元W杯代表・秋田豊はなぜ、eスポーツ最強を志す「STAND UP UNITED」にガチ参戦するのか?

9月6日、名古屋市での会見に登場した秋田豊氏。チームではコーチを務める

「ウイニングイレブン」を通じて、eスポーツ最強サッカーチームをつくるという。

そのためにわざわざ会社を設立し、監督とコーチ、特別アドバイザーが就任する。そんな会見に行ってきた。

現在設立中の「eスポーツ ジャパン社」が立ち上げた「STAND UP UNITED」。名前とエンブレムには「再起を誓う者」、「新たなる試みに挑む者」が様々な思いを胸に集まったチームであり、皆に共通する「挑戦」するという思いが込められているという。

そのコーチングスタッフとは......

監督兼代表取締役=岡山哲也(元名古屋グランパスなど)

コーチ兼取締役=秋田豊氏(元日本代表)

そして特別アドバイザーに“ピクシー”ドラガン・ストイコビッチ氏。その他、W杯出場経験のあるGKも参戦予定だという。

当日、会場内でビデオメッセージが公開された
当日、会場内でビデオメッセージが公開された

超豪華。ある意味、ゲームの話なのにまったく大げさ。秋田さん、コントローラーを持ってるプレーヤーにヘディングを教えるんだろうか。

チームはまず、来年9月にeスポーツが文化プログラムとして開催される茨城国体に愛知県代表として出場を目指す。さらには2022年大会から正式種目に採用されるアジア大会、さらには採用が検討されている五輪出場を目指しているという。

ウイイレ挫折派の筆者だが、別の取材がてら名古屋での会見に向かった。

世界では5~6年前から盛んに

eスポーツが、何やら「熱い時代が来る」という話はよく耳にする。先のアジア大会で公開競技に採用されて、サッカー(ウイニングイレブン)では、日本代表が金メダルを獲得した。

そりゃウイイレはメイドインジャパンのゲームなんだから、日本が圧倒的に勝つでしょ。柔道だって、元々はそうだったんだから。

と、いう話でもないらしい。イラン相手の決勝は3試合で2勝すれば勝ちという方式で、初戦を取られる厳しい戦い。なんとか逆転して金メダルを獲得した。

むしろ日本はeスポーツでは「まだまだこれから」。会見で登壇した「eスポーツジャパン」社の立川光昭CMOがこんなことを言っていた。

「既にアメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、中国、韓国ではものすごく盛ん。特にアメリカ、イギリス、マレーシアなどでは大きな大会が開かれると、何万人もの方がスタジアムにお金を払って観戦に来て、ゲームで戦う姿を見る。サッカーのゲームだと、サポーターが歌を歌うようなシーンもある。そのような文化が海外ではもう5~6年前から始まっている」

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世で言われるポテンシャルのひとつはここにもあるんだろう。そんなことも思った。現在アラフォー以降の世代は、多くの家庭にゲーム機があったのではないか。コントローラーの取り合いで喧嘩、なんて懐かしい思い出はないか? 現在はスマホやPCなどの比率も増えたが、かつては家庭でのゲームといえば日本製のハードウェアを使ったものだ。お膝元の日本ではこれが大きく普及した。やる文化の土壌のうえに、観る文化をプラスしていく。そこにはポテンシャルは確かにありそうだ。

ゲームは「実際のサッカー戦術の細かい点も再現されている」(秋田豊氏)

とはいえ、会見ではまだまだチームの具体性は「これから」という部分も多かった。

地元中京大中京高サッカー部出身で、インドネシアリーグ(リアル世界)でプロ経験のある内田宝寿GMが、選手獲得に関してこんな発言をしていた。

「業界の枠組みがまだまだこれから、という側面がある。今月4日に茨城県と日本サッカー協会、日本eスポーツ連合が会見を行ったばかり。選手獲得についても取り決めが今から決まってくるところ。そういったなかで、エンタメ性を高めるためにお笑い芸人に声をかけているのは確か。ただし、それでは実力面が伴わないのでルールが決まった後に真摯にオファーをしていきたい」

内田氏。チームフロントの仕掛け役を担う
内田氏。チームフロントの仕掛け役を担う

”チーム”のかたちもまた、サッカー(ウイニングイレブン)の場合、柔道や剣道の団体戦のように一人ひとりが対戦していく方法やあるいは複数プレーヤーが同時に戦うものなど、様々なものがありそうだ。

いっぽうで、今回の話でもっともチームの姿に具体的なイメージを与えたのがコーチの秋田豊氏の話だった。eスポーツのサッカー競技で指導者とはどうあるのか。

日本代表(もちろんリアル世界の)として98年フランスW杯、02年日韓大会に参加した名DFは、解説業などの仕事に取り組む傍ら、すでにeスポーツでの指導歴がある。

「インターネットの通信制高校『N高(角川ドワンゴ学園)』から『eスポーツのサッカー、ウイニングイレブン指導をしてみませんか』と誘っていただいたのがきっかけです。『実際に自分は何をやればいいの? 』と聞いたら、『本当のサッカーのことを教えてほしいと』。何はともあれ自分でもウイニングイレブンをやってみたんです。全然うまくいかない。でも”知ることが大事だ”と思ったんです。実際のサッカーとゲームの違いは何か。少しゲームをやってみたら『(実際のサッカーのように)なんでもできる』という点に共感を覚えた。だったら細かい、自分のやってみたい戦術を採り入れてみよう、と考えたらそれも出来る。おもしろいなぁと思ったんですよ」

実際のサッカーでは、攻撃している時にDF陣がラインを押し上げるなど準備をしないといけない。ウイニングイレブンは、そういった点も綿密に再現されているのだという。

この時間を通じて、秋田氏自身もeスポーツにはまっていった。

選手の成長に秋田氏が感じたこと「自分がやってきたことと同じ」

一部スポーツ紙やNHKでも報じられたように、秋田氏はN高の部活の特別顧問として相原翼という選手を指導した。先のジャカルタアジア大会で公開競技として開催されたeスポーツでサッカー(ウイニングイレブン)で金メダルを獲得した同校の3年生だ。2年間ほど指導を続けた賜物でもあった。

秋田氏はいったい、選手・相原に何を教えたのか。

「特に守備のことです。彼は最初と現在ではかなり変化していますよ。もともと、日本でのランキングも7位、8位だったんですが、そこから抜け出すことができていなかった。僕がやったことは、何が問題で失点して、なぜゴールが決まりにくいのか。そういった点を話したことです。これはサッカーと同じアプローチでしたよ。彼の課題は守備だったんすが、特にその点は話をしました。失点が少なくなることで、もともとの持ち味の攻撃がよくなっていった。もちろん、僕自身もウイニングイレブンをやってみたからこそ出来た部分もあったんですが、多くはリアル世界のサッカーでのアプローチとほぼ同じでした。彼もまた、実際にフットサルをやってみて『ゲームの中で技を出すタイミングが良くなった』と話をしていましたよ」

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そういったなかで、秋田氏自身もさらにはまっていく要素が出てきた。

選手の成長だ。

「相原くんは最初、話すことが本当に苦手だったんですよ。コミュニケーションが得意ではなかった。何か質問しても、答えが返ってこなかったりとか」

しかし、eスポーツをやることで変わっていったという。

「人前に出てインタビューを受けないといけない、といった機会ができたことで、すごくしゃべるようになった。これは彼自身の成長だと思うし、eスポーツをやってきたことの結果だと思う。こういったことも『STAND UP UNITED』でやっていきたいんです」

その志には秋田氏自身の経験と重なる部分もあるという。

「何かをきっかけに人は変われるし、成長できる。僕は(リアル世界の)サッカーを通じて色んなことを学んできた。eスポーツでも同じことなんですよ。コミュニティができれば意思疎通をしていく必要が生まれる。勝つ、という目的のために取り組めば気持ちも変わってくる。この先、リアル世界のプロサッカー選手のようにeスポーツのプレーヤーもお金を稼げる時代になっていくと思う。そこに対して夢を見るというのは、僕らがJリーグや日本代表に抱いてきた夢と、同じことだと思うんですよね」

最強チーム宣言に続いていく「輪」

”最強チームを作る”という宣言が会見のメインの主旨だったが、紐解いていくと「ゲームを観る、応援するという文化に多くの人が関われる環境をつくりたい」という話が散りばめられていた。立川CMOは「そのためのプラットフォームづくりです。アプリなどを通じ、皆様が観戦文化に加われるようにしたい。将来的には世代間融合、福祉施設との提携なども行っていきたい」という。

秋田氏の名古屋グランパス時代の同僚で、現職の中京大中京高サッカー部監督を務めながら、新会社の代表およびチームの監督に就任する岡山哲也氏も会見でこう言い切っていた。

新会社代表権監督の岡山氏。自身がグランパスのために献身的に戦った経験も「みんなの輪」の大切さに気づくきっかけになったという
新会社代表権監督の岡山氏。自身がグランパスのために献身的に戦った経験も「みんなの輪」の大切さに気づくきっかけになったという

「やりたいことは輪をつくることです。セカンドキャリアでは多くの人が輪に加われることがやりたい。これがeスポーツでした。例えば実際にプレーしてみるという面で見ると小学生対おじいちゃん、男性対女性、日本の子ども対ストイコビッチ、そういうこともできますから」

まだまだ分からない部分も多い「eスポーツ最強チームプロジェクト」。とはいえ、ここまで伝わってきたニュースの多くが「業界の動き」や「大会の動向」だったなか、初めて実際に動く「チーム」について聞いた話だったなと思った。