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【アジア杯日韓比較】W杯ベスト16 v.s. 第1シードに勝利。この決着をつけようじゃないか。

アジアカップでの直接対決は2011年大会まで遡る。準決勝で日本がPK勝ちした。(写真:アフロスポーツ)

6日に開幕したアジアカップ。各グループリーグの第2節が進行している。

日本も韓国もすでに2戦を終えた。いずれも各グループの与しやすしとされた相手に1点差の辛勝。ストレスが溜まる展開でありながら、グループリーグ突破を決めた。それぞれ17日、16日に戦う第3節で突破順位が決まる。

ある意味、似た大会序盤を過ごしている。第2戦に至っては、1-0というスコアも、チャンスを多く作りながらも決められないという試合展開も似ていた。大会が進むにつれ、少しずつギアが上がってくるか。このまま低調で終わるとは考えたくはない。

韓国は次戦の中国戦(16日)に向け、エースのソン・フンミン(トッテナム/イングランド)が合流した。14日のプレミアリーグ第22節、マンチェスターU戦を終え、ドバイに移動。そのまま大韓サッカー協会が準備した車でアブダビの韓国代表キャンプ地に合流した。アブダビ直行とならなかったのはイギリスからのフライト時間がどうしても合わなかっただからだという。

ソンについては、所属のトッテナムと大韓サッカー協会のスケジュール協議により、11月の国際Aマッチデー2試合とアジアカップの初戦2試合に招集しないことが決まった。もともとは9月のアジア大会にソンを出場させるための処置だった。

その韓国戦の日本でのテレビ中継は、16日のグループリーグ第3戦(対中国)から始まる。日本と韓国を比べる話の本格的な部分はそこからだ。韓国ははっきり言って、ソン・フンミンがいるか否かで大きくチームが変わるので、細かい情報は追ってレポートする。

今回は、日韓比較の観点から大会をどうみていくのか、といった大枠の話を。

「日本の結果は世界では記憶されていない」

昨年12月に韓国のサッカー担当記者と食事をする機会があった。アルコールも入った何気ない会話のなかで、相手の言葉に引っかかるところがあった。

「日本がロシアW杯でベスト16に入ったのを覚えているのは、日本人だけじゃない? でも韓国がドイツに勝ったことは、世界中が覚えている」

何か言い返そうとしたが、やめた。例えば「そっちだって最初はベスト16を目指していたんだろ?」と。最初からドイツにだけ勝つつもりでやっていたのかと。この時だけではなく、韓国メディアの他の報道からもそういう話は見聞きした。6 月30日付の「イルガンスポーツ」は、「ドイツ戦での選手の運動量が、日本より優れたW杯となった理由」との記事を配信している。

ロシアW杯での韓国は1勝2敗。ドイツに勝った以外は、スウェーデン(写真)、メキシコに敗れた/筆者撮影
ロシアW杯での韓国は1勝2敗。ドイツに勝った以外は、スウェーデン(写真)、メキシコに敗れた/筆者撮影

まあこちらが躍起になる話でもない。

年末年始に日本で高校サッカーの試合をいくつか観ている。トーナメント制、スタンドで応援する多くのサブ選手の存在など、賛否はあるが高校生たちが人生で3度のみのチャンスに賭ける姿はインパクトがある。「これもまた世界ベスト16の国で繰り広げられている風景なんだな」と感じる。過去の結果に浸り過ぎるのはよくないが、そういうフッとしたところでも世界16強の影響を感じるものだ。

韓国がそう言う理由。W杯後の状況

いっぽう韓国は、ベスト16に入らずともドイツ戦の勝利で確かな”成果”を得た。これも確かなことだ。

ロシアW杯後、韓国代表人気がV字回復を見せたのだ。

9月7日 コスタリカ戦(@コヤン)36,127人 〇2-0

9月11日 チリ戦(@スーウォン)40,127人 △0-0

10月12日 ウルグアイ戦(@ソウル)64,170人 〇2-1

10月16日 パナマ戦(@チョナン)25,556人 〇2-2 ※スタジアムの収容人員は3万人。

(ホームゲームのみ)

ロシアW杯前の最後の国内壮行試合でのスタンド。この頃は空席があった/筆者撮影
ロシアW杯前の最後の国内壮行試合でのスタンド。この頃は空席があった/筆者撮影

9月の2試合はともに満員になった。フル代表の親善試合が2試合連続で売り切れとなったのは、2006年5月以来12年4ヶ月ぶりだったのだという。9月11日の「スポーツ京郷」は「韓国―チリ 熱いサッカー熱気、ファンの数のみならずファン層も変わった」と記事を掲載し、内容をこう締めくくった。

「ドイツ戦の勝利により変わったファンの気持ちが、アジア大会に続く※コスタリカ戦の勝利により完全な信頼へと向かった。そうやってサッカーの関心度が高まっていったのだ。韓国サッカーが再び跳躍する絶好の機会になっている」

(※選手の徴兵免除に注目が集まるなか、9月2日の決勝戦で日本に勝ち優勝)

また、以前はサッカー場といえば若者・年配者問わず男性ばかりという印象だったのが、家族連れ、カップルなどが目立つようになったのだという。まあこれとて、日本としては別段驚く数字でもないが。ロシアW杯後、日本だって代表への関心・期待は高い。あくまで韓国側が「ベスト16に入らずとも、ひとつの大勝利で事態が変わった」事例、ということで。

パウロ・ベントの手腕が熱気に拍車をかける

そこには昨年8月に就任した新代表監督パウロ・ベント(49)の手腕も影響している。監督としては2010年から14年までポルトガル代表を率い、2012年ヨーロッパ選手権で母国をベスト4に導いた。現役時代はボランチとしてポルトガル代表のほか、スペインのオビエドで4シーズンプレー。代表選手としての最後の出場試合が02年ワールドカップの韓国戦(朴智星の決勝ゴールにより0-1の敗戦)だったというエピソードを持つ。さらに00年台中盤から後半のスポルティングCP(リスボン)での指導者キャリアでは、クリスチャーノ・ロナウドの面倒をよく見たことでも知られる。

パウロ・ベント監督就任を報じる大韓サッカー協会公式サイト
パウロ・ベント監督就任を報じる大韓サッカー協会公式サイト

今大会、日本にとっての韓国の最初の見どころは、この監督だ。

大韓サッカー協会がロシアW杯後に「監督選出選定基準」を掲げ、担当者が欧州に交渉に出向き、さんざん候補にふられた結果8月23日に就任した。パウロ・ベントは就任会見で、志向するサッカースタイルをこう宣言した。

「攻撃の面ではポゼッションを志向し、ゲームの流れを支配し、最大限に多くのゴールを決めるゲームを追求する。守備面ではいつ、どこで、どのように、どんな強度で相手を抑えるのか。ここを突き詰めていく」

4-2-3-1をベースに、守備ラインからのビルドアップを志向する。就任当初はロシアW杯組を中心に招集をかけ、10月頃から徐々に自分の色を加えていった。就任後、アジアカップ前までの成績は8戦4勝4分。これは97年以降の韓国代表監督の就任以降の無敗記録でもある。

就任以降、韓国代表の選手たちは新監督の良さについてこう言及している。

「攻撃の際に精密さを要求する監督。練習でよくオーガナイズされた内容を消化している。MF陣にはビルドアップでミスが出ることもあるが、そういうときこそ大胆にやろうと声をかけてくれている」(MFキ・ソンヨン)

「細かく、繊細な点までトレーニングで詰めていく。だから楽しい」(MFイ・スンウ)

「ピッチの外では冗談も言う。しかしピッチ内では厳しさをもって指導する。ただし、これが選手に余計な心理的負担を与えるものではない。戦術的には”無理ならバックパスを使ってもいい”と言ってくれる。よって選手はミスを恐れずに、自分のプレーを見せられている」(DFイ・ヨン)

熱心に指導する監督、という姿が見えてくる。

パウロ・ベントに”見るべき点”

日本も韓国も、代表選出において「極東の地から欧州・南米との物理的距離をどう克服し、人材を呼び寄せるのか」という共通の課題を持つ。中国サッカー界が強大な財力を持つ今、この問題で悩むのは世界でも日本と韓国だけだ。

日本は西野朗、森保一と国内監督の時代に入っている。長らく続いた外国人監督の時代を経て、「意思疎通のしやすい国内監督の良さ」を確かめている段階だ。逆に言えば、ヨーロッパで名を成した監督との交渉はさておき、国内監督を選んだ状態ともいえる。

【日韓比較】韓国代表新監督パウロ・ベント就任から考える、日本の「森保一就任過程」の評価

いっぽう韓国は2010年南アW杯で結果を残したホ・ジョンム時代にすでに「外国人監督とは大きくは成果が変わらない」、「ならばコミュニケーションの苦労がないほうを」という点に気づいていた。2010年W杯以降、6人の監督が指揮を執ったが、このうち5人が韓国人監督だ。

そういったなかでロシアW杯後は外国人監督路線に踏み切った。この点に日本が長期的視点で見るべきところがある。この先、外国人監督との交渉に当たる際でのアイデアだ。

「キャリアに陰りが見え始め、アジアでの実績を基にヨーロッパ復帰を切望するモチベーションのある監督の起用はどうか」という点だ。

実際に大韓サッカー協会側も、ロシアW杯後の就任発表時に「このモチベーションに期待したい」と口にした。パウロ・ベントは2014年まで母国代表監督を務めたものの、その後はクルゼイロ(ブラジル)の監督職を1年ともたず解かれ、パナシナイコス(ギリシャ)を指揮した後、重慶力帆(中国)でもまた途中解任の憂き目に遭った。それも、2018年7月21日にされたばかりだった。もうここで圧倒的な成績を収めなければヨーロッパのメインストリームには戻れない。崖っぷち。すぐにキャリアを取り戻したい。そういった切実な背景がある。

日本代表は98年フランスW杯以降、多くの外国人監督を起用したが、いずれもこのタイプではない。フィリップ・トルシエは欧州での実績はほぼなく、「アフリカ・アジアのキャリアから這い上がる」というタイプだった。ジーコ、イビチャ・オシムはもともと日本との繋がりがあっての就任。アギーレはメキシコ代表での実績もあり、自ら余裕をもって新たにアジアでの挑戦を選んだ印象だ。欧州アルベルト・ザッケローニは日本でキャリアを終えた後、欧州には戻っていない。

ソン・フンミンの起用法も焦点に

このパウロ・ベントの存在感に加え、ソン・フンミンの起用法はどうなるのか。これも現時点で言える韓国代表の見どころだ。ここまで多く採用された4-2-3-1では1トップにファン・ウィジョ(ガンバ大阪)が収まり、ソンは2列目に入っている。すると彼の得点力が活かされていない。しかしファンも外し難いというジレンマがある。韓国メディアではソンとファンの2トップ、4-4-2の採用も提案されている。移動直後でコンディション不安があり、チーム練習もわずか1日で16日の中国戦を迎えるソンは、この日ピッチに登場するだろうか。

昨年5月、ロシアW杯前の国内合宿時に開催された「ファン・デー」でファンサービスするソン・フンミン。当時、大韓サッカー協会は代表人気回復策を講じていた/筆者撮影
昨年5月、ロシアW杯前の国内合宿時に開催された「ファン・デー」でファンサービスするソン・フンミン。当時、大韓サッカー協会は代表人気回復策を講じていた/筆者撮影

いずれにせよ勝負は決勝トーナメントからだ。

日韓は双方ともに1位突破もしくは2位突破の場合、順調に大会を勝ち抜けば決勝まで対戦しない。いずれかが2位になれば準決勝で対戦する。

韓国にとっては「日本に敗れて優勝を逃す」という点が国内では最悪な印象になる。逆に日本に勝って優勝すれば、一気に盛り上がる。さらに国内のサッカー人気は持続していくだろう。すると「ベスト16入より、第1シードへの勝利がまし」と言ったロジックが、より正当化されていくのだ。

世界ベスト16の力と価値をしっかり見せつけよう。日本にとってのアジアカップを【日韓比較】という角度をつけた切り口から切り取ると、そういう戦いにもなってくる。「そんなもの、韓国だけの評価だろう」という話かもしれない。しかし評価とはつねに他者が決めるものだ。しっかり大会を勝ちきる。できることなら韓国に勝って優勝する。目に見える結果を残して、自らの価値を実証する戦い。極端な切り口から大会を見ると、そういう意義づけが出てくる。ここから、森保一監督率いるチームの奮起を促したい。

参考:韓国代表メンバー

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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