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東京五輪「とにかく開幕がゴール」に非ず。日本未体験「ブーイング浴び続け国際大会」が韓国で実際にあった

その大会のスタジアム新設工事現場(写真:ロイター/アフロ)

 "何か大きな目標(楽しみ)をもってコロナ対策も頑張りましょう"

 東京五輪「開催論」は言い換えるならばこういった話でもあるように見える。

 このロジック自体はもともと、絶対悪ではない。むしろポジティブな話で、「終わった後に思いっきり遊ぶためにテスト勉強を頑張ろう」「カッコいい服を着たいからダイエットに励む」「結婚準備のために今は節約しないと」といった話はなんら珍しくもなく、引っかかるものでもない。

 ところが、最近は大会関係者がこれに沿って発言するたびに雰囲気が悪くなる。IOC発のものもさることながら、個人的に「鳥肌レベル」でゾッとしたのは、国内からの2つの言葉だった。

 「新しいパンデミック下でのオリンピックの開催というモデルを日本が初めて作ることができるのではないか」

(平井卓也デジタル改革担当大臣)

 「開催しさえすれば、国民は喜ぶ」

(官邸関係者側の話として。5月27日テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」より)

 押し付けがましい幸福論を「みんなの幸せですよ」と言って歩くおぞましさ。それ、ニーズあるんですか? 結局は自分が幸せになりたいだけじゃないの? そこが透けて見える。そして突っ走りすぎて止まれなくなる。世ではそういった様子が「日米開戦時」の様子にも例えられるが、筆者には「大東亜共栄圏」や「日韓併合」の発想に見える。

 個人的には東京五輪について「やれる根拠を具体的に、科学的に示せるならやってほしい」と思っているが、そう考える中立派・浮遊層もどんどんネガティブな印象になっていく。スポーツが大好きで「上手くやってほしい」と考える側からも叩かれる。そういう構造ではないか。

 永田町界隈の一部では「自分たちがアスリートの防波堤になって批判を受け止めている」とでも考えていらっしゃるのだろうか? そうでもない限り理解し難い発言だ。

東京五輪が「日本初」となるまた別の指標

 開幕すれば国民は喜ぶ。それホントですか? 何を根拠におっしゃっている?

 近年、日本で行われたスポーツメガイベントの事例にはこういったものがある。

94年 広島アジア大会

98年 長野冬季オリンピック

02年 サッカーワールドカップ

07年 世界陸上大阪大会

17年 札幌冬季アジア大会

19年 ラグビーワールドカップ

 日本で今回ほどに「大会前からネガティブムード」という大会があるのだろうか? 長野五輪では確かに環境問題、誘致運動を含めた運営費の面で批判の声が挙がった。しかし開催に関わる話が大きく論じられるには至らなかった。そもそもその時代と今では、ネットメディアの普及度で大きな違いがある。

 むしろ近年の国際スポーツイベントは「大会開幕前は無関心」だが、「開幕後に一気に盛り上がる」という流れだ。2019年ラグビーワールドカップがそうではなかったか。いっぽう日本国内の開催ではなかったが、2018年はサッカーロシアW杯、平昌五輪もそうだった。つまり「大会前から反対ムード」という大会は今回の東京オリンピックが日本の歴史上初めてのものだ。

【にわか論】ラグビーW杯もそうだった。日本は変わった? ”大会盛り上がり時期”が後ろ倒しに【コラム】

海外にあった「猛烈逆風」の大会 

 大会前から、猛烈な逆風が吹いていた大会。これが海外では実際にあった。ソチやリオデジャネイロ五輪にも反対運動があったが、筆者が直接取材を経験したのは韓国での話だ。

 2014年9月の第17回仁川アジア大会。

 サッカー競技を数試合取材したが、試合後の取材エリアでの仕切りについてもメディア陣と大会運営側のお互いの不信感が伝わってきた。じつに居心地が悪かった。

 大会は「史上最低のコンパクト・低コスト大会」を打ち出して誘致に成功。しかし既存の大競技場の収容規模が大会組織委員会の「要請事項」に見合わなかった。増設か新設かさんざん議論された末に4900億ウォン(約490億円)をかけての「新設」となった。そこからケチがついた。大会前には一部市民団体から開催返上の声が挙がった。

 この追加予算(スタジアム建設費など)を開催都市側が負担するか、国が負担するかで紛糾した末に、2012年12月に朴槿恵氏が国費からの負担拡大を公約に掲げ大統領に当選。実際に615億ウォン(約61億5000万円)が国から捻出された。それでも開催都市側の負担は大きく、仁川市は大会後2018年まで財政難で苦しんだ。

 さらに開幕式前日から壮大にズッコケた。「いったい最終聖火ランナーは誰?」という話題でメディアとともに盛り上がるのが恒例ネタ。しかし大会組織委員会は前日のプレスリリースでほぼ誰か特定できるほどまでに細かい情報が書かれていた。その名は名作韓流ドラマ『チャングム』のイ・ヨンエ。ネタバレのみならず、「スポーツ関係者でもない、芸能人のPR機会なのか?」と猛批判を浴びた。女優本人にとっても黒歴史となってしまった。

 そういった雰囲気が伝播したか、ボランティアのコントロールが困難になっていった。大会5日目にして511人いた語学ボランティアのうち111人がまとまって離脱。その後も「野球会場で持ち場を離れ選手にサイン・写真撮影を求める」「競技を観覧」「控室でずっと自分の勉強」といった事態が続出。大会組織委員会側の連絡方法や研修の不足がさらなる批判を呼んだ。

 そうなると、ネガティブムードも止められなくなった。韓国の情報サイトには当時を振り返り、国内外のメディアを通じ100近い問題点が指摘されたとある。なかには些細な話、大会組織委員会側ではどうしようもないことなどが含まれている。

 「選手村の食堂メニューにステーキがない」「サッカー競技の試合間隔が中2日だった」「公式資料やサイトのほんの些細なタイプミス」「市民が試合当日の交通規制を守らない」などなど。「韓国では接触禁止になっている北朝鮮関連サイトのブロックを解除しなかったために、北のメディアがインターネットで記事を送れず。ファクスで送る羽目に」という点までも書かれた。

 ダメ押しで、大会後の組織委員会要人の「総括」発言がさらに心象を悪くした。

 「大型事故や人命被害がなかったので、低水準の大会ではなかったと考える」

 大会については熾烈な見出しでの報道が続いた。「韓国の恥晒し」「何だこれは?」「事件事故が止まらない」「史上最悪」「無風の日がない」「中国、日本のメディアが連日大会を猛攻撃」「不良大会と判定される」…。

東京五輪はすでに「海外メディア行動規制」が予定されている

 東京五輪はどうなるだろうか。大手新聞が軒並みスポンサーに名を連ねており、いったん開幕すれば穏やかに進行するだろうか。はたまた海外メディアは違う反応を見せるか。海外メディアの行動も「指定のホテルでの宿泊を強く推奨」「公共交通機関の使用禁止」「観光地に行くことを禁止」などと厳しく規制するとのこと、不満が出ないだろうか。

現時点の「東京五輪プレーブック」メディア版。

 東京五輪に関わるセンセイ方、よくお考えを。コロナの感染状況シミュレーションは言うに及ばず、「何を公益・国益だと考えているか」もお示しにならない。お金ならそうおっしゃればよい。”勝つ”ためには浮動票・中間層の取り込みもまた常套手段とお聞きしていましたが。もうやめてしまいました? 熱心な支持者ばかりご覧になっているのでしょうか。「東京」そして「五輪」の名を汚すことなきよう。これもまた大きな公益です。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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