。
―戦術として新たに加えたい森保イズムはあるか。
「速攻もできれば遅攻もできる。守備ではハイプレッシャーをかけることもできれば、自陣でしっかり守備を固めて相手の思ったような攻撃をさせないということもしていきたい。つまり、いろんな対応力を持って戦うということ。それは西野監督も言われていたし、臨機応変に、状況に応じて勝つためにどうしたらいいか、流れをつかむためにどうしたらいいかということをチームとしてできるように、選手が判断して選択できる。そういうサッカーをしていきたい。対応力と臨機応変…」
翻って、韓国はブラジルに対して撃ち合いを演じた。挑んだ、ともいえるが「そうせざるをえなかった」のだ。
きょうの日本は「対応力と臨機応変」の成果を披露する重要な機会となる。森保監督のいう「日本サッカーの歴史の詰まっている場所」国立競技場にあって。前日会見では「我々のほうがやれるという思いでやる」とも口にしている。
ただし、韓国の1ゴールは…
きょうのブラジル戦にいったいどんな種類の興奮を求めるのか。そういう話でもある。
撃ち合いを挑むのか、はたまた”渋い戦い”をして勝敗のスリルを求めるのか。
一つ記しておくべきは、1-5で大破した韓国、30分の1ゴールはそれでも「狙いを具現したもの」だったということ。確かにこれは「ビルドアップ」から決めたものだった。
28分49秒から30分10秒までの1分20秒間、じつに27本ものパスをつないだ成果だった。
左から右に展開する中で、右サイドのファン・ヒチャンがドリブルで加速。その後、縦にボールを入れたところをファン・ウィジョがターンを入れながら決めたものだった。
ブラジルはこの時、フィールドプレーヤーの10人が「おお来るか?」とばかり、割り切って自陣に戻り、"休みながら"守っていた。そこを韓国の"緩急"が切り崩した瞬間だった。
きょうの日本にひとつ注文をするのであれば、「狙いを具現したゴールを」。別に韓国と戦うのではないが、ことブラジルとの対戦。世界がこの戦いを見ているということだ(了)。
【参考】ブラジル戦の「日本監督支持率調査」実施中。